Bush clover 9
『自分で言うのはOKで他人に言われるとアウトだったのかっ? そんなのアリかよっっ?』
『黙ってて。べつに魔法が発動してるわけじゃないんだからっ』
声を押し殺して慌てるフレッドをなだめた。
アンジェリーナは、薄々だが薬を盛ったという相手と、クイディッチと箒おたくのクラスメイトは同一人物だということを感じていた。そして、朝の授業でのルーピンの『ジェームズの一方通行だった』という発言を思い出したのだ。
さらに。
マクゴナガルから聞いたことがある。ハリーがチームに入ったばかりのころ、彼の父親も選手だったと言った。チェイサーだったが箒の扱いは当時のシーカーを凌ぐほどだったと。
『………ジェームズ・ポッターってひと、なんなのよ……』
闇の帝王と恐れられた彼の人に殺された。当時、遺体が発見された状況から、妻子を逃がすために一人で立ち向かったと分かった。結局、赤ん坊だったハリーだけが助かった、という話は魔法界の者なら知らない者はいない。
当時の彼らを知る教師たちは、彼らを完ぺきな優等生というような話しかしないから、自分もそのようなイメージしか無かったのだが、彼の妻となる少女の様子から、実はそうではなく、どちらかというとその逆ではないかと悟り始めた。
「……リ、リリー?」
「……あの箒おたく、あたしでも三回ふられたら諦めるわ。だけどなんなの、あいつったら! 何回も大嫌いって言っても通じない!」
「い、いや……あの、男ってそういうもんだから」
どういうもんかも無いが、リリーの剣幕に気圧されたフレッドは面識などない人物のフォローに回っていた。
「な、なんか良いところもあるかも知れないじゃない?」
リリーにかなりなところ同情しているが、両親のことを写真でしか、それもホグワーツに入学してからようやく知ったというハリーがかわいそうになって、アンジェリーナもフレッドに続いて箒おたくを弁護した。リリーはそんな思惑など知るわけもなく。
「良いところって!? そりゃあいつってば背高いし頭良いし、顔だってまあいい方だと思う。トータルでいけばかっこいい部類だわよ。だけどそれは黙ってればって条件付きだわ! 見つければこっちに突進してくるし逃げれば魔法使ってくるし、頭きて何度も攻撃呪文繰り出したけどだんだん通じなくなってるし、今朝なんか薬まで盛られた! 諦めて話に付きあえば面白いところもあるわ。あいつ、ほんとに物知りだし、あたしはマグルの出だから、魔法界の知らないことたくさん教えてくれる、だけど!」
「だ、だけど…?」
「高慢ちきになるところが嫌なの!!」
こうも思いきり言われれば納得するしかない。
「え、ええと、その箒おたく、名前なんてーの?」
ほとんど自棄になってフレッドが訊いた。フレッドもだいたいの見当は付けているようだが。
「………この時代じゃ卒業しちゃってるわよ。あたしもだけど」
「いやまあ。後学のためにさ」
自己防衛のネタにはなるかな、とアンジェリーナも思いながら、フレッドに同調する。
「グリフィンドールのチェイサーでしょ。フレッドも選手よ、ウチの」
「あらそうなの。じゃあ知ってるかも…ジェームズ・ポッターっていうやつ」
予想通り、というよりダメを押された気分の二人だった。リリーに撃退されるジェームズ・ポッター氏を容易に想像できる。
「そ、その人なら記録でも名前がばんばん出てる。嫌なのはそこだけならどうにかなるんじゃない?」
「致命傷ね。トドメよトドメ」
「シーカー差し置いて何年か連続して得点王にもなってたよな。すげえ人じゃん」
「………あなたたち、ひょっとしてジェームズ・ポッターの知りあい?!」
「い、いえっ、とんでもない!」
いつの間にか立ち上がっていたリリーは腰に手をやり、ずいと前に踏み込むように二人を見下ろした。
「押しかけてきて練習ひっかきまわしてんなら、箒からたたき落とす方法、教えてあげるわよ?」
「い、いいです。はい」
「考えてみれば、リーマスが先生になるって聞いたらぜったい入り浸るはずなんだけど。ねえ、セブルスっていつから先生?」
「え?さあ。オレの一番上の兄貴が入ったころには先生だったよ」
「七人兄弟って言ってたわよね。あなた、何番目?」
「四番目」
「……あそう。じゃあずいぶん昔からってことよね。卒業してすぐかしら。セブルスにちょっかい出すのも好きだからな〜あいつ」
「は、はははは…」
地雷原のど真ん中にいるような気分で、二人は事態の収拾を図る。が、なにも思い浮かばない。今はスネイプ教授でもいいからこの場に来て欲しい気分だ。逃れられるなら何点減点されても構わない。
「……リーマスがここにいるなら、毎日押しかけてるのがもう一人いたわね…」
「はい?」
「やっぱりクラスメイトなんだけど、ポッターとほとんど兄弟みたいなやつがいるのよ、シリウス・ブラックってやつ」
「!!!」
予想もしなかった名前が飛び出して、アンジェリーナは息を詰まらせる感覚に襲われた。
大量殺人を犯し、十二年間アズカバンに投獄されていた男の名前だ。そしてハリーをつけ狙っているという。将来の自分の我が子の命を奪おうとする男の名を平然と口にし、なおも言葉を続ける。
「すっごい名前でしょ、名前負けしてないルックスってところがさらにすごいけど。………なーんか最近、あいつが恋敵のような気がしてきてるんだけど…」
後半のごちりは聞き取れなかったが、シリウス・ブラックは確かに今、ホグワーツに潜伏しているはずだ。
薬学教授と防衛術教授が味わっていたのは、心臓に直接攻撃をくらうこの感覚、恐らく怒りも含まれていたのではないだろうか。ようやく二人の心境を正しく理解できたように思う。
「……だけど、大人のリーマスとセブルスがけっこうステキになってたんだから」
「……ステキ……?スネイプが……?」
「あら。渋くてステキじゃない。眉間のシワはもう少しとってほしいけど。男って年とると変わるわねえ。ポッターはどうなるかしら?ほんとに知らないの?」
「話でしか知らないよ」
「ふうん、おかしいな。プロにでもなってるかと思ってた……っって!!」
リリーがフレッドの背後に視線を向けたまま、顔を青くさせた。つられて視線を同じ方向にやったアンジェリーナも同様だ。
「?! や、やばっっ!」
「うわっ、リリー何すんだっっ?」
「動かないで!」
リリーは突然、フレッドのローブを頭にかぶった。その様は、二人羽織の曲芸師のようだ。
『フレッド、あそこ見なよ!』
「へ? うっわあ、なんちゅータイミングで…」
湖のほとりへ続く坂道を、ロンと笑いながら降りてくるハリーが見えた。リリーはこれを見たに違いない。大いなる勘違いをしているが。
やはり授業はマジメに出席しよう。そう心に誓った二人だった。
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ウィーズリー家って、大体アルファベットで並んでる
名前なんですね。今ごろ気付きました(^^;)
で、それでいくとF、Gでフレッドがおにいさんなのかなと。
それからクィディッチの記録の価値というかなんというか、
得点方法に二通りあるわけですが、チェイサーとシーカーの
記録は別々に扱われると思うんですよねえ。「差し置いて」なんて
言葉を使いましたけど、シーカーは一試合に一度しか得点できない
わけですから、シーカーの場合は選手時代に「何回スニッチを取れたか」
が記録としての価値があるのかな。どうなんでしょうね。
2005.10.22
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