歌野晶午 「葉桜の季節に君を想うということ」
☆☆☆☆☆


昨年の「飛蝗の農場」に引き続き、このミスではゲテモノが1位になるプチ傾向があるようで、この作品も思い切りゲテモノでした(笑) でも滅茶苦茶面白い。「ROMMY」を工房のときに読んで以来遠ざかっていたのだけれど、歌野は小説家として随分成長したなあ。感慨深い。


「葉桜」の魅力を説明すると、ハードボイルドとしての面白さ、結末のどんでん返しの妙味、の二つに尽きると思う。

前者に関しては、もともと孤島の館やら、悪魔城(?)やらを舞台にしたガチガチのミステリではなく、どちらかというと普通小説や恋愛小説に近いものを書いてきた歌野の本領が充分に発揮されている。

新興宗教団体への内偵、恋愛小説、ヤクザもの、宗教に騙された女性の話……などなど、プロットとしては盛りだくさんで下手したら破綻しそうなのだけれど、きちんとメインを「新興宗教」に据え、そこから逸脱させない制御の仕方が効を奏したと思う。このように確固たるメインを設けることで、サブの物語も高い自由度で書くことが出来、生き生きとした人物を活写出来ている。お見事。


そして、触れておかなければいけないのが結末のどんでん返しでしょう。

この手の作品は、販売の段階で「驚天動地の結末!」といった煽りとともに売り出されるので、読者が構えてしまってラストが最大限の効果を上げない、といった構造的な問題がある。例えばアルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』を見たとき、「この結末は誰にも言わないでください」的アオリのせいで、中盤くらいで真相がわかってしまった。映画や本をある程度読んでいる人なら、同様の経験は何度もしているでしょう。

そういう人たちも、『葉桜』には多分騙されると思う。こういうトリックは、私の知る限りミステリの世界にはなかった。
とはいえ、過剰な期待をしていると「なんだ、こんなものかで終わってしまいそうなトリックでもあるので、これから読む皆様は当面ハードボイルドの面白さに身を委ねて欲しい。


そして、結末。
私は泣きそうになりましたよこれ。『半落ち』なんかよりもずっと刹なく、胸に迫ってくる。
なんと言っても、題名の意味がラスト1行で明らかになる構成が凄すぎで、結末をぐっと印象深くしている。


大どんでん返しが売りに出されているものの、決してどんでん返しのみのミステリではなく、どんでん返しが物語の深みを増すための装置として機能している紛れもない「小説」です。
ハードボイルドとしての面白さ、マニアックな大仕掛け、そしてその大仕掛けを感動に返還してしまう結末。この構成美と面白さは、ロス・マクドナルドの「さむけ」の域。お勧め。


2003年12月31日



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