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28 Aug 2010 (3)
深夜の病室。
月はうつ伏せでノートパソコンを覗き込むような格好で操作していた。十数件の事件のデータを解析しては関係部署に送信している。
そして、“L”として請け負っている事件も十数件抱えていた。ニアに任せていた事件とは別にである。現在、Lは二人いる状態だった。
京都行きを強行した結果、向こうの医師と結託しての麻酔での押さえ込みに遭い、懲りた月は、それ以降は担当医の指示を大人しく聞いている。担当医も、病室で仕事をする分には何も言わないので、月の周囲は平穏平和である。粧裕の機嫌もようやく治った。
今回の入院が最後になるはずだった。先週、二度目の背中の手術を済ませ、経過も良好だった。
短くビープ音が鳴り、画面の隅に小さくスクリーンが現れた。通信先の部屋の壁と画面下部にはおもちゃの小さなロボットとアヒルの人形がある。
「………ニア、どうした」
『先週の身代金誘拐事件についてです。解決したんで今からデータを送ります。あと別件も』
「ああ」
白い手が下から伸び上がり、キーを叩いていく。まったくの手探りでよくも器用に動くなと、月は内心で感心していた。
「お前、まだ夏バテなのか」
『死にそうですよ、あなたにかかるまでもなく』
「そういう口が利けるなら大丈夫だな」
また新たなスクリーンが現れ、小さな文字の羅列が下から上へ流れていくのを見つつ、視界の端で、ニアの手の動きにつられて、ロボットとアヒルが左右に離れていくの見て、向こうの部屋の惨状を思った。床には捜査資料とおもちゃが散乱しているに違いない。
『この国の暑さは異常です。冬はあんなに寒かったのに』
「夏は亜熱帯だと思って諦めろ」
『湿気も酷いし、身体中の関節が痛んで眠れないし』
「……前に怪我をしたとして、その後は湿気で鈍痛が起きることがあるらしいがな」
『魅上はインフルエンザを疑いましたが』
送信の作業が終わり、次に指がなにかを探るように画面下部を動き回っている。
「−−ロボットならもう少し右だ、ニア」
『どうも』
ひょいとロボットを掴みあげた指は、改めて見ると異様なまでに細く長かった。
08.09.01
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