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SSR (8):01
春先の光が室内を満たしていた。日当たりの良い部屋で、そのなかでもとくに良い位置に置かれたソファには、銀色の髪の少年が眠り込んでいた。余程深い眠りなのか、傍らで見下ろしている人間がいることに気付く気配すらない。その部屋にはもう一人、せわしなく、しかし音を立てないよう動き回る者がいた。小さな機械を部屋の至る所に忍ばせていく。
『……たった一ヵ月でずいぶん痩せたな』
魅上の寝室から持ってきた毛布をローテーブルの上において、ニアを起さないよう、ゆっくりと膝をついた。
丸い輪郭をもっていた顔は、その柔らかな線が消えてしまっていた。やつれたことと、少し伸びた髪のせいもあって印象が変わった。
身なりは、あの日の服装ではないが、清潔な厚手の白いシャツを着ている。大きなポケットもあり、ニアがいかにも好みそうな服で、どうやら魅上はニアの希望に沿ったものを与えているようだ。
気付かれないよう、細心の注意をはらってニアのポケットのなかを探る。幸い、目的の物はすぐに見つかった。小さな黒い指人形だ。顔に大傷がある人形で、本人の特徴をよく捉えている。少しの間、それを眺めて自分のポケットに入れた。そして、別の、今度は白い人形を取りだす。目が飛びだしたようなユニークな顔つきの人形で胸には“L”とある。この人形は、ニアが最初に作った、自分の人形の型をそのまま使い、作りは適当なもので、“L”という文字が何を指すのか分らなければ、誰かを模した人形であることなど分らない。
Lは世界中の捜査機関のトップにあるという探偵で、性別、年齢、国籍が一切極秘、キラという前代未聞の大量殺人犯の出現がなければ、世間一般には名前すら知られなかっただろう。
そのLを象ったこの人形は『似ていない』という。作成者であるニアはLの後継として育てられたものの、L本人とは会ったこともないというから、不出来なのは仕方がないかもしれない。中に詰め込まれていた紙片を取りだし、急ぎ、何かを書き記す。そうして詰め直して、人形をメロ人形のかわりにポケットにそっと入れた。
『このまま連れ出せないのが辛いな』
毛布を掛けても、身じろぎすらしないニアが不憫に思えてきた。顔色が良いとも思えず、よほど疲労を貯め込んでいたのか。
「…こっち完了。そっちは?」
「終わった。起してしまう前にひきあげよう」
「じゃ、ちょっとこの余ったのをニアのソファに…」
「起きるぞ」
「大丈夫だって。眠ったニアは蹴飛ばしても起きないよ」
「蹴飛ば…」
気軽に言ったものの、慎重に、ニアにふれないよう、ソファの隙間に機械を入れていった。
08.07.18
区切りのいいところで
ちょっとずつ……
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