abouttextblog

 

 桂 花 (2)

 久し振りに会ったニアは、容姿が驚くほど変化していた。カメラ越しで一度見たが、それから二ヵ月たった今、さらに大人びた印象をもったのは、髪が少し伸びたからか。細く長い指にからめているのは癖なのだろう。
 日が落ちた。モニターの灯りで、ニアの銀髪がほのかに光る。ニアが立ち上がり、振り返った。
「で、今日はなんの用です。わざわざこんなところまできて魅上と相談というわけじゃないんでしょう」
 世間では「キラの大粛正」と呼ばれる、世界各地で発生した大量死現象が引き金となり、非合法組織間の抗争が激化した。キラはその行動を止めたかに見えたが、新たに表舞台に出た犯罪者たちが闇に葬られていることを知られていないだけだった。
 周到に緻密に練られた計画を、月は滞りなく実行していた。
「お前の顔を見にきた」
 隠すこともなく、本当のことを言ったのだが、ニアは露骨に訝しげに表情を険しくさせた。
 相変わらず、袖からのぞく手首が細い。大きなポケットがある、だぶついたシャツのために、余計に強調されているのか。そして同じくだぶつくズボンは、踵が裾を踏みつけていた。顔つきの印象が変化したのに全体の心もとなく華奢な様子は変わらない。月も立ち上がった。
 数歩足を進め、ニアの正面に立つ。以前は見下ろしていたが、もうその必要はなくなっていた。
「本当にずいぶん身長が伸びたんだな…」
 頬に触れようしたら即座に逃げられた。しかし、後ろに下がった拍子に、ニアは足下の書類の束を踏みつけてしまった。バランスを崩そうとしたところを、月はニアの腕を掴んで引き上げた。
「裏目に出たか?」
 からかうように目を覗き込んだ。ニアは悔しそうに唇を噛んでいる。
「…手を放してください」
「どうして?」
 月の声を聞くなり、ニアは掴まれた腕を引き離すべく暴れようとしたが、月はさらに引き寄せ、ニアの身体を抱きしめた。
 強張った背にゆっくりと力を込めていく。厚手の布の中の身体はしなやかに伸びていて、半年前とは別人のようだ。
 そのとき、ふわりと微かな花の香がした。ニアの身体からだ。ようやく思い出した。
「金木犀か。そういやそんな時期…、いやもう過ぎているか」
 ニアの首筋にそっと口づけると、また香る。金木犀は庭木としては珍しく無い、ありふれたものだが、薬品の匂いに鼻が慣れてしまっていた月は思い出せなかったのだ。
 何気なく、ニアの後襟に指を差し込むと、橙色の粒が数粒零れ落ちた。ずっと部屋の中に篭りきりだと思っていたが、たまには外に出ているらしい。そういえば、夏に臥せったとき、魅上が、涼しくなればニアに、まずは散歩からさせるつもりだと言っていたことを思い出した。健康管理まで気を配る監禁など、聞いた事がない。
『…魅上は監禁しているつもりなどないからな』
 苦笑を収めると、少し身体を離した。逃れようとしたニアの顎を抑えて、深く口づけた。

09.1.1

間に合いませんでした…(^^;)
次はたぶん、15R…

あとがき?→

<(1) (3)>

abouttextblog

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル