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「んっ、あっ…あっ」
 ユウヤの動きが激しくなり、僕は思わず声を漏らした。
 さっきユウヤに指で愛撫された辺りに、快感と言うにはあまりにも弱い感覚だけれど、確かに痛みではない何かがあった。でもやっぱり、後ろだけで最後まで……っていうわけにもいかなそうだ。
 僕は恥ずかしさを押し殺しながら、そろそろと自身に手を伸ばそうとした。
「後ろだけじゃ足らんって?」
 ユウヤが、そう言って僕をからかいながら僕の手を握りしめて止める。その視線が、僕の下半身に注がれているのを感じて、思わず目を逸らしてしまう。
「こっち向いてみ、アキラ」
 ユウヤがそう言って、僕の顎をつかんで無理矢理視線を合わせる。
「何考えとるんや、あんたは。会ったばっかりの男に抱かれるやなんて……」
「そっちこそ……会ったばっかりの男抱いてるじゃん」
 僕がそう言い返すと、ユウヤはフッと笑った。
「あの掲示板で引っ掛けたん、俺で何人目や?」
「ユウヤが……はじ…めて……」
 僕は、目の前のユウヤの顔にしっかりと視線を合わせた。
「わかった。信じる」
 ユウヤはそう言い、切なげに眉を寄せながら僕に口づけした。弾力のある舌が、口腔内を激しく刺激する。僕はその繊細で、それでいながら大胆なユウヤのキスに酔った。
 目を開けると、ユウヤの形良い切れ長の目とまともに視線がぶつかった。でも不思議と羞恥心は湧かなかった。
「ほら、握ってみ?」
 ユウヤの手が動き、僕のソレを僕自身の手に握らせた。
「いつもしてるみたいに、して見せてよ」
 ユウヤは、僕の両膝を持って脚を大きく開かせた。その部分に熱い視線を感じて、僕は頬が熱くなるのを感じながらも、そろそろと手を動かし始めた。
「後ろ、ギュッって締め付けてきた。見られんの、好きなんや?」
「ちがっ……」
 僕は慌てて否定しながらも、自身を擦る手は休めなかった。なんだか、今のシチュエーションに酔っている自分がいる。確かに凄く恥ずかしいけれど、同時にもっと見てほしいような、ひどく淫らな気分だった。
 僕は目を瞑り、自分の快楽を追った。もう二度目の絶頂が近い。
「アキラ、今自分がどんな顔してるかわかってる?」
 ユウヤが僕の耳元で低く囁き、首筋をペロリと舐めた。
「その顔見てるだけでイケそうや」
 ユウヤの大きな手が、自身を握っている僕の手を上から包み込む。そしてそれまでとは比較にならないほど激しく動かした。
「あっ、ダメッ!」
 僕はそれが合図だったかのように、すぐに射精してしまった。
「ううー……もう……」
 ユウヤが切なげに眉を寄せながら、文句を言おうとした僕の唇を乱暴に塞ぎ、僕の中に深く深く己を突き入れて達した。
「ごめん、無理させたな。大丈夫?」
「ん……」
 ユウヤの声に、僕は朦朧としながらもコクリと頷いた。
「シャワー浴びる?」
「うーん……」
 今はダルくて、とても立ち上がる元気が出ない。
「抱いて行ったろか?」
「いいって!僕は後でいいよ」
 僕がそう言うと、ユウヤは小さく頷いてシャワーを浴びに立ち上がった。僕は、その後ろ姿をぼんやりと見つめていた。
 すぐに睡魔が襲ってくる。ダメだ、目を閉じちゃ眠ってしまう。終わった後、ユウヤといろいろ話がしたかったのに……。もう会うこともできない人なのに……。
 僕は勝手に下りてくる瞼との必死の戦いも空しく、やがて眠りについていた。


