Bush clover 10

 リリーの小柄な身体がフレッドのローブにすっかり隠れたとき、ロンが兄を見つけた。
「ああ〜、フレッド……かな? それとアンジェリーナ、サボってんだ」
 兄弟とはいえ、ロンはいつも一緒にいる双子の兄たちの区別があまりつかないでいるようだった。隣でハリーも首をかしげている。
「……そういうあんたらはなんなのよ」
 なるべく平静を装ったが、少しつっけんどんな言い方になってしまって内心で焦った。しかし、ロンはまったく気にした風もなく胸をはった。
「今日はもう授業ないもんね!」
「ハーマイオニーは?」
「まだ授業。あいつ取りすぎなんだよな〜、マグル学まで取ってるんだぜ」
「な、なんでまた?」
 グリフィンドールが誇る才女、ハーマイオニー・グレンジャーは両親ともにマグルである。フレッドはローブに隠れているリリーと同じだな、などと思考の隅で思う。
「魔法界からみたマグル社会、というのが面白そうだって言ってた」
 ロンに続いて笑いながらハリーが応えた。すると、フレッドのローブの後ろが跳ね上がった。ハリーがきょとんとした顔をしている。
「なにやってんの?」
「うわ、来るなっ!」
 無邪気に近寄ろうとした弟を、身動きができないかわりに威嚇する。ロンはむう、と頬を膨らませた。
「なんだよ〜」
「……実験中の仕掛けだ。完成したらお前に食らわせるぞ」
「え、遠慮しときます」
「と、ところで! 箒は頼んだのっ!?」
 名前を呼ばす、アンジェリーナはハリーに顔を向けた。ハリーにリリーのことを、また、リリーにハリーのことを知られてはいけない。教師二人が言った『大広間破壊』などは信じてはいないが、この場に居合わせたがために膨らんで飛ばされてしまう事態はなんとしてでも避けたかった。
「う、ま、まだ……」
 ハリーは怯んで後ずさっている。
「あんたね〜〜、ま、いいわ。これ乗ってみなさい」
「あ、流れ星……」
「この前使ったのとは違うやつ。二年のあの子が修理したほう。さっき乗ってみたけど、流れ星とは思えないくらい速いわよ」
「へえ…修理ってより改造だね」
 渡された箒を感心して見つめている。父親と瓜二つとは言われているが、その見つめる顔つきや仕草はリリーに似ていると感じるのは気のせいだろうか。
「当面の練習はそれでしのいでよ、それでもってさっさと注文する。ぐずぐずすると、あたしが勝手に注文するよ、ニンバス2001」
「それはぜったいに要らない」
「ハリーは中古の2000を探してるんだよ」
 ロンの無邪気な発言に全身の力を奪われた。必死で隠していた情報の一つがあっさりとリリーに知られてしまった。
「こんのおとぼけお気楽ヤローが……」
 フレッドが呻き、アンジェリーナは立ち上がった。あまりにも勢いがついていたので、三年生二人は後ずさってしまった。
「……もう授業無いんなら、とっととその箒の調整をしてくる! 今度こそ、クィディッチ杯を取るんだからね!!」
「は、はいっっ!!」
 ハリーはアンジェリーナの怒気にあてられ、はずみで駆け出していく。ロンが慌ててそのあとを追っていった。

 また冷たい風が湖面から吹きつけられたが、緊張していた身には心地よい。
「…………あの〜、そろそろ出てきてくれませんかね、リリー先生」
「………今の子……ポッターかと思ったの……そんなわけないのに」
 促されて、リリーはフレッドのローブから出てきた。
「………うん…まあ。苗字は同じよ」
「アンジェリーナっ」
 フレッドが慌てるが、アンジェリーナはふっきれたようなさっぱりとした顔をしている。
「いいじゃない、名前くらい」
 リリーの反応から、ハリーの父親の察しはついても母親までは及ばないと判断したのだ。ジェームズ・ポッター氏はいったいどうやって彼女と結婚までこぎ着けたのか、新たなナゾが生まれたが。
「ジェームズ・ポッターの…?」
「そうよ、先生たちが言ってたけど、あの子、お父さんにそっくりなんでしょ?」
「そっくりなんてもんじゃないわ……」
 驚嘆しきってぼう然としたまま呟いた。
「何年生?」
「三年」
「そう…ちょっと大人しい?」
「ん〜〜大人しいってほどでも。でも騒ぐタイプではないわね」
 その行動が十分大きな騒ぎになるのは、本人に自覚があるわけではない。
 二人が走っていった方向に目を向けたリリーに、アジェリーナは続けた。
「先生達に厳命されてるのは、あたし達以外の生徒にあなたのことを知られてはいけないってこと。だからあんなに慌ててたの」
 弾かれたように振り向いたリリーは口を開いて何かを言おうとした。
「それは…そうね。うん、あたし、ちょっとはしゃぎすぎたわね、ごめん」
 しゅんとして俯いてしまったリリーに内心慌てるが、同時に、なんて感情の鮮やかな人なんだろうとアンジェリーナは思った。今朝会ったばかりだというのに、この人の笑顔、悪戯っぽいきらきらした瞳、ルーピンに対する想い、落胆、あらゆる感情の表情を見たように思う。それが少し羨ましくなった。

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4、5巻でばんばん出てきたペンシーブについてですが、
あれってひょっとして記憶を貯めていた人間の主観の世界
が覗けるということですか??同じ出来事でも違う人間の
記憶が保存されたものなら映る世界は違って見えるとか。

2005.10.29

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