梔子の夜

〜The night of the gardenia〜

5


 しばらくして、ユウマが僕の身体から出て行く。僕はぼんやりと、無表情のまま僕の中に指を突っ込み、体液を掻き出して情事の後始末をするユウマを見ていた。
 ユウマが見られていることに気付いて、薄く笑って僕の身体を起き上がらせる。
「お前、男好きだろ?」
 さっきも聞かれた質問。でも僕の答えは―――
「…………うん」
 さっきの答えとは違っていた。
「お前は淫乱の男好きだ。尻に突っ込まれて女みたいな声出していっちゃったもんな?」
「…………うん」
「普通、お前くらいの餓鬼じゃ尻に突っ込まれても痛いばかりで、感じるどころじゃないはずだ」
 そうなのか―――やっぱり僕は、普通じゃないんだ。
「でもお前は初めてのくせに、尻でいっぱい感じただろ。さすがの僕も呆れるくらい」
 僕は羞恥から、ユウマの視線に耐えきれず、そっと俯いた。
「そんな顔をして、男を誘う技も身に付けている」
「違う!」
 僕は驚いて顔を上げた。
「無意識にやっているのなら、なおタチが悪い」
 ユウマは嘲るようにそう言うなり、再び僕をソファに押し倒し、さっきまで男を受け入れていた部分に指を押し込めた。緩んだそこは、難無く一本飲み込んでしまう。
「ここがお前のいいところだ。……だろ?」
「あっ、あっ、やだ……んふっ!」
 さっき散々苛められた場所を再び抉られ、耳を塞いでしまいたい嬌声が飛び出した。
「もう少し身体が大きくなれば、もっと男を喜ばせる身体になる」
 そこをグリグリと指で押し上げ、軽く爪を立てるユウマの愛撫に、淫らな僕の身体は勝手に脚を大きく開いて腰を突き出してしまう。
「ふっ、あんっ!んん!」
「そんなに抱いて欲しいか?この淫乱」
 ユウマは嘲笑し、指を引き抜いて僕の身体を抱き起こした。座ったユウマの身体を跨ぐ形で向かい合う。
「もっと太いのが欲しいんだろ?なら自分で入れろ」
 ユウマが自身を擦り上げ、勃ち上がらせると、僕の目はその禍々しい凶器に釘付けになった。確かに、もう指の刺激だけじゃ満足できないほど、後ろは男を欲していた。
 そっとユウマのそれを握り込み、自分の後ろにあてがう。僕はもう片方の手をユウマの背中に回し、その胸に頬を押し付けるようにして少しずつその怒張を飲み込んでいった。最初感じたような鋭い痛みはなく、鈍痛と腸を押し広げる圧迫感があったが、僕はゆっくりと時間をかけて全てを中に納めた。
「動け」
 ユウマが、僕の刺激を求めて震えているペニスを指で弾いた。
 僕はユウマに命ぜられるまま、ユラユラと腰を揺らし始める。
「キス…してほしい」
 幼い僕なりの、精一杯の媚を含んだお願いに、ユウマが僕の髪を引っ付かんで引き寄せ、噛み付くような激しい口付けを与えてくれる。
「んっ、んっ……」
 僕は懸命にユウマの首に両腕を回して縋り付き、そのキスに答えた。
 僕の口内を犯すユウマの舌と、僕のアナルを犯すユウマの凶器の動きが、頭の中で一つになる。結合部から、ジュブジュブと卑らしい水音が漏れ、僕の顎から二人分の唾液が糸を引いて落ちた。
「とんでもない餓鬼だな」
 ユウマが唇を離し、呆れたように呟いた。
「そんなに男が好きか?ん?」
 ユウマが下から軽々と僕の身体を持ち上げ、手を離した。いきなり最奥にまで亀頭がめり込み、目も眩むほどの快感が僕を襲った。
「いやあああーッッ!」
 僕はのけ反り、そのまま後ろに倒れそうになったところを、ユウマの手が首の後ろを支えて引き戻した。幼い僕の精は、何度も射精を迎えることは出来ず、ただいつ果てるともなく続くオーガズムに翻弄されるしかなかった。
「男が好きか?男に尻を犯されるのが好きか?」
 ユウマが僕の膝裏を掴み、下から抜き差しをしながら揺すった。
「はぁ、んっんっ……。す…き……大好き!」
 僕はそう叫びながら、頭がクラッと揺れたかと思うと、次の瞬間には意識を失ってしまったのだった。


