7


 ユウヤがまずシャワーを使い、僕はその後入れ違いにバスルームに入った。
―――小狭いユニットバスで、さてどうしたもんかと考える。
 僕はまず身体を洗い、続いてそろそろと後ろに手を伸ばした。
 ユウヤなら、僕が嫌だと言えばここは使わないセックスをしようって言ってくれるだろう。でも僕はユウヤがやりたいと思ってるなら、そうしたい―――と思っている。たとえ、痛いだけだったとしても。
 彼氏に振られたばかりなのに、僕はもう他の男に抱かれようとしている。今までの僕からは考えられないことだ。旅先だから、ちょっと大胆になってるんだろうか……。
―――いや、違う。僕はユウヤと、そういうことがしたいんだ。
 僕は泡をたっぷり乗せた指で、後ろを丹念に洗った。そして、そのまま指を突き入れる。
 はっきり言って、この作業は大嫌いだ。でも一応、エチケットだからな……。僕は溜め息をつきながら、二本の指で、クチュクチュと音が鳴るまで内部を慣らした。
 そして、シャワーの水圧を最強にし、種類を『スクリュー』っていうのにして後ろに当てた。蛇口を捻ると、いきなり大量のお湯がすごい勢いで体内に流れ込んでくる。
「うわわっ」
 僕は慌てて水圧を弱めた。
―――何やってんだか………
 なんだか自分が情けなくなってくる。僕はバスタブの縁に座り、深く息をついた。
 本当のこと言うと、やっぱり受け身のセックスは苦手だ。苦痛しかないし、疲れるし、中出しされた時なんか、さらに最悪に気持ち悪いし……。
 どうして世の中にアナルセックスなんてもんがあるんだろう。っていうか、一番最初にケツに突っ込んでみようと考えたヤツは誰だよ!
「どんだけ好奇心旺盛なんだよ、まったく……」
 僕は立ち上がり、もう一度ザッと全身を洗い流した。
 早くも疲労困ぱいでバスローブを羽織って部屋に戻ると、ユウヤがビールを飲みながら振り返る。
「アキラもやる?」
「一口」
 僕はユウヤから受け取った缶ビールを、ゴクリと一口飲んだ。
 缶をテーブルに置いた瞬間、凄い力で腰を引き寄せられる。
「ん、ちょっ…!」
「夢みたいや」
 唇と唇の距離、3センチ。ちょっと近すぎだって……。
「こんな美人が、今俺の腕の中におるなんて」
「……馬鹿」
 男なんだから美人とか言われても……とは一応思うものの、実際はかなり嬉しかったりするかもしれない。
「アキラ……」
 艶めいた声が言葉を紡ぐと、その息が僕の唇をそっと撫でる。僕は緊張に耐え切れず、目蓋を閉じた。
「睫毛長いね」
 ユウヤは楽しげにそう言って、そっと目蓋に口づけた。そしてそのまま、優しく唇を押し付けている。僕がその感触にうっとりとして身を任せていると、不意に唇が離れた。
「キスしてええ?」
 唇を、指でそっとなぞられる感触がする。
 そんなこと、いちいち聞かないでほしい。僕は恥ずかしくて目を閉じたまま、そっと頷いた。
 でも、いくら待っても唇はいっこうに下りてこなくて、僕はおずおずと目を開けた。その途端、顎を掴まれて上を向けさせられ、唇を塞がれた。
「んっ!」
 目を見開いた僕の前に、楽しそうなユウヤの目があった。
「あっ……」
 唇が離れると、吐息のような声が洩れる。まるで媚びを売るようなその声が、自分でも恥ずかしい。
「もっとする?」
 その声に、僕はコクリと頷いた。もう後戻りはできない……いや、後戻りなんかしたくない。ユウヤに、抱かれたい。ユウヤにだったら、たとえ痛くされてもいい。
―――もしかしたら僕……
 僕は、ふと芽生えた感情を慌てて押し殺した。ユウヤを好きになんかなっちゃいけない。こいつは大阪に住んでて、僕は東京に住んでる。上手くなんていきっこない。
