Bush clover 7

「あ、いるいる」
 アンジェリーナは、箒の調整がてらルーピン教授の事務所付近を旋回していた。朝の授業のときに出現した少女がいると思っていたらその通りで、窓際で紅茶を飲んでいるのが見えた。
 窓のところまで降りていき、ガラス戸を軽く叩く。少女がはじかれたように振り向いた。
「なにしてるの?」
 アンジェリーナは急いで窓を開けた少女の目線で箒を停止させた。
「ん〜、いちおう、軟禁?」
「な、軟禁って」
「うろうろされると困っちゃうみたいよ」
 にこやかに言いつつ、桟に足をかけた。
「良いところにきてくれたわ、後ろに乗せて」
「え、あ、はいはい」
 慣れた動作だった。建物の四階という高さをものともせずに、少女はアンジェリーナの後ろに乗った。
 少し上昇すると、湖に向かって木々の間を縫うように移動を始めた。
「クイディッチの選手?」
「そうよ、どしたの?」
「扱い上手いな〜とか思っちゃって。あたし、箒はまるきりダメで。ところで授業は?」
「自主休講」
「うわ、サボり?」
「占い学なんてテストでなんとでもなるし。それよりこの箒のチェックのほうが大事よ」
 湖のほとりに滑るように着地した。湖面からの風は刺すような冷たさだったが、そこでは大イカが優雅に泳いでいる。
「箒のチェック?」
「そう。ハ……ウチのシーカーの箒が暴れ柳に粉砕されちゃって。さっさと買えって言ってあるんだけど、まあそれまでの繋ぎにね。練習用」
「ふうん。流れ星って…最近倒産しちゃったわよ、メーカー」
「え? あ、そっかそっか。リリーの時間ではそうなんだ」
 今朝の授業で知りあったばかりなのに、少女の人懐こさから早くも同級生のような錯覚に陥っていたアンジェリーナは目を丸くした。
「古道具屋ぐらいしか見ないけど、これはもっと凄いわよ。ホグズミートで拾ってきたやつ」
「え? 拾って??」
「ウチに機械だの道具だのを分解したり作ったりするのが好きなのがいるの。で、これはその子の最新作。当面の目標はコメット、最終目標はファイヤボルトって遠大なプロジェクトの一環」
「コメットはわかる。ファイヤボルトってここの最新型?」
「国際試合制式箒。競技用箒の最新にして最高峰の箒」
 手に取ってしげしげと見つめて、リリーは感心したように呟いた。
 ハリーにこの箒を渡すとき、さっきまでお母さんが手にしてたわよ、と言ってあげたいような気になった。しかし、喜ぶか泣き出してしまうか判断がつかない。そしてグリフィンドールは全ポイント没収をくらってしまうのだが。
「こっちはニンバスの新しいのが出たところだけどな」
「粉砕された箒もニンバスよ。一昨年の型でニンバス2000」
 ロンがフレッドたちに言っていたのを聞いたことがある。特急のなかで倒れたとき、ハリーは女の人の悲鳴を聞いたと言うのだ。そして試合中、ディメンターに囲まれ気を失って転落したときも。
 夜、うなされているようで起こしにいったら、うわごとで母親を呼んでいて急いでたたき起こしたこともあったという。
 ハリーが持つ母親の記憶は、母親が命を落とす最期の瞬間だった。
「2000…1500が今、生産がおっつかないから、手元に届かないって言ってたな。なんか予約入れたら十年待てって」
 何も知らない。
 朝の授業で、リリーの出現に動揺したルーピンやスネイプの気持ちが少し分かったような気がした。あの人たちは彼女と同じ時間を過ごし、そしてその後を見続けた人たちだ。
 アンジェリーナは沈みかけた気を取り直すように顔をあげた。
「箒乗れないのに、けっこう詳しいじゃない」
「………クラスメイトにクイディッチと箒のおたくがいるのよ」
 なぜか、リリーの声のトーンが落ちたような気がした。
「へえ、選手?」
「まあね。チェイサー」
「あら、一緒」

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しばし、アンジェリーナ視点です。
にしても、12話でまとめるなんてことできないよ。

2005.10.7

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