Bush clover 8
「アンジェリーナ、ここにいた…うわっリリー大先生じゃないかっ」
ひょっこりと現れた赤毛の少年は、アンジェリーナの隣にどっかと坐った。
「フレッド。ジョージは?」
「あのおばはんにとっつかまってる。今日のエジキはジョージだ」
「……迷わず成仏してと言うしかないわね」
占い学担当の女性教授は、人の生き死にを占うことがお気に入りだった。標的となった生徒は、何時、どのようにして命を落とすのか、その時々の占い方法で延々と占われる。
当たったことが無い、ともっぱら噂の教授であるので、むしろ死ぬと言われればそれは縁起の良いことになるのかもしれない。
「それよりオレがフレッドってのをよく当てたな」
「何言ってんのよ、あんたらぜんぜん違うわ」
「そうかあ?」
「ホンモノの双子なんだ」
じっと見つめていたリリーに、フレッド・ウィーズリーはニヤリと笑った。
「自慢になるが、親父は未だにオレたちの区別がついてない」
「あんたんち、兄弟多すぎんのよ、七人なんて」
「しゃあねえ、親父たち、女の子が生まれるまでガンバったんだから。ところで何の話してたんだ?」
「箒。リリーったら箒乗れないのに詳しいのよ」
アンジェリーナが『新生』流れ星を見せた。
「へえ。ちょちょいと練習すりゃ箒なんて軽いぜ?」
「う〜、それは何回も聞いたわ」
「箒おたくのひと?」
「そいつ、箒なんて魔法力でどうにでもなる、なんて言ってたけど」
「その通りじゃん」
フレッドに真顔で言われて、リリーも大まじめな顔で言葉を続けた。
「あたし、一年のときの最初の箒の授業で落っこちたのよね、それ以来ダメなの」
「ケガ?」
「ううん、そいつのうえに落ちたから大丈夫だった。そんな大した高さでもなかったんだけど」
「窓から乗り移れるくらいなんだから大丈夫だと思うけど?」
高所恐怖症で箒に乗ることが出来ない、というのなら納得がいくがリリーの場合、高いところが好きなのではないかと思う。フレッドが不思議そうな顔でアンジェリーナにたずねた。
「窓から?」
「ルーピン先生の部屋にいたの。4階なのにいきなり窓の桟に足ひっかけて」
「……なんでダメなのか、ぜんっぜん分かんねーよ」
フレッドはアンジェリーナが持っていた箒を手にとった。
「これがホグズミートで拾ったやつか…木くず同然がよくもまあここまで復活できたな」
箒を拾ってきたのはフレッドで、見つけたときの悲惨なありさまをよく知っている。修理すると言い張る二年生に冗談のつもりで渡したのだが、その箒が新品同様になっている。
「でしょ。なんとか練習に使えそうよ。ちょっとふらつくけど」
「ハ…あいつなら根性でどうにかするだろ。まだ箒頼んでないらしいぜ、ロンが言ってたけど」
「勝手に頼んじゃおうか」
「だな〜。ニンバス2001の値段が落ちてきてるぜ、ファイヤボルトのせいで」
競技用箒の名前を列挙しはじめた二人をリリーは睨んだ。
「ねえ、さっきからなんか隠してるでしょ」
「そ、そんなことっ!」
「か、隠してるって!」
そくざに反応した二人に、リリーの目つきが剣呑なものになっていく。
「……どうせリーマスとセブルスがなんか言ってるんでしょ」
「ああうう、そこんとこ察してくれよ〜〜。スネイプは本気でグリフィンドールのポイントを全没収する気なんだ」
「ふうん?」
追及から逃れるために二人は思案を巡らせる。大イカの巨大な影が水面に浮かぶのを見たからではないが、アンジェリーナが口を開いた。
「ね、ねえ、先生たちって学生時代どうだったの?」
この質問はハリーの話から遠ざかるし、興味もあった。フレッドも興味津々という顔である。
あの二人が妙に仲がいいのは、実は同期生だったからだと知ったとき驚いたのだ。二人とも年齢の分かりにくい容姿をしていたから。リリーはきょとんとした顔になって、次に考え込むように腕を組んだ。
「そうねえ、二人とも基本的には変わってないんじゃないかな〜。セブルスは不機嫌な顔がデフォルトになっちゃってるけど」
「……生まれつきじゃねえの?」
「そんなことないわよ。マジメで怒りっぽいから常時笑ってるなんてことはないけど」
「ルーピン先生は?」
「……リーマスは…」
何故か言いよどむ彼女に二人は首をかしげた。見るとリリーの頬は少し赤みがさしているようにも見える。
「あたしが知っているリーマスは、あんなに背が高くないの。あたし、女友達のなかで小さいほうだけど、そのあたしと同じくらい。一年生のときはものすごくちっちゃくて…。だけどとても強い人。いちばん尊敬している人なの」
『………ちょっと待て』と二人は内心で思った。『この人、ルーピンが好きなのか?! ハリーはどうなるっっ!?』『ウソ、このまえハリーに写真見せてもらったけど、すっごい仲良さそうに踊ってたわよ?!』
硬直するも、二人はクイディッチで培った体力にものをいわせて瞬時に立ち直った。怖いが確認したほうが今後のためにも良いだろう。彼女に関する情報が少ないがために、『地雷』の場所はおろか形さえ分からない。
「ルーピン先生と付きあってる?」
フレッドのストレートな質問に、アンジェリーナは目の前が真っ暗になった。ついでに箒をひったくってヤツの頭にかましたい。
「………はあ」
深々としたため息をついたリリーは、力なく笑った。
「ふられちゃったのよね。三回告白して三回とも」
「そ、そう……」
「まあね、あたしもしつこいと思うわ。一回めのときにきっぱりと諦めたらよかったのに。だからもう困らせない」
自分に言い聞かせるかのようなリリーに、フレッドは元気づけようとして、さらに話題の軌道修正を完ぺきなものにするべく明るく言った。いや、言ってしまった。
「次だよ次。愛の妙薬を盛られたくらいなんだからモテんじゃね??」
じっさい、すげえかわいいしと最後はモゴモゴと。アンジェリーナは苦笑しつつも、やっぱりこいつの好みは小柄な女の子だったかとほんの少し切なくなる。
しかし、黙り込んだリリーの様子に、ただならぬ気配を感じた。まさか。
顔を蒼白させたアンジェリーナは、ゆっくりと顔を上げつつあるリリーを見つめたまま、そしてフレッドは自分の失言に気付いのだった。
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『成仏して』とか書いてみて思ったんですけど、西洋のひとは
そんなことは言わないですよねえ。だけどそのままにしときます(^^;)
2005.10.15
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