自分が、声をあげたような気がした。
それも淫らな行為の最中にあげるようなものを、臆面もなく。
何時の間にか、それは始まっていた。次々に沸き起こる快感に、押し広げられた腿の辺りの筋肉が引き締まるのが感じ取れた。
目を開けると光りが眩しい。朝の柔らかな陽射しではない……もう昼間なのだろうか。
奇妙な物音がする方向に目をやると、見慣れた髪形が腹の上で上下している。
慣れたのはチームメイトになってからで、昔は帽子を取った頭なんて見たことがなかったのではないだろうか。
自分は全裸なのに相手がきちんと衣服を身につけているので、夢の中の出来事のようだ。しかし頭が動く度に産まれる快感は生々しく、土井垣はなかなか言葉を発することができなかった。
「不知火……何をしている」
忙しない動きが止まり、顔をあげた。わざとらしく音を立てて唇をはなすと、土井垣の顔を見る。赤く膨れ上がった先端と唇の間に唾液の糸が繋がった。
「おはようございます、土井垣さん……もうこんにちは、かな。朝も起こそうと思ってやってみたんだけどぜんぜんふにゃふにゃで……悲しくなってしまいましたよ」
唇がつりあがる。
「こっちも起きないと、目が覚めないんですね?」
「…………」
土井垣は上体を起こそうとして、体の自由が利かないのに気づいた。目をやるとベッドの支柱の結わいつけられた自分の手首が目に入った。思わずもう片方にも目をやったが、同じ事なのはわかっていた。
「お前!」
土井垣は怒鳴った。
「何だ、これは!解け!!」
「嫌だなぁ。何言ってるんですか。解いたら、土井垣さん行ってしまうでしょう?」
「……今何時だ!解け、ばかやろう!」
土井垣は無理やりに手を動かした。150キロもの送球ができる強肩に、ベッドの支柱はミシミシ音を立てたが、しっかり結んであるらしく解ける気配はなかった。
「そんなんじゃ解けません、手首を痛めてしまいますよ。……昔の恋人なら大丈夫です。ちゃんと電話しておきましたから、土井垣さんは行きません、って。たぶんスポーツ誌で取り沙汰されている、例の彼女と行くんじゃないですか」
蹴飛ばそうとした土井垣を制するように、不知火はまた股間に顔を埋めた。土井垣の顎が仰け反る。
「や、やめろ、ばかやろう。何でこんな……ことを」
嬌声を上げそうになるのを堪えるために、土井垣は無理に口を開いた。
恥ずかしいことだが、不知火とは何度かベッドをともにした。彼は大変なテクニシャンで、何時の間にか状況に流されて、というところは小次郎の場合とあまり変わらなかったかもしれない。ただ、不知火の場合は土井垣が本気で怒り出すと、とたんに悪戯を見つけられた子供のように、しおしおと止めてしまうのだった。
そう、こんなふうに俺の自由を奪ってまでもなどと……不知火のやることではない。昨晩の奇妙な味のコーヒーといい……やっぱり、何かおかしい。
「解け、不知火……くっ……行かないよ。お前が本当に電話したなら今更……あ、あぁ……やめてくれ」
「嘘でしょう?……あなたは行ってしまうんだ……もう2度と行かせやしない」
一旦顔を上げたが、次はもっと強く吸い上げてきた。
「何を言ってる?……お前、おかしいぞ……あぁ、あ、あ、あぁぁ!」
自分が眠っている間、どれくらい不知火はしゃぶっていたのだろう。土井垣は自分がもう限界に近い事がわかった。勝手をしった男の舌技は的確で、夢中になるなというほうが無理な注文だった。
土井垣は自分から、もっと深い快感を求めて腹を突き上げた。つられて不知火の頭が持ちあがる。手が自由ならば、口を使っているものの辛さなど考えもせずに、頭を押えつけていただろう。
「し、不知火……もう」
しかし不知火は唇を離した。目の前の爆発しそうなくらい赤く硬く膨れ上がりぬめぬめ光っているものを馬鹿にしたように眺めると、口を拭いながら起きあがった。
土井垣の目の前をグレーのパーカーが通り過ぎ、前の硬く張り詰めたブルージーンズが、柔らかいベッドの上でバランスを取り難そうに揺れている。
