「・・・はいつもどうしてるの?」
「……いつも?」
母の胸の中で心地よい余韻に浸っていた少女は、母の質問
の意味が分からず首をかしげた。
「さっきも自分でしようとしてたでしょ、こんなふうに」
母は少女の手を取ると、ふさふさした下腹部の茂みの奥に
導く。そこはだいぶ時間が経っているのに、いまだ熱く潤ん
でいた。
「ぃ、いつもなんてしてないよ!」
その感触で何を聞かれたのか悟った少女は、母の誤解を解
こうと強く否定する。
「それじゃ、たまにしてるのね」
「たまにもしてないの」
「なら、いつ?」
「えと……」
簡単に追い詰められて返事に窮する少女。言わないで済む
ならそうしたいが、嬉しそうな母の様子からそれは無理そう
だった。ウソはつきたくないが、言えば必然的に両親の情事
を盗み見したことがばれてしまう。
「自分でするのは誰でもしていることで、悪いことじゃなの
よ。ただお母さんはお母さんだから、娘がどうしているのか
知っておきたいだけ」
臆する少女の心をほぐそうと、母は汗で額に張り付いた髪
を取り除いてキスをした。そこから少女の顔中にぽわぁっと
温もりがひろがる。
「……きのうの……夜」
「えっ……あら、もしかして?」
少女がうなずくと、母は困ったように苦笑いを浮かべる。
やはり少女が起きていたことは気が付いていなかったようだ。
「ごめんなさい……」
「いや、お父さんたちが悪い。それが寝坊の原因ならお父さ
んたちは失格だ」
ちょうどコーヒーを入れにいっていた父が戻ってきて、少
女の前に座って頭を下げる。
「すまなかった。疲れていたのに起こしてしまって」
「ごめんね、・・・」
自分の方が悪いと思っている少女には、かしこまって謝ら
れるのは居心地が悪かった。
「いいよ、あやまらなくても。そうじゃなくても、寝坊して
たかもしれないし」
「そりゃ・・・は悪い子だな」
父の大きな手にクシャクシャと頭を撫でられ、少女は顔を
崩す。父に悪い子と言われるのは悲しいが、決まり悪い今の
状況から話題を変えられるなら我慢しようと少女は思う。
「・・・は、お父さんとお母さんをみて、どう思った?」
「え、どうって……」
少女の考えとは裏腹に、母は先程の質問を続けるつもりら
しい。
「いやらしいって、嫌いになった?」
「そんなことないよ! わたし、大好きだよ!」
嫌いになるようなことなど、何もない。
「だって、お母さんはきれいで……」
綺麗で、嬉しそうで、幸せそうで、気持ち良さそうで、互
いに愛し合っているのがよく分かって。それを見ているだけ
で少女は熱くなって。
「…さみしくて……」
だから、同じようになりたくて、指で触って。
「そっか、ごめんね。お母さんたち、気が付かなくて」
知らずにこぼれ落ちた涙を、そっと母の舌がなめ取る。温
かい母の胸、温かい父の手のひら。あの時はさみしかったが、
今は違う。しがみついた少女の腕の中に、確かな温もりがあ
るから。
「だから今度はお母さん達がちゃんと見てあげるね」
「……み…て?」
母の言葉の意味が分からず、少女はふたたび首をかしげる。
「昨日が初めてなら、ちゃんとできているか分からないでしょ」
「女の子の体はデリケートだからな。間違っていると大変だ
ぞ?」
その行為にちゃんとした方法があるのか少女には分からな
い。しかし両親が怖がらせるために脅そうとしているのでは
なく、ちゃんと気を付けなければならないことなのだとは何
となく分かった。
「……うん」
たぶん、見られている分だけ昨日のようにさみしくはなら
ないだろう。欲を言えばさっきのように母の指でしてもらい
たかったが。
「よしよし、いい子ね」
「まず始める前に言葉からだな。・・・はなんて言うか知っ
ているかい?」
同年代の子供達と比較して大人びた少女であるが、その手
のことに関して少女はかなり疎い。少しだけ考え、考えても
答えは出ないと気づいて首を振った。
「漢字なら自分で慰めると書いて自慰、英語ならオナニーだ」
「可愛らしく一人エッチとも言うかな」
どれも初めて聞く言葉で、聞いているだけなのに恥ずかし
くて顔が赤くなってしまう。すでにそれ以上のことをしてし
まっていても、行為と言葉が結び付いて具体的なイメージが
頭の中に浮かんで少女の羞恥心をあおった。
「それじゃ、次は宣言だな。どれでも好きなのでいいから
『わたしはこれからXXします』」
「『お父さん、お母さん、ちゃんと見てください』って、ね」
両親のとんでもない言葉に少女は目を丸くする。冗談かと
思いたかったが、二人とも顔はにこやかでもふざけている様
子はなかった。
「言わなくちゃ、ダメ?」
聞くだけでも恥ずかしいことを両親の前でして見せるのに、
さらにそれを稽古事の発表会のように言うのは恥ずかしさの
度合いが違い過ぎる。
「言ってくれなきゃ、お母さん見られないわ」
「何事もちゃんとしないといけないぞ」
最初に見せろと言ったのは両親だが、少しその気になって
しまった少女としてはおあずけされてしまうのは辛い。恥ず
かしくても両親だから、両親だから恥ずかしくて、その加減
が難しくて。ただ、いくら悩んでも今の少女の答えは決まっ
ていた。
「……わ、わたしは…これから……ひ、一人、エッチ…しま…
す……」
初めて口にする恥ずかしい言葉。まともに両親を見られず
目をつぶって。顔が沸騰したように熱くなって。熱はあっと
言う間に全身を巡り、下腹の奥に集まっていく。
「ぉ、おとおさん、おかあ…さん……ちゃ、ちゃんと…みて…
く、くだ…さ…い……」
恥ずかしさで硬直した少女の身体を、そっと抱き締める柔
らかな胸と逞しい胸。
「大丈夫よ、しっかり見てあげるからね」