北村龍平 「あずみ」


 方々でクソミソにけなされている作品。『模倣犯』『シベリア超特急』のような怪作に出会うとそれだけで喜んでしまう私にとって、前評判の最悪な映画は何よりのツマミになるのだけれど、これは駄目だった。怪作にすらなりきれてない、間延びしたツマラン映画でした。以下全部文句で埋めますので、ファンの方は適当に流してください。ちなみに原作は読んでませんのでそっち方面の意見は黙殺。


 端的に言うと、ぬるいんですよ。『模倣犯』のように、映画のフォーマットの段階、土台の時点から狂ってる作品に比べれば、相当常識的に撮られています。しかし、全体の雰囲気は「まとも」ではあるものの、個々の要素――殺陣の完成度、脚本の完成度、CGの使用法などなどが著しく低いレベルでまとめられているため、見ていて全然面白くない。この辺が「怪作」という扱いを受けず、「文化祭レベルの作品」と呼ばれるゆえんです。


 まず、殺陣が駄目すぎ。上戸彩と愉快な仲間たちの強さが微塵も伝わってこない。「あずみはスピードの剣士」とか言われながら、スピードをアピールする方法が「敵キャラをスローモーションにして、相対的に速さを演出」だもんなあ。もちろん「あずみだけを早送りする」も駄目。生身の肉体で、生身の映像でスピードを出さなければ。これは役者の身のこなしにもよるのだけど、監督の撮り方が下手すぎるせいというのが一番大きいと思う。あのとろい殺陣をそのまま撮り、そのまま流してしまうのはセンスがないとしか言いようがない。

 あと、山賊に羽交い絞めにされて何も出来なかったあずみが、川に石を投げて衝撃波で魚を殺したり、太い木の柱を一太刀でぶった切ったりするのはNG。大の男と鍔迫り合いしたら吹っ飛ばされるだろ。真っ向勝負をせずに、スピードで交わして相手を倒す剣士なんじゃないの? こういうディティルの統一が出来ていないもんだから、各キャラクタの特性、長所と短所が全く判らない。

 「三井は素晴らしいシューターだけれど、調子の波が激しくてスタミナがない」というような特徴を個々が持っていないと、カードの切り合いが出来ないからゲームが成立しないんですよ。全部特徴のない中庸な戦士ばかり。これでは殺陣に緊張感が生まれるはずもない。

 最後の決闘にしても、各パラメータについてどちらがどれくらい上回っているかがはっきりしないので、結果ザコとの戦闘と一緒になってる。こんな状態で200人斬りなんてやられても単調になるだけだ。血が出たり出なかったりするのもおかしい。怖がらせのシーンだけ出血さすな。プロレスか。


 次に脚本。あずみたちが何をやりたいのかがわからない。何度も何度も「使命のために生きる」と言ってるものの、何で使命のために生きなきゃいけないのかが不明。使命の全うをあずみたちのアイデンティティにしてしまうとか、幼少時に戦争に巻き込まれて酷い目を見るとか、じじいに洗脳されてるとか、殺人狂の資質があるとか、そういうエピソードを入れないと戦いに向かうあずみの心境に全く感情移入できないわけで。

 じじいが戦う理由はわかりますよ。しかし、じじいの理由とあずみたちの理由がリンクしていないんですよ。じじいが死んだシーンであずみを泣かせているところを見ると、監督の頭の中ではリンクしたことになってるのかも知れないけど。こういう辺りが非常に雑。

 また、冒頭で仲間同士殺しあうシーンも意味不明。使命を全うしたいなら最初から十人で挑めよ。仲間を殺したことがあずみたちにとってのプラスになっているシーンが皆無なので、冒頭のシークエンスが浮いてる。「あずみが初めて殺人を犯すところで、躊躇して、その瞬間死んだ仲間の顔が頭をよぎる……」とかそういうシーンを入れればいいだけの話なんですよこんなの。それすらしてない。ありえねー。素人以下だぞ。毒を受けて死ぬのもただ仲間を減らしたかっただけだろ? ご都合主義極まれりですな。


 物語における矛盾というのは、作者がどうしてもやりたいことが先にあって、それに向かって組み立てていく過程において発生することが多いです。私は結果的に「やりたいこと」が素晴らしければ、多少の矛盾は仕方ないと思ってます。でも『あずみ』は何がやりたいのがさっぱりわからん。『椿三十郎』のように最後の戦闘を見せたかったわけでも、『座頭市』のように殺陣のかっこよさを追求したかったわけでもなさそう。矛盾、矛盾の果てに辿りついた先には何もない。最初から最後まで、私の頭の中には?マークが踊り騒いでましたわ。

 まあ、ただひとつの見所、上戸彩の太ももに敬意を表して0.5点プレゼント!(ヤケ) 早くも本年度ワースト作品決定かな。


2004年1月15日



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