 目覚めた時には、僕は濡れたタオルで丁寧に身体を拭かれているところだった。ユウマは僕が目覚めたことに気付くと、軽く頷いてみせ、僕の顔を覗き込んだ。
「どこか痛むか?」
 本当は後ろが鈍痛を訴えていたが、僕は黙って首を振った。
「脚を開け。薬を塗ってやる」
「いやっ!いい!」
 僕は突然沸き上がった羞恥から起き上がり、身体を丸めた。
「薬を塗るだけだ。それ以上はしない」
 ユウマは呆れたように僕を見下ろしていたが、なおも首を振り続ける僕の頑な態度に、ついに諦めたようだった。
「もし痛みが出たらこれを塗りなさい。いいね?」
 ユウマは僕の手に小さなチューブを乗せた。
「疲れただろう。紅茶でも飲むか?」
 そう言うと、僕の返事を待たずにソファから離れ、キッチンに立った。
「家はどこだ?送って行くから服を着ろ」
「いいよ。一人で帰れる……」
 僕は思いのほか優しいユウマの言葉に、ドギマギしながら服を身に付けた。
「そんな身体じゃ無理だ。……熱いから気をつけろ」
 ユウマは無表情で、ミルクティーの入ったカップを僕の前に突き出した。
 僕は「ありがとう」と小声で呟いてそれを受け取り、両手で持ってフーフー息を吹きかけて一口飲んだ。視線を上げると、こちらをじっと凝視しているユウマと目が合った。
「そこにいろ」
 ユウマはそう言い置いて、居間を後にした。
 僕は紅茶のカップを置き、自分の左膝に目をやった。怪我をした膝にユウマが巻いてくれた包帯が解けかかっていて、新たな血が滲んでいるのが目に入った。ユウマはもしかしたら、傷の手当てをやり直してくれるつもりで、救急箱を取りに行ったのかもしれない。
 ユウマが消えた後の、僕の決断は自分でも驚くほど早かった。

 逃げなくてはいけない。ここにいてはいけない―――

 僕は素早く立ち上がり、玄関に走った。転びそうになりながらもなんとかスニーカーを履き、鍵を開けて外に飛び出る。外はもう薄暗く、庭の明かりの下に僕の自転車が止めてあるのが目に入った。自転車に走り寄る僕の身体を、いつから降り出したのか、夏の霧雨が濡らし始めた。
 自転車を押しながら門の鍵を開け、振り返った僕の視線の先に、玄関の扉を背にして佇むユウマの姿が映った。その顔は怒っているようでもあり、笑っているようでもあった。どうやら追ってくる気はなさそうだということが、僕に対する執着心の薄さを物語っているようで、思いのほか深く僕を傷つけた。
 雨のせいか、あたりには凶悪なほど強く、梔子の甘い香りが漂っていた。


 結局その後、僕はフラフラになりながらも、なんとか自力で一時間近くかけて家まで辿り着いた。帰りが遅い僕を心配して、心当たりのあるところに電話を掛けまくっていた両親は、雨に濡れ、憔悴し切った僕の姿を見て、叱るのも忘れて僕に風呂に入るように言った。ハーフパンツで膝が隠れていたので、足の怪我に気付かれることはなかった。
 裸の僕の身体には、あちこちに赤い痣が散っていた。恐る恐る後ろに手をやると、中から僅かに粘液が流れ出て来た。ユウマが僕の身体に叩き付けた、白い体液。
 僕はバスタブの中、堪えきれずに膝を抱えて泣き出した。ユウマが僕の身体を貫いた証が、僕の身体から流れ出して行く。消えて行く…………。
 それがこんなにも僕を打ちのめしているという事実に、僕は声を上げて泣き続けた。



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