 ユウヤは再び僕の唇を塞ぎながら、そっと僕のローブの紐に掛かり、結び目を解いた。ローブがストンと床に落ち、僕は一糸纏わぬ素肌をユウヤの前に晒した。ユウヤの視線を全身に感じ、羞恥に思わず顔を背ける。
「こっち向いて?」
 耳元で、優しく囁く声。僕なんかに、そんなに優しくしなくていいのに……。
 僕はユウヤに向き直り、引きつりながらも笑顔を見せた。
 ユウヤも優しく微笑みながら、僕を静かにベッドに押し倒し、自らも着ていたローブを脱ぎ捨てた。着痩せするタイプなのか、思ったよりも逞しい身体が現れ、僕はその美しさに息を飲んだ。触れてみたいという欲望に抗い切れず、しなやかな筋肉に覆われた胸を、思わずそっと撫でてしまう。
「ん?」
 ユウヤが、笑みをたたえたまま首を傾げた。
「いや、綺麗な身体してるなーと思って」
 僕は、ごにょごにょと口の中で呟いた。顔もスタイルも良くて、声も服のセンスも良くて、おまけに優しいなんて、出来過ぎもいいところだ。
「綺麗なんはアキラの方やろ?」
「僕ぅ?」
 この、筋肉美とは程遠いペラペラの身体のどこが綺麗なんだよ。
「うん、服の上からも身体のライン綺麗やなて思ってたけど……」
 ユウヤはそう言って、僕の胸の飾りをちょんとつついた。不意打ちで、思わずビクッと竦んでしまう。
「脱がせると、これがまためっちゃエロい」
「またぁ」
 ユウヤの目には、僕の身体はそんなふうに映っているんだろうか……。そう意識すると、お尻の辺りがモゾモゾするような恥ずかしさを感じる。でも、決してそれは嫌な感じじゃなかった。
「何が『またぁ』や?さてはアキラ、こんなこと言われ慣れてるな?」
 睨みながら、なおも乳首を弄られる。それは固く勃ち上がるけれど、快感ではなくむず痒さしか生まない。世の中には、乳首弄られただけでイッちゃいそうになるやつもいるっていうのに。
「言われ慣れてるわけじゃないよ。……僕全然エロくないし。っていうか、あんまり……その……なんていうか、あの……」
 やっぱり、最初に言っといた方がいいだろうか。後ろではイケないって。いや、やっぱりそんな興醒めなこと、言わない方がいいか……。
「ひょっとして、バックは苦手?」
 ユウヤは、ズバリと確信を突いた。
「う、ん……」
 僕は眉をハの字にしてわずかに頷いた。これでもし嫌われたら……。
「ええよ。じゃあ今日は、そっちはせんとこか?」
「え?」
 それ、どういう……
 狼狽した僕の様子を見て、ユウヤは落ち着かせようとするかのように、唇にチュッと音をたててキスをした。
「痛いだけなん辛いやろ?気持ちようなる方法は、他にも色々あるやん。な?」
 僕は、半ばパニックになりながらユウヤを見上げた。まさかユウヤの方から止めようと言い出すなんて、想像もしていなかった。感じないなら、抱いてもつまらないと思ったのだろうか……。
 昼間、ヒデちゃんが僕に投げかけた言葉が頭の中でこだまする。
「ユウヤは僕のこと、抱きたくないの?」
 思わず、縋るようにそんなことを言ってしまう。そんな間柄じゃないのに。
「正直言うたら、そりゃ抱きたいよ。でもアキラが辛いのは……」
「じゃあ抱けよ!僕が辛いとか、どうでもいいじゃん!」
 僕はユウヤの言葉を遮った。ユウヤの優しさが恐い。もう本気で好きになりかけている自分が恐い。
「どうでもいいわけないやろ!二人で気持ちよくならな意味ないやん」
「なんで……?」
 なんでだよ、ユウヤ。僕達は単なる行きずりの、一夜の遊び相手のはずじゃないのかよ?
