Bush clover 6

「ルーピン、さっさとそれを飲んで持ってこい」
「はいはい」
 努めて明るく応じるルーピンの手元を、何も知らないリリーが覗き込んだ。
「なにそれなにそれ?」
「……体質改善の薬だよ」
「……毒薬にしか見えないんだけど?」
 興味津々でじっと対象物を見つめる彼女の視線が、子どものころからリーマスは好きだった。あまりにも記憶通りで、彼女が何かに封じられた思念が実体化した存在だとは思えない。
「セブルスが作ってくれたんだ。最初は自分で作るつもりだったんだけど」
「リーマス。ダメよ、薬の調合しようなんて。良くてナゾの発光体が出来るのが関の山なんだから。一昨日の授業も大騒ぎしたじゃない、あ、一昨日っていっても覚えてないか」
 大まじめな彼女の顔を見て、思わず笑ってしまった。
「ねえ、ちょっとそれ、なめていい?」
「え?これは健康な人が飲むもんじゃ…」
「一目で美味しいものじゃないのはわかったけど。こんな凶悪な色のお薬って初めてみた…さすが十八年後の世界だわあ」
 じっとゴブレットのなかを見つめたままで言うリリーに困って、スネイプを見上げた。が、スネイプはにやりと笑っている。
「少々なら影響はないだろう」
「ね、作った人が大丈夫って」
「……ほんとうに少しだけだからね」
「わかってるってば。リーマスったらすっかり先生になっちゃって」
 机の向こう側から身を乗り出して動こうとしないリリーに根負けして、ゴブレットを渡した。
「そんなに心配そうな顔をしなくても、リーマスの薬を全部飲んじゃうなんてことはしないから」
「いや、たぶん、ムリだと思うよ……」
 両手でゴブレットを包むように持つと、そろそろと口を近づけた。
「匂いは無いのねー」
「うん、まあね」
 そして、
「○△■×◎っっ??!!」
 あわててゴブレットを机に置いた。そして、口をおさえてきょろきょろと見回して、開いていた扉の向こうに蛇口を見つけ、すぐさま飛び込んだ。
「……これで少しははた迷惑な好奇心の遺伝子を抑制できればいいのだが」
「……セブルス、彼女は過去から来たと思ってるのかい?」
「わからん。だが、そうだとすれば今から予防線を張っておこうとな。ポッターのどこでも首を突っ込む性格はまちがいなく、エヴァンスからだ」
「ジェームズも似たようなもんだったけどね」
「ヤツはその後の影響を考慮していただろう」
「……よく見てたね」
「り、りーます〜〜〜……な、なんか口直しできるものない……?」
 よろよろと部屋から出てきたリリーは涙目になっていた。
「では、ルーピン。残りを飲んで持ってこい」
「はいはい」
 ほくそ笑みながらリリーを一瞥し、ローブを翻して出ていった。

 スネイプの足音が遠ざかっても、リリーは事務机の端に縋り付いた姿勢のままだったが、少し顔を上げた。
「う〜〜〜〜〜、よくそんなの飲めるわね」
 涙目もそのままだったが口調はもとに戻っている。ルーピンは苦笑して、薬の残りを飲み干した。
「まあね馴れれば大丈夫。…これは必要なことだから」
「そんなに痩せてるの、その薬のせいじゃないでしょうね」
「違うよ、長いこと不摂生なことしてきてるから」
「………ちゃんと食べなきゃだめ。お腹空いてなくても、何か食べるようにクセつけなきゃ」
 なぜか、ルーピンは彼女が違うことを言いたかったのではないかと思った。
 もうこの世にはいない少女が今目の前にいる。ゴーストではない。
 少女、ではなかった。亡くなった時には成人していて母親となっていた。違和感を感じられずいるのは、ルーピンは母となった彼女を知らなかったからだ。ようやくそのことに気がついた。
「紅茶かココアかどっちがいい?」
「紅茶。あ、今ならチョコレート、大丈夫かも」
「はは、良かった。チョコレートならたくさんあるから」
 そう言って色とりどりのパッケージのチョコレートを机の上に積み上げる。
「うわ。カエルチョコばっかりじゃない。あ、パッケージかわってる」
 呆れたように呟いたリリーの前に、杖を振るって紅茶を出した。
「どうぞ。これから僕は授業だけど、動き回っちゃだめだよ」
 たぶん聞かないだろうなと思いつつ、そして授業の資料を鞄に入れながら言うと、リリーはこっくりと頷いた。
 微笑んで部屋を出ると、ゆっくりと息をはく。ルーピンは今日の授業にハリーのクラスが無いことに安堵していた。

Back<   >Next

2005.10.1

Topコンテンツテキスト

 

 

 

 

 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル