Bush clover 3
「愛の妙薬? 止めときなさい。あれはややこしくて作ってるうちにばかばかしくなっちゃうんだから。さっさと告白しにいった方が早いわよ。あ、そこの石、右の箱に入れてね。素手で触ると火傷するわよ」
生徒たちと打ち解けてしまった少女を遠目にルーピンとスネイプは対策をこうじていた。
「…彼女、仕切り出したね」
「興味の対象がほかに向けられぬ限りはかまわん」
「…どういう現象だろう。ゴーストじゃないよ」
「…前期の話は聞いているか?」
「ああ、日記帳に記憶を残していたって話…彼女もその可能性が?」
「物に記憶を残す魔法は闇のものでもなんでもない。実体化も意思の強さ如何で可能となる」
「リドル氏はジニー・ウイーズリーの魂を糧に日記から抜け出したと聞いているけどね」
「…本来なら必要ない。しかし生贄を好んだのだろう」
「……」
「何だ」
「いや、何でもないよ。とにかくどうしようか」
「本人をまず尋問。もし何かを媒介して出現しているならそれを処分」
「誰が尋問を?」
「お前だ。付きあっていたこともあるんだろうが」
「……ジェームズが化けて出てきそうなこと、言わないでくれるかな……そういうことはなかったよ……」
椅子に座り込むと、ルーピンはスネイプを見上げた。
「ダンブルドア先生に報告しといてね」
「……オレがかっっ!?」
「リリーの世話をする? どっちかだよ」
無情の選択を迫られ一瞬動転したが、考えてみれば選択肢などありえない。
「……報告は、我輩がいく。ルーピン、さっさとあれを霊界だかなんだか…」
突然、離れたところから歓声のような声があがった。女子生徒たちだ。
「ウソー、リリーって愛の妙薬飲んだことあるの?」
「ねえ、どんなだった!?」
「飲んでない、飲んでないっ! 食事のとき、飲みものになんか仕込まれてたのね。取りあえず、ちょっとだけ他に取っておいてあとで調べたら」
「ちょっとだけって…あとは捨てちゃったの?」
「ううん、もったいないから、あそこの黒いローブのひとのに入れちゃった」
「…あ、セブルス、落ち着けって…行っちゃったよ…」
スネイプのローブを掴みそこねたルーピンは呟き、成り行きを見守った。いざというときは生徒達を避難誘導するのは自分の役目だ。
「エヴァンス。興味深いことを言ってるな」
「あら聞こえちゃった?」
「聞こえるように言っているように思えたのだが?」
「あの薬ってさあ、男が作っても効き目無いみたい。あいつが調合間違えるとは思えないし」
潮が引くように周囲の生徒が離れたのにも関わらず、リリー・エヴァンスという少女は、その印象的な瞳をきらめかせてにスネイプ教授を見上げた。
「あなた、しっかりぜんぶ飲んじゃったけど、その直後にポッターたちとケンカ始めたもんねえ」
ぐらりとスネイプの身体が傾いだ。それをなんとか転倒だけは免れたのが、遠巻きにしていた生徒達にもよく分かった。
「…みんな、よっく見とけ。スネイプ攻略の要点が今、まさに目の前に展開されているぞっ」
フレッドが尊敬の眼差しでリリーを見つめ、ジョージにいたってはメモまで取り始めている。
クィディッチの寮対抗線では解説とアナウンスを同時にこなすリー・ジョーダンが小声ではあるが実況をはじめ、そのそばでアンジェリーナをはじめとする二寮の女子生徒達は愛の妙薬の効能、製造方法について真剣に意見を交わす。
「い……いつの話だ」
「今朝。ええと、あなたの感覚だと何年前かしら? 愛の妙薬だって確証はなかったんだけど、匂いがなんとなく。で、もしそうなら試してみたくなるのが人情ってものでしょ?」
「それでわざわざ席が離れているオレのに入れたってか」
「だってブラックのに入れたっておもしろくないじゃない。あの二人、なんもなくてもラブラブだし」
肩を震わせ、激高寸前だったが大きく深呼吸をした。彼女の時間から数年後、夫になる(この時点ではその気配は微塵もないが)男の名と自分たちを死に追いやる男の名を言える彼女は何も知らない。
本当に何も、知らない。
「十八年だ」
「はい?」
「エヴァンス、お前の主観より数えてここは十八年経た世界だ。好奇心が満たされたのならさっさと帰れ」
ローブを翻し、周囲をねめ付けた。生徒達はびくりと硬直させた。
「資材を早急に倉庫へ。監督生は後で報告にこい。我輩は校長室に行くが、作業終了後解散だ」
「はいっ!」
少女には目もくれず、スネイプは大広間を出ていった。
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2005.9.10
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