 なんだか温かくて気持ちいいものに身体を撫でられていて、僕は半覚醒の心地よさの中で思わず微笑んだ。
「んっ……」
「ああ、起きた?」
「あれっ?」
 僕を見下ろす顔。その手には、濡れたタオルがあった。それで僕の身体を拭いてくれていたらしい。
「あんまり気持ち良さそうに寝とったから、起こすのも可哀想で」
「あ、ありがとう」
 なんだか気恥ずかしくて焦ってしまう。ユウヤは黙って、ただ微笑んだ。
 その笑顔に胸が締め付けられた。僕はやっぱり、こいつのことが好きなんだろうと思う。
 僕は、ぎゅっとユウヤの身体に抱きついた。
「石鹸の匂いがする……」
 ユウヤが優しく僕の髪を撫でてくれる。
 ユウヤとこんな風に抱き合うのは、最初で最後なんだ。僕らは今日、これだけのために会ったんだから。今後会うことなんて二度とないんだから。
 今日のことも全て、やがてはいい思い出になって薄れていくのだろうか……。そう思うだけで、とてつもなく悲しくなった。こんな気持ちになるくらいなら、出会わない方がよかったとさえ思ってしまいそうだ。
「明日、予定あんの?」
「えっ!?」
 僕は、驚いて顔を上げた。
「なかったら、俺とデートせえへん?」
「どこ……行くんだ?」
「どこでも。アキラの行きたいとこ」
 そう言われ、僕は飛び上がりたいほどの喜びを押し隠して、ユウヤの鎖骨の辺りに額を預けた。
「わかんない。けど……あそこ、何だっけ?ユニバーサル……」
「ああ、ユニバーサルスタジオ」
「うん。そこ、行きたいな」
 本当は、ずっと前から行きたかった。でもヒデちゃんはそういうの嫌いだし、一緒に行ってくれる人がいなかったんだ。
「んじゃ、決まりな」
―――明日もまだ一緒にいられるんだ!
 僕は嬉しくなって、ユウヤの手をギュッと握った。
「ありがとう」
 その手は温かくて、そして優しい感触だった。


 翌朝、僕が起きると、もうユウヤは起きてテレビを見ていた。
「あ、おはよう」
「おはよ……」
 この男と昨日セックスしちゃったんだと思うと、何となく気恥ずかしくて、まともに顔が見れなかった。
「もうすぐ出るから、はよシャワー浴びといで」
「うん」
 僕は小さく頷きながら、ベッドの脇に僕のTシャツと下着が畳んであるのに気づいた。
「これ……ひょっとして、洗った?」
「うん」
 ユウヤはテレビから視線を外し、なんてことない様子で頷いた。
「俺の洗うついでに洗ってもた」
「あ、りがと……」
 なんか、滅茶苦茶恥ずかしいんだけど……。っていうか、こんなことされたこと初めてだし!下着まで洗わせちゃって……。
 僕は真っ赤になって、まだ少し湿っているそれを手に浴室に急いだ。


 ホテルを出て、近くの駅に向かう。時間は朝の十時。
「ここで何か食べて行こっか?」
 ユウヤが指差したのは、シアトルコーヒーのチェーン店。
「あっ、ここ好きだ!」
 この店は、僕の家の最寄り駅の近くにもあって、僕もファンでよく通っている。仕事が終わった後、時間があるときはここでお茶して、一息入れてから家に帰るのだ。最近のお気に入りはバニララテで、ここしらばらくこればっかり飲んでいる。
「俺、顔見ただけでその人の好きなフレーバーが大体分かんねん。今日はアキラの、俺が選んだるわ」
「えー!?なんだよソレ!」
 突然ユウヤが言い出したうさんくさい言葉に、僕は思いっきり吹き出した。
「まあ見ててみ」
 ユウヤは自信満々でそう言い、そして僕のために、なんとバニララテを注文した。
「どう?当たった?」
「うん。でもまあ、これ人気あるしね」
 僕は内心驚きながらも、なんてことない振りを装って答えた。
「でも当たりは当たりやな。俺の勝ちや」
 ユウヤはそう言い、にやりと笑った。
「誰も勝負なんてしてないだろー。しかし、何でわかったんだ?」
 席に着いて、バニラの甘いフレーバーのするコーヒーを啜りながら、僕は隣のユウヤを見上げた。ユウヤは、フォームミルク多めのラテを飲んでいる。
「まあ、雰囲気やね、雰囲気」
 ユウヤはそう言ってとぼけながらサンドイッチにかぶりつき、思い出したように付け加えた。
「あと…アキラの身体が、バニラシロップみたいに甘かったから……っていうのはどう?」
「ぐっ…!」
 真剣に耳を傾けていた僕は、この不意打ちに動揺してもう少しでコーヒーを吹き出してしまうところだった。こいつがこういうことを平気で言っちゃえるヤツだっていうのを、すっかり忘れていた。
「大丈夫?顔真っ赤やで」
「誰のせいだよ!」
 赤い顔のままユウヤを睨みつけていたけれど、こいつがあまりにも屈託なく笑っているので、つられて僕も笑い出してしまった。
「可愛いなぁ、アキラは。口の端に泡付けて」
 からかうように言われて、慌てて口元を拭う。
「僕のこと、年上だと思ってないだろ」
「あ〜、そういやそうやったなぁ。なんかソレ、信じられへんわ」
 にっこりと、蕩けるような笑顔を向けられ、僕はその顔に見惚れていたことをごまかすように甘いラテを一気に飲み干した。


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