Bush clover 12

  授業が始まり静けさが広がる。リリーは物陰に隠れながら移動していた。自分が他の生徒に見つかれば、セブルス・スネイプの性格から、グリフィンドールのポイントが没収されると本気で脅えていた二人に気を使ったのだ。
「全没収なんてねえ。あたしたちなんか没収される点も無いのに」
 各寮のポイントが表示されている場所までやってきた。見上げて、同時に飛び込んだその光景に呆気にとられた。
「すっご。なにこれ、グリフィンドールがトップじゃない。あらあら、ハッフルパフの点てばこれだけしかないの? ウチと逆ねえ」
 あまりのんびりとしていられない。部屋から抜け出していることはとうに知られているはずだから、せめても見つかる前に戻ろうと思った。
 
 誰にも会わずにドアに辿りつく。ノックをしてみたが応答は無く、そっとノブを回して室内に入った。
 リーマスの姿は無く、リリーはほっと息をついた。
「そっか、防衛術だもんね。授業が多いんだ…無理してなきゃいいけれど」
 数時間前、スネイプが作った怪しげな薬の前で苦笑する彼の顔を思い出した。身を乗り出すようにその薬を見つめるふりをして、実は彼の袖口を見つめていた。大きな傷、これはたぶん自分でつけてしまったもの。すこし顔を上げて襟元を見たとき、声を出しそうになった。
 背中にかけていると思われる黒ずんだ傷。そのような箇所にヒトの手であっても自分ではつけられない。
「リーマス……それでもあなたは歩き続けるのね…」
 自分が良く知るリーマスと、こちらの世界のリーマス。
 こちらのリーマスは背がぐんと伸びていて、だけれど病気を疑ったくらいにやせ細っていた。髪の色も随分違って見えたのは銀色の筋がいくつもあったからだ。それだけで、どんな生活をしてきたか思い知った。
 卒業後は世界のいろいろなところに行ってみたい。リーマスは、普段は小さくて下級生とよく間違われてしまうけれど、そのときの彼の顔はあまりにも毅然としていて、止めることはできないと思った。たとえ、あの二人でさえも。
 そして、旅の途中、彼は背中に大傷を負わされた。生死に関わったはずの大傷を、たった一人で耐えたに違いない。そうやって歩いてきた。これからもそうして歩いていくのだろう。
「あたしが男だったら、止められるかしら……何もできないのかしら」
 俯いた途端、涙が溢れた。
『だけど、ほんとは先生になりたいんだ…』
 内緒だよ、と次に照れ臭そうに笑ったリーマスを、リリーは一生忘れないでいようと思う。彼のためにできることがあまりに少ないことと、自分の力の無さが悔しかった。

 冷たい風が頬を撫でた。窓から出ていったときに、きちんと閉じられなかったすき間からだ。
 閉じようと窓へ歩み寄る。ガラス戸に手を伸ばしたときに下を見れば、二人の生徒が楽しそうに話しながら歩いていた。さきほどの湖で遭遇しかけた二人だ。ジェームズ・ポッターとそっくりな少年は箒を抱えて、赤毛の少年が話すのを笑って聞いている。その笑顔は穏やかでリリーにとってずいぶん趣が違うものだった。
 二人の進路方向から小走りに近づく女の子がいた。くり色でふわふわとした髪をしている。立ち止まったとたん、女の子が背負っていた大きな鞄の底が破けた。
 慌てた三人が散らばった本やインクや羽ペンなどをかき集めている。赤毛の少年が呆れた顔で少女に何事かを言うと、少女は頬を膨らませて、次に、何かをまくし立て始めた。少年はたじたじとなっている。
 ジェームズにそっくりな少年はこの状況に慣れているのか、我関せずといった風に黙々と本を拾い集めているのが印象的だった。
「………まあね、親子揃って同じ性格じゃあたまんないわよね」
 妙に納得してしまう。そして、聞こえるとは思えないが音をたてないように窓を閉めようとした。くり色の少女と目が合った。
 言葉が切れたときだったのか、少女がふいに見上げたのだ。そしてきょとんとした顔をしたのをリリーは見た。
「やばっ、他のひとに見つかっちゃいけないのよね??」
 素早く窓に鍵をかけて、窓枠の下にしゃがみこむ。
 四階に位置するこの部屋に、人影があったところで見間違いに済ませられることも多いし、それ以前に部屋なのだから誰か居てもおかしくはない。この部屋はまったく使われていない部屋というわけではないのだから。リリーは三人が本を拾い集めてすみやかにどこかへ行ってくれることを祈った。しかし。
『……誰かいたって? 先生じゃないのー?』
 なぜか、声がはっきりと聞き取れる。しかも黒髪の少年の声だ。
「箒でこの位置まで来たのね……」
 下にいる少年たちの声は聞こえない。
『はいはい、先生はさっき廊下でね。また質問ぜめしてたんだろ、ハーマイオニー』
 窓ガラスに手をあてて、中を覗き込んでいる気配がしている。鍵をかけた以上、そちらからの視界は限定される。少し出窓のようになっているのが、リリーにとって幸いした。
『誰もいないけどね〜、え? 赤っぽい髪の女の子? ん〜〜ジニーじゃないの??』
 少年は苦笑交じりで下の友人たちに応えている。誰かいて、それが誰なのか、ということにあまり興味は無さそうだった。
『ええ〜、泥棒だったらって? ルーピン先生から何か盗ろうなんてひと、いるかな…』
『だから!! なんかタチ悪いのがいたらどうするのよ!!』
 相当大きな声らしく、窓を閉じたこの部屋まで聞こえた。がたん、と窓ガラスに何かがぶつかる音がした。動揺したらしい少年が箒からよろけてしまったのか。
『わ、わかったからいきなり大声出さないでよ。落ちるじゃないかっ』
 なんとなく、微笑ましくなった。しかし、それにしてもいつまでこの体勢でいなければならないのだろう。
 そう思った矢先にドアが開いた。リーマスだ。彼は入口立ち止まったまま、目を見開いて窓の下にしゃがむリリーと窓の外にいる少年を見比べている。
 リリーはリーマスに向かって、口元にひとさしゆびをたてて、じっとしていることの意思表示をした

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もう少しで今週の更新が出来ないところでした(^^;)
もし続きができなければ去年書いていた
ハリーの話をいれようと思ってました。
いわゆる『にせおやこ』な話。

2005.11.12

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