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28 Aug 2010 (6)
キータッチの音がやけに大きく聞こえてくる。叩きつけているようで、ニアは、月がまだ苛立っていると思った。
思うように回復しない体は起き上がるだけでも辛く、憎まれ口を叩けるのも寝転がっているときだけである。
「で、このまま捜査を続けるとA国政府内に及びますが、いいんですか。依頼したA国の不利益にも繋がる」
『ああかまわない。依頼料はすでに入金済みだからな』
「…そういう問題なんですか」
ローテーブル上のノートパソコンから受信のアラームが鳴った。捜査資料が到着した。
『ニア、今送ったデータのことで二、三ある。確認してくれ』
「…わかりました」
だから起き上がれないと、とぶつぶつごちりながらも、もともとこの通信は自分からだからと、渋々と起き上がった。途端、視界が揺らいで慌ててローテーブルの端に掴まった。
『…お前、本当に調子が悪いんだな』
「…仮病とでも?」
『その態度のでかさじゃ、ひ弱ぶられてもわからない』
「…これでもちゃんと熱があるんですよ、38度ほど」
ノートを掴んでそのまま寝転がる。その動きにつられて、ノートパソコンに繋がっていたコードがいろいろなものを床に落としていったが気にしない。
目当のファイルを開くと、画面の隅に小さくなっていたスクリーンに眼を向ける。月の顔があった。
首もとに包帯が見える。月の背後に見える発光している何かを確かめたくて、スクリーンを最大サイズにした。
「−−夜神、どういう姿勢なんですかそれは」
『−−お前がそれを言うのか? 僕は背中のせいでこの姿勢しかとれないんだ』
発光体は天井の蛍光灯だった。背後に天井ということはうつ伏せて画面を覗き込んでいるということだ。そして自分は仰向けである。
「…これじゃまるで……」
あの時の、と口走りかけた。組み敷かれて味わった屈辱と羞恥と、様々な感情が蘇る。
『まるで、なんだ?』
「な、何でもありません。ファイルは開きました。どうぞ」
月の声が呆れ果てたようにも聞こえたが、なにかを含んでいるようにも思えた。しかし、そのなにかを吟味するほど、ニアは無神経ではないつもりだった。自分でもわかるほど顔が赤くなってくる。
08.09.12
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