 そんな半端な優しさで、僕を翻弄するのはやめてくれ。
「なんでて……セックスってそういうもんやろ?」
 そう言われ、僕はそのまま押し黙った。このままじゃ、僕の身体の中にユウヤを受け入れることができない。確かに苦痛しかなくても、僕はこんなにもユウヤを欲しているのに……。
 おかしな話だ。今日会ったばかりの男なのに、今まで付き合った男よりもずっと抱いて欲しいと思っている。
「僕が、抱いて欲しいって言ったら?それでもダメ?」
「……アキラ………」
 ユウヤはしばらく僕の額にかかる髪をかき上げていたが、迷いを振り切るように僕の上に覆い被さった。じっと覗き込まれ、視界がユウヤの顔でいっぱいになる。
「後悔しても知らんで?」
「いいよ。後悔させてみろよ」
 そう言うや否や、いきなりキスされた。それまでとは比べ物にならないほど激しく、執拗にユウヤの舌が僕の口腔内を刺激し、僕の舌を捕らえて吸った。
「んんっ…ぁ……」
 こんな情熱的なキス、今まで生きてきて初めてだった。僕の全てを奪おうとするかのような、嵐のように激しいキス。
「そんなふうに、俺を煽んなよ」
 さっきまでの艶のある甘やかな声が、今は欲望に掠れている。
「あんたを恐がらせたくないんや」
 耳に唇を押し付けて、そんなことを囁かれる。
 僕はどうしちゃったんだろう。なんだか、フワフワして身体が宙に浮いてるみたいだ。
 ユウヤの熱い唇が、僕の顎を伝って首筋、胸へと下りていく。
「んっ」
 乳首をねっとりと嘗められ、その刺激にすぐ固くなる。でもそれはやっぱりむず痒さしか生まなくて、僕はそれが寂しかった。
「可愛いなぁ、これ。やらしい色してる」
「バカッ」
 一体何を言い出すんだこいつは。
 僕は羞恥に真っ赤になった。
 ユウヤは、何がそんなに楽しいのか、僕の胸にやたらと執着していて、乳首を嘗め転がし、吸い付いてはジッと眺めたりしていた。
「あ、あのさ……明かり消さない?」
 今さらながら、煌々と明かりが付いていたことに気付き、そっと囁きかける。
「え〜〜?」
 ユウヤは口を尖らせながらも、渋々僕の言うことを聞いてくれた。
「これは付けててええ?」
 そう言って、ベッド脇の小さなライトを付ける。
「おお、ムードあるねぇ」
 ユウヤは肘を付いて僕を見下ろし、僕の身体を、まるでピアノを弾くように軽く撫でた。僕は、ほの明るい光が浮かび上がらせるユウヤの整った顔を、ただ黙ってうっとりと見上げていた。
「なんちゅう顔してんの?」
「ん?」
「早く抱いてほしくて辛抱たまらん…っていう顔」
「そ、そうじゃないって!」
 心の奥底を見られたようで、慌ててつい強い口調で否定してしまった。
「んな速効否定せんでも……傷付くわ〜」
 苦笑しながら言われて、ベッドの上での冗談なんだと分かり、さらに慌てる。
 そうだ。こういう時、慣れてるヤツだったら、なんか適当に合わせて上手いこと言うんだろう。でも僕にそんなスキルがあるわけもなく……。これじゃ、場の雰囲気ぶち壊しじゃないか。
「あの…ごめん……なさい」
 なんて面白味のないヤツだと、呆れられたかもしれない。
「ええよ。あんまし慣れてないみたいやし、優ししたろかなぁー思たけど、今の言葉でキレた」
「え?」
「思いっきり激しくいかせていただきます」
 ユウヤはそう言って素早く僕に跨がると、にやりと笑う。
「えっ!?あのっ……」
「奥までいっぱい突きまくったるから」
 耳元で囁かれ、ゾクッと震えた。

「覚悟してな?」


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