手の戒めに開放感を感じたが、イキかけている土井垣は状況を把握できていなかった。
「続けてくれ……止めないでくれ」
土井垣が自ら股間に手を伸ばそうとするのを制すると、不知火は薄笑いを浮かべながら、先端を包み込むように手を押し下げる。
手の動きに土井垣が機械仕掛けのように反応するのをしばらく楽しんでいたが、また限界に達しそうになったのを確認すると、意地悪く動きを止めた。
不知火は土井垣を屈ませると、今度は後ろ手に縛り上げ、あまった端をベッドの支柱にくくり付ける。夢中になっている土井垣はなすがままだった。
そのまま痛みを感じないよう、手繰り寄せた布団に上半身をもたれかけさせる。
そして後ろ手に縛られ無防備に下半身を晒した土井垣の姿を、満足げに眺めた。
「不知火……」
行為がいつまで立っても再開されないので、土井垣が薄目を開けた。
「あなたって本当に自分のことしか考えない人なんですね」
そう嘲るように言うと、乱暴に握り上下に動かす。土井垣は目を閉じ、短いうめき声を何度も上げた。
「また勝手に終ろうとする。……あなたがあんなやつを恋しがらなくてもいいように、俺、色々勉強してるんですよ」
根元の辺りに強い圧迫感を覚え、土井垣が目を開けた。
「何を……してる?」
皮ひもが根元に、巻きついている。
「ウフフ、こうするとね……」
不知火がまた激しく手を動かした。
もう我慢できない……土井垣の腹は射精の予感に震えたが、縛めが邪魔をし、至福の瞬間は訪れなかった。
「し、不知火、解いてくれ……俺は、イキたいんだ」
「駄目ですよ。自分だけ気持ちよくなったら、あなたはすぐに俺の事なんかどうでもよくなるんだから。……でもそんなとこおったてたままじゃ、何処にも行けやしないでしょう?」
そう言うと薄ら笑いを浮かべながら、限界までに膨れ上がり、先端から粘液を流しているそれを指先で弾いた。うめき声を上げる土井垣に満足そうに微笑み、立ちあがる。
「さぁ、朝御飯にしましょうか土井垣さん……いや、ブランチかな?」
「土井垣さんが寝ている間に作っておいたから、温めるだけなんですよ」
キッチンからは機嫌のよさそうな不知火の声が聞こえる。
「冷蔵庫の残り物をかき集めて作った具沢山ミネストローネとトーストですけどね。昨日のトンカツ、すげぇボリュームだったから朝はこれだけでもいいかな?」
やがてトマトとオリーブオイルと、トーストの焼ける匂いが漂ってきた。冷蔵庫を開閉する音がしたのはバターでも取り出したのだろうか。
「俺、実は先に済ませてるんです……土井垣さん、食べてくださいね。寝室にもっていってあげますから」
湯気の立つ皿を載せた盆を持った不知火が、美味しそうな匂いとともに現れた。
「あれ?何してるんですか」
後ろ手に縛られたまま、土井垣は白いシーツをかけられベッドに横たわっていた。顔を真っ赤にして息が荒い。汗もかいている。胎児のように体を丸め虚しく体を揺すっているのが薄い布越しにはっきりわかった。
不知火はサイドテーブルに盆を置くと、乱暴にシーツを剥ぎ取り、のぞきこんだ。
「まだガチガチですねぇ。シーツに擦りつけて遊んでたのですか?本当にいやらしい人だなぁ。どれどれ……こんなに汚れてますよ」
ナメクジが這いまわったように濡れているシーツを目の前に突き付けられて、土井垣は顔を背けた。
「こんなに漏れてるなんてちゃんと縛ったつもりだったのに、少しゆるかったかな?さぁ、遊びはこれくらいにして、御飯御飯」
土井垣が不知火を睨みつける。
「手を解け……これじゃ食えん」
不知火は土井垣を抱き起こすとにっこりと微笑んだ。マウンドで好投した後に見せる笑顔と変わらない。
「心配しないでください。俺が食べさせてあげますよ」
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