10


「すっげー、びしょびしょなんだけど!」
『ジュラシックパーク・ザ・ライド』から出てきた僕らは、全身ずぶ濡れになって顔を見合わせて笑った。ボートの最前列に乗っていた僕らは、最後のスプラッシュ・ダウンで盛大に水飛沫を浴びた。
「真夏でよかったなー」
「うん、ホント。すごい気持ちいい」
 真夏の太陽に照らされれば、十分もすれば自然と乾くだろう。
 僕は顔を上げて青く晴れ渡った空を見上げた。もう四時過ぎだけれど、まだ日は高い。今日の最終で大阪を発つとして、タイムリミットはあと五時間ほどある。
―――五時間か……
 たったそれだけしか、ユウヤと一緒にいられないのだ。さっきから考えないようにしていたけれど、ふとした瞬間にそうやって別れのカウントダウンをしてしまう。
「何か飲む?」
「うん、そうだね」
 僕らは近くのカフェでアイスコーヒーを飲みながら、さっき乗ったアトラクションの感想を言い合った。
「やっぱこれ!スパイダーマンが一番面白かったなー、僕は」
 なんてことをパンフを見ながら興奮して喋っていると、頬杖をついてクスリと笑うユウヤと目が合った。
「アキラ、マジで年齢詐称してない?高校生とデートしてる気分や」
「うっ……」
 そりゃ、童顔で中身もガキっぽいけど、いくら何でも高校生はないだろう。
「ホンマ可愛いなぁ」
 しみじみ言われてしまい、僕はむっつりしながらパンフをジーパンの尻ポケットに仕舞った。一応「怒ってます」っていうアピールのために、無言でずずっとコーヒーを啜る。
 ユウヤはしばらく面白そうにそんな僕を眺めていたが、おもむろにアイスコーヒーを飲み干し、空の紙コップをタンとテーブルに置いた。
「もう全部乗ったよな?アトラクション」
「えーっと……ああ、そうだね」
 僕はストローを銜え、俯いたたままコクリと首を動かした。
「じゃあ帰ろうぜ」
「えっ、だって……」
 早くもユウヤは紙コップを近くのゴミ箱に捨て、立ち上がっている。
 その顔を見上げる僕の頭の中に、もしかしてユウヤは、僕と一緒にいることに飽きたんじゃないかとか、何か用事があるのかとか、様々な思いがよぎる。
「アキラ、今日の最終で東京に帰ってまうねんやろ?」
「……うん……」
 そう言われて、改めて淋しくなった。
「最後に俺のワガママきいてくれへん?」
「ああ、いいよ」
 僕は淋しさを押し隠して笑顔で頷いた。
 ユウヤが屈み込み、そっと僕の耳元に囁きかける。
「じゃあ、も一回ヤリたい」
「えっ…ちょっ……と」
 僕は焦って周りを見回した。もちろん、ユウヤの声が聞こえてるわけもないけれど。
「あかん?」
 至近距離でにっこり微笑まれ、カッと頬が熱くなる。白昼堂々、いったい何を言い出すんだろうこの男は。
 僕はとにかくこの場を立ち去るべきだと、あたふたと立ち上がった。
「おー、OKなん?」
「いいから歩けよ!」
 乱暴に二の腕を掴んで、そのまま歩き出す。
「こっからちょっと行ったとこにええとこあるから」
「ほ、本当にするのか?」
 僕なんか抱いて、本当にユウヤは満足できるんだろうか。
「うん」
 にっこりと微笑んだその顔は無邪気な少年のようで、僕はやけに眩しい思いで見つめた。ユウヤは普段は年相応だけれど、ふとした瞬間にやたらと少年めいた表情をする。
「じゃあ、行こう」
「うんっ!」
 ユウヤはパッと顔を輝かせ、なんと僕の手を掴んで歩き出した。こんな所で男同士の二人連れはただでさえ目立つのに、手を繋いで歩いていたら周りの注目の的だ。でも嬉しそうなその笑顔を見ていると、その手を振り払う気には到底なれなかった。


 大阪駅に戻り、しばらく行ったところのホテルにユウヤと一緒に入った。よくわからないが、この辺りはどうやら大阪の中でも有名なゲイスポットらしい。
「なんかごめんな」
「え、何が?」
「無理矢理誘ってもうて」
「いいよ。……っていうか、僕も……」
 言いかけて口を噤むと、ユウヤが先を促すように首を傾げる。
