Bush clover 2
深みのある赤い髪と明るい緑色の瞳の少女を見下ろしている自分を離れたところから見ている気分だった。何が起きたか理解出来なかった。
腕に飛び込んできた少女はよく知っている。そして昔に何度も飛びつかれ、その度に背後からジェームズの呻きともため息ともつかない気配を感じていた。今はそれがない――。
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いつものんびりとして穏やかで、それでいて教壇に立つルーピンの明晰さしかしらない周囲の生徒が、動揺しきっている彼に困惑している。
「リーマス、あなたちゃんと食べてる?また平気で三日間絶食なんてやってないわよね?」
「い、いや…リリー…?」
「ルーピン、何事だ」
スネイプが続いてやってきた。
「この非常時に戯れとる…」
「お、スネイプも固まった」
「まあ! セブルス・スネイプ!」
「お、お前はっ?!」
「まあまあまあ! 随分人相が悪くなって…だから言ったじゃない、顰めつらせてばかりだとそのうちそれがデフォルトになっちゃうって!」
ルーピンを放して、今度はスネイプに迫っていった。
呆然自失の態で立ちつくすルーピンの腕をフレッドがつついた。
「先生?」
「あ、ああ、すまない。グリフィンドール、スリザリン、全員集まって」
戸惑いつつも、生徒たちがルーピンの周囲に集まった。
スネイプはルーピンたちとは大広間の反対側に少女といた。追い詰められている。
「先生、知ってる子?」
「彼女は過去、この学校にいた生徒だ。どうして現れたのか…いやどういう存在かも判らないが」
「…死んだ人ですか?」
「……彼女の名前はリリー・エヴァンス、彼女は私とスネイプ先生と同期生だったんだ」
ざわめいた生徒たちを宥めるため、早口に後を続けた。
「彼女がゴーストなのか、いや実体を持っていたから違うか。とにかく、彼女のことは他の生徒に言わないで欲しい。特に…」
「特にグリフィンドール、お前たちはポッターに口を滑らせるな。知れた暁には全ポイント没収と思え」
「ええっ?! そんな〜」
「…セブルス、私が強調したかったことはそこじゃない」
「……スリザリンもだ。繰り返す、ポッターに知られるな」
盛大な溜息が辺りに広がった。
「そんなに危険人物なんですか?」
「危険というんじゃ…」
ルーピンが説明しようとしたとき、スネイプが資材の山に振り向いた。
「エヴァンス! 今ポケットの中に入れたものをもとに戻せ!」
「はぁい」
くびをすくませ、少女は大人しく鉱石を出してテーブルに置いた。あまりわるびれた素振りはない。
「うん…危険かもしれない」
「先生、彼女はハリーのお母さん?」
グリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンが手を挙げた。その言葉に生徒たちが顔を見合わせる。
「その通りだ。よく分ったね」
「そりゃあ先生たち、とても慌ててハリーに内緒だなんて言うんだもの。それにあの人の眼、ハリーと同じだし」
教師二人が顔色を変えているのに納得がいった。
「…ハリーにバレるとややこしいことになりそうだけど、あの人にハリーのこと知られても?」
「…非常によくない」
「ルーピン?」
「彼女、五年か六年ぐらいだろう?」
「知らん」
「リリー」
「何?」
「…だから持ってるもの、もとにね。君は今何年かな」
「五年生よ?」
「ありがとう」
「…この時期の連中の仲は確か」
「あんまりよくない。ジェームズの一方通行だった…」
「…まずい。ゴーストだか何だか不明だが記憶が当時でストップしているとなると真相を知れば何をするか」
「パニックを起こして力を暴走させるのは確実、この大広間ぐらいは破壊するかもね」
「暴走ってハリーじゃないんだし」
フレッドが『大げさだよ〜』と暗に言うと、ジョージが後を続けた。
「そのハリーにしたって、せいぜい叔母さん膨らます程度だよ。いや、見たかったねえ」
しかし、二人は次第に黙り込んだ。ハリーが、かの闇の魔法使いを若干一歳にして撃退している事実を思い出したのだ。そして昨年、一昨年の事件も。
「…ハリーの外見は父親似だけど魔法の発現の仕方は母親にとてもよく似てるんだ。リリーも一度、同じことをしている」
「げ」
「……あったな、そんなことが」
生徒全員が息を飲み、スネイプは昔を思い、頭をふった。
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「くびをすくませ…」の「くび」って「首」で良いんですよね.
この場合「あたま」の意味で、頭と胴体をつなぐ「くび」は「頸」とか。
「首」でもかまわないのは知ってるんですが(今、辞書みました(^^;))、
なんかこう、しっくりこない…(単にものを知らないだけ;)
2005.9.2
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