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 SSR (2)

 キラに関わる情報交換、いくつかの別事件の捜査について警察庁としての説明をしたりと、京都府警本部で忙しく動き回っているうちに日が暮れてしまっていた。
「御苦労さまです。夜神さん、宿は取ってますか?」
「いえ、これから京都地検で人に会う約束がありますのでそれからですね」
「…まあ無理せんと、宿もいざとなったら病院に駆け込んだほうがええやろねえ。こちらから何人か東京へやるべきでした。ほんま無茶しすぎですわ、夜神さん」
 今日は月の案内役兼サポートに徹していた刑事が頭をかく。月よりも年が上だろうが会議に出ていた担当者たちよりは若い。松田と同年代かもしれないと月は思いつつ、慎重に言葉を選んだ。痛み止めの薬を飲んでいるが、気を許せば倒れてしまう。
「見た目ほど大したことはないんですが、明日は病院に寄ってからこちらに伺います。無理を言っているのでこの言いつけだけは守らないと」
「そらそうです。そこの日赤ですか?」
「いえ、京大病院です」
「そうですか、ではこっちの者にもそのように伝えておきます。あ、そうそう、お家のほうからええもんいただいて、ありがとうございました」
「はい?」
「芋羊羹の20箱づめ二つ。菓子類に目がないのばかりなんであっという間になくなりました。お名前が夜神さんになってましたので…奥さんですか?」
「い、妹です……本当に送ったのか……」
 痛みとは別の衝動から眩暈が起きたが、辛うじて踏ん張った。
 
「で、鞄のなかにもあった芋羊羹。京都府警とは別件で人に会うことは言ってあったからな」
「あ、ありがとうございます」
 魅上と合流した月は鞄の中から箱を取りだしていた。粧裕に荷物を任せたので何が入っているのか分かっていなかったのだ。
 魅上が運転する車の中でようやく息をついた気分になった。昼間から薬を飲みつつ体調をごまかしてきたツケがきたようだ。
「あの車は」
「廃車処分しました」
「そうか、助かるよ。……これは」
 後部座席に座っていたが、ふと片側を見ると袋があってそこから塩の小瓶がのぞいていた。持ち上げて開けると、胡椒や七味などの調味料が一式入っていた。
「…………ニアか」
「……ええ。あの電話のあと、家中の調味料をかき集めて渡そうとしなかったもので」
「……かわいいところがあるじゃないか、忌々しい印象しかなかったんだが」
 怪我の個所にこんなものをぶちまけられたらかなわない。とはいえ、ニアの抵抗の手段はこれぐらいしかないから対策も簡単である。
 容易に逃げ出せる環境、容易に連絡をとれる環境にあるが、それら一切、行動に移せないことをニアはよく分かっている。
「ニアはこちらに夜神さんが来ることを察知しているようです」
「朝に荷物を運び込むよう業者に頼んであったから、大方の予想をしているんだろう。とりあえずお前の部屋の隣を購入したが、そのうちあのマンションごと買い取ろうと思っている」
「え、資金は?」
「大学のころからの副業で貯めていたのが」
「はあ」
 口調は平然としているのだが、みやげを取りだしたあと、荷物に突っ伏したような格好から動かない。
「夜神さん、本当に大丈夫なんですか?」
「え? ああ。もうひと仕事残ってるから根性だすさ」
 ゆっくりと顔をあげ、冗談めかして言う月に一抹の不安を覚える魅上だった。

 夜神月が来る。それならば死神もそばにいるはずだ。殺人ノートの詳細を知るには死神と接触したほうが確実だ。…夜神と共謀していないかぎりにおいては。
 ニアはデスノートを月と魅上から奪うことが、自由になる唯一の方法であると結論を出していた。命どころか外部との連絡すらままならない。
「…レスターたちがまだ日本にいるか…」
 ニアの生殺与奪は完全に月にある。デスノートの力でただ殺されるだけではなく、死の直前の行動をコントロールされれば、たとえばSPKの潜伏先を推測せよと言われればどんなことになるか。
 彼らがキラとのたたかいを諦め、アメリカへ帰っていることも考えられる。自分の状況を考えるとその方がいい。
「本当に一人に…」
 倉庫炎上のあの日からの唯一の持ち物が入ったポケットを上から握った。魅上に知られていない小さな手製の指人形だ。車の中に置いてきたつもりだったが何故かメロを象った人形がポケットのなかに入っていた。
 顔に傷があるその人形は特徴がありすぎて、これをもとに探し出しかねない。夜神、とくに顔を見ただけで名前が分かる魅上に知られるわけにはいかなかった。
 どこかに捨てようとしたが、どこも見つけられそうな予感がしてずっと隠し持っている。
 隣室に運び込まれた荷物は、家具はベッドに大型本棚数個、パソコン、あとは大量の段ボール箱だが、書籍だろう。京都にいる間の拠点にするつもりなのか。
「警官としての立場は捨てられない。キラとしての活動も場所を選ばないはずだ」
 先日の電話でのやりとりを思い出した。今度は動揺を見せられない。
 玄関から扉が開かれようとする音が聞こえてきた。

 たしかにドアを開ける寸前まで、自分の肩に手を置いて、足取りも、背中から全身に広がった激痛のために頼りなかったはずなのだ。それが、ニアと対面となった瞬間に背筋を伸ばし、ニアが座りこむソファに歩み寄る足は先刻の様子など微塵にも感じさせない。ともすれば、あれは月特有の冗談だったのではないかと思うほどだ。極端な変わりように魅上は、夜神月本人の性格のためなのか、ニアという少年にはこれほどの警戒が必要なのかが分からなくなった。
 ニアのほうは、先日の電話での件での動揺を見せまいと、月を正面から見据えていた。黒い大きな眼に威圧をはらんだ強い光を宿らせている。
「へえ、あらためて見ると目以外は竜崎に似てないな……あいつの子どもだと思ったが歳が近すぎるかもな」
「竜崎?」
「Lのことさ」
 手前で立ち止まり覗き込む月は無論、ニアの威圧などものともしていない。魅上からは見えないがニアの表情が険しくなったところを見ると、月も剣呑な目つきをしているのだろう。
 ニアは呆れていた。上半身に重度の火傷を負っているはずの男が平然と立っていて、自分を見やっているのだ。ニアが知っている範囲では、月は体力的には平均成年男子と変わらないはずで、だとすれば無理をおして東京から遠く離れた京都に来たということになる。これが原因で後遺症を引き起こせばいいと内心で毒づいた。
「……本当に来るとは思ってもみませんでしたよ、ヒマなんですか、神様ゴッコのほうは」
「いや、そうでもない。先月の件でようやくあぶり出せた連中もいるんでな。それに本業はもとよりLとして別件捜査も再開したから休む間もないさ」
 キラやキラに結びつく固有名詞を出さないというのに、極秘事項であることは変わりないLの名はあっさりと出す。目の前の男が何者であるかを新たにする。
「…そうでしたね、忘れていましたよ。あなたが二代目のLだということを」
 Lの後継として育てられたが、L本人のことは何も知らない。この男は知っている。Lはこの男に殺された。推理以外何もできないニアにとって、Lの後継とは生きる術そのものだった。そしてそれを取り上げたのは夜神月だ。
 混乱する感情が、声の震えになって現れそうになるのを堪えた。

 月は僅かに揺らいだニアの黒い瞳を見逃さなかった。竜崎と同じ目だが、竜崎は感情をまったく表に出さなかったことを思うと、もう少し揺さぶりをかけてみたくなった

08.06.07
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