「僕も……?」
「僕も、したかったしさ」
 囁くような小さな声でそう言い、ベッドに腰掛けた。
「お、誘ってる?」
 ユウヤが素早く僕の隣に座り、肩を抱いて顔を覗き込んできた。
「ふ、風呂入ってくる!」
 僕は勝手に熱くなる身体を持て余し、あたふたとその腕の中から逃げ出した。振り返ると、両手をベッドの上に投げ出してこっちを見ているユウヤと目が合った。
「何や?身体洗ってほしい?」
「いい!」
 慌ててドアを閉める僕の耳に、ユウヤの特徴のある甘い笑い声が届いた。


「んっ……」
 ユウヤの唇が、僕の唇に重なり、顎を伝い、鎖骨を滑る。
 そしてまた唇に戻り、頬をかすめ、耳をたどる。
「アキラ……」
 甘いその囁きに、僕の身体はビクリと震えた。
 長い指で僕自身を握り、擦り上げられる。触られる前からもうすっかり形を変えてしまっていて、僕は少し恥ずかしくて身を捩った。
「すごい……ヌルヌルやな」
 ユウヤは興奮を隠さずそう呟いて、先走りの液を手の平全体になすり付け、根元から先端まで勢いよく扱き上げた。
「あっ、ダメ…そんなふうにしたら……!んっんっ」
「じゃあどんなふうにしてほしいんや?もっと速くか?」
 意地悪く言いながら、その手の動きを速くする。
「やあっ!んんっ、だめぇっ……」
 まるで女のような声が出て、僕は自分でもギョッとなって思わず身を竦ませた。目の前のユウヤを見ると、ちょっと驚いたように目を見開き、続けてニヤリと笑った。
「……ふぅん、これが好きなんか」
「ちがっ…!」
 慌てた僕の声など耳に入らないように、さらに激しく擦り、鈴口を指の腹でグリグリと捏ねるように弄った。
「ああっ……!」
 目も眩むような快感に、僕は我慢できずビクビクと震えながら達した。
「すげー、いっぱい出たな」
「だからさ……」
 いちいち言わなくていいから……と続けようとしたけれど、イッた後の脱力感で続きは言葉にならなかった。
「昨日の今日やし……あんまり濃いのはせん方がいいよな」
 ユウヤは、手に付いた僕の精液をティッシュで拭いながら、独り言のようにブツブツと呟いている。
「いいよ。ユウヤの好きなようにしても」
 その肘の辺りをつついて小声で言うと、ユウヤは形よい眉を寄せるようにしてククッと低く笑った。
「アホ。俺の好きなようにやったら、アキラなんか壊れてまうわ」
「そんなわけねーよ」
 僕はちょっと意地になってユウヤの顔を睨み上げた。
「ほな、生でしたい。お前の中にいっぱい出したい。ええか?」
「い、いいぜ?」
 露骨な言葉に、内心焦りながらもなんとか頷く。
「今、めっちゃ焦れへんかった?」
 からかうように唇をちょんとつつかれ、僕は腹立ちまぎれにその指に噛み付いた。
「痛い痛い」
 ユウヤは大仰に眉をしかめ、そしてそっと僕の舌を指先で撫で、ゆっくりと口腔をかき回すように動かした。そして、濡れた手で僕の乳首をキュッとつねった。
 そのままねっとりとしゃぶられ、僕は喉を鳴らして身を捩った。ピチャピチャという卑猥な音が、僕の耳を犯していく。
「んっ……」
 昨日は気のせいだと思ったけど、やっぱりそれは違うみたいだ。乳首―――感じるようになってる。舐められた所から、むず痒いような快感が生まれていた。いっそ強く噛んでほしいと思った時、ユウヤが僕の心を読んだかのように軽く歯を当てた。
「ああっ!」
 途端に、そこから鋭い快感が走った。僕の反応を見て、ユウヤが嬉しそうに笑う。
「ちょっと冷たいで」
 枕元に用意してあったローションを手に取り、後ろを慣らすために指が入ってきた。相変わらず乳首を甘噛みされながら内部を擦り上げられ、僕は低く呻いて足をばたつかせた。
「ここ、やな。どう?」
「んんーっ」
 僕は両手で顔を隠し、首を振った。信じられないけど、なんか気持ちいいかもしれない。
―――なんで?昨日まで全然……
「おーい、何か言えよ。アキラ?」
