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28 Aug 2010 (5)
『やっと怒りましたか、そのほうが「らしい」ですよ、夜神月』
去年を思いだします、と言ってまた笑った。
「お前はなにを…」
最後まで言い終えることができなかった。画面が切り替わり、ニアの顔が現れたからだ。顔、というよりカメラが高いところにあるのかほぼ全身だった。
仰向けに寝そべり、左手にロボット、右の指は銀色の髪をからめている。不敵な笑顔で見上げる眼は冬のときにくらべて切れ長になったようだ。いや、これは…。確かめるべく、スクリーンを最大サイズにした。
「−−−関節の痛みは成長痛じゃないのか、ニア」
怒る事に馬鹿馬鹿しくなった月は、ため息をつきつつ言った。
『せいちょうつう? こったんしょうという言葉が医師からありましたが』
「−−お前、冬に会ったときと印象がまるで違うんだ。ありていにいって縦に伸びている」
『……私は粘土細工じゃないですよ』
今まで、通信は映像を伴っていたが、ニアの横着と月の怪我の状態がかさなり、ほぼ声のみのやりとりだったのだ。
画面のニアは甚平を着ていた。涼しいと思ったらしく、何着か買ったと聞いている。今着ているのは紺色の無地のものだった。白い肌と銀髪が紺色に映えている。
少し寝乱れた襟元から何の跡もない肌が覗いて、違和感を覚えた。その違和感に月は自分の思考に疲れが出たことを自覚した。
跡が消えていて当たり前だ。あれから何ヵ月過ぎていると思うんだ。
虚ろな目で見上げるニアが脳裏に蘇った。あの時の幼い面影が今は消えているというのに、きれいに重なり、混乱する。
背中の火傷のために俯せ状態でPCを覗く月と、体調不良のために起き上がれず仰向けでカメラを見上げるニアの状態は、互いに姿勢が悪すぎると月は無理矢理に結論づけた。
『まあ冗談はここまでで、さっきの資料はいつ頂けますか?』
「…まて、今送る」
多少、乱暴になる操作で、警察庁のデータベースにアクセスした。ニアに気取られず混乱を沈めるためだ。ニアは、月の返答に満足したのか、さらに別件の事件の進捗状況の報告を始めた。依頼の経緯に少し複雑な背景のある件だった。
聞きながら、ニアの個人情報を出していた。本名から意外に簡単に辿れたのは、経歴がほとんど何もない状態だったからかもしれない。今まで学校にも行かず、育った養護施設から一歩も外に出ていないようなもので、分かったことは誕生日だけだった。
24 August 1991。
この日、ニアはワイミーズハウスに入所している。生まれたばかりの状態だったようだ。だから正確な生年月日は23日か22日あたりかもしれない。
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