 ユウヤが僕の腕を取っ払って顔を覗き込んでくる。
「な、何だよ、バカ!」
 僕がそう言うのとほぼ同時に、ユウヤが二本目の指を差し入れ、その快楽の源をグリッと抉るように押した。
「ああっ!」
 途端に鮮やかな快感に襲われ、僕は背をのけ反らして喘いだ。ペニスから得る快感とは、全く違う。
 もっと欲しい。もっと確かで大きなもので突いて欲しい。
「アキラ……ここ、感じるようになったんや……。俺の指、二本も嬉しそうに飲み込んでる」
「だから……そんなこと…言うなって……ああっ!そこ…」
「ここ?ここ擦ったら気持ちええんや?また勃ってきた」
 ユウヤの瞳が、窓から差し込む街の光を受けてキラキラと光っている。僕はそれを、とても綺麗だと思った。
「あっん……」
「そんな可愛い声出したらあかんよ。俺、めちゃくちゃにしてまいそうになる」
 ユウヤは指を引き抜き、もう既に固くなって天を仰いでいる己にローションを落として片手で擦り上げた。昨日とは違って、なんだか余裕なく焦っているようにも見えた。
「なあ、俺のこと欲しいって言うて。俺のコレ欲しいって言うて」
「ほし……い。ユウヤのが欲しい」
 気がつくと、僕は誘導されるままそう口にしていた。
 ユウヤは僕の名を呼びながら荒々しく僕の上に覆い被さり、貪るような口づけを落とした。そして無言のまま僕の足を抱え上げ、腰を突き入れた。
「んっ」
 奥まで一気に押し入られ、僕は痛みと圧迫感に身を竦ませた。しかしそれも、すぐに快感へとすり替わる。
「アキラ…、アキラ」
 ユウヤはそれしか言えなくなってしまったかのように、ただ僕の名前を呼び、角度を変えて何度も激しく唇を合わせた。
「ごめんな、俺、全然余裕ない。嫌いにならんといて」
 僕は夢中でキスに答えながら頷き、その首筋に腕を巻き付けた。
「アキラ、可愛い。アキラの中、俺に必死に絡み付いてる」
 そう言いながらユウヤが腰を動かすたび、僕の内部から新たな快感が生まれた。太いカリでグリグリと快楽の源を擦られると、何とも言えない気持ちよさがビリビリとつま先まで突き抜ける。
 僕は知らず知らずのうちに、自らも大きく腰を動かして貪欲に快感を得ようとしていた。
「ああ、あかん。イキそう」
「あっ、あっ……僕…も……」
 僕らは口づけを交わして、舌を絡ませ合いほとんど同時に達した。
 ユウヤは深く息を付き、僕の足を下ろして自身も引き抜いた。
「アキラ、後ろだけでイッてもうたな。んな気持ちよかった?」
「ま、まーね」
 何となく気恥ずかしくて、ユウヤの顔がまともに見れない。自分が、後ろで達してしまったのも驚きだった。
 休憩するのかと思いきや、すぐにうつ伏せにひっくり返されて再びのしかかられる。
「ちょっ……と!休ませろよ」
 ユウヤは抗議した僕の首筋に唇を落とし、悪戯っぽく囁いた。
「身体が忘れんうちに、後ろでイク時のコツ掴まな」
「あのな……」
 チュッチュッと音を立ててキスされ、僕はくすぐったさに首を竦めた。
「昨日はさぁ、暴走したらあかん思て、実は風呂で先に二発ほどヌいといてん」
 そうか。だから昨日はあんまりがっついてなかったんだ。
―――っていうか、今日は……
 僕の不安を見透かしたように、ユウヤは僕の上に伸しかかったままにっこりと笑った。
「お前ん中に全部出す。最後の一滴までお前のここに飲ませたる。ええって言うたよな?」
「うっ……」
 確かに言った。
 ユウヤは、無言になった僕の髪をグチャグチャにかき乱し、腰だけを高く上げさせた。
「安心して。後でちゃんとキレイにしたるから」
「そういう問題じゃ……うっ」
 言いかけた時、再びユウヤが入り込んできた。
―――あー、もう、どうでもいいや
 今は、この快楽に身を任せていたい。
 僕はユウヤに揺らされながら、うっとりと目を閉じた。


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