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[142]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/02/28(火) 18:20:26 ID:gRvDyg2S
[143]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/02/28(火) 18:23:08 ID:gRvDyg2S
[144]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/02/28(火) 18:24:11 ID:gRvDyg2S
[145]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/02/28(火) 18:25:28 ID:gRvDyg2S

魔法少女リリカルなのはA’s −変わりゆく二人の絆− 第七話 過ぎ去りし記憶と共に・後編

「シグナムっ!!」
爆煙に消えた仲間の姿は、夜天の書の拳をバルディッシュで受け止め鍔迫り合いを演じるフェイトの目にも入っていて。
シグナムの窮地にフェイトは相手に隙を見せるということも忘れ、声をあげて彼女の名を呼ぶ。

しかし。

「う・・・おおおおおおっ!!」

彼女の心配、安否を気遣う一同の視線は、幸いにして杞憂に終わり。
烈火の将は土煙の中を突き破って無事な姿を再び彼女達の前へと現し、
バリアに守られた敵へと、その剣を叩きつけるように浴びせていく。

「まだ、まだぁっ!!」
「・・・・」

しかして、夜天の書は一向に動揺した様子すら見せず。横に身をずらしてそれをかわすと、自らの守護騎士と合流し一定の距離をとる。

「・・・・テスタロッサ!!一旦後退だ!!」
「!?っく・・・・!!」

ガギリ、と鈍い音がしてハーケンフォームのバルディッシュが夜天の書の蹴りを受ける。
重いその一撃は、直撃を受けていれば骨の2,3本は軽く折っていかれただろう。

「そんな、でも・・・!!」
「こいつらが私の考えている通りなら・・・このまま続けても削られて消耗するだけだ!!退け!!」
「けど・・・!!」

(フェイト、悪いけどあたしもここはシグナムに賛成だ)
(アルフっ!?)
「済まないけど・・・・ちっとばかし数が多い。ザフィーラと二人じゃ、シャマルを守りきれるかどうか・・・・!!」

見ると、フェイト達が2対4の不利な戦いをしている間に。
いつの間にかその数を増した使い魔達によって、アルフ達は周囲を囲まれてしまっていた。
最初は無事そうに見えたシグナムも、額に脂汗を滲ませ、手数こそ多いものの明らかに守勢に回っている。
よくよく観察すると右手だけで剣を保持し、左腕は力なくだらりと垂れ下がっていて、痛むのか時折苦痛に顔を歪ませる。
彼女が今、相手の攻撃を受け続けるのが不可能な状態だから積極的に前に出て誤魔化しているに過ぎないということを、嫌でも気付かされる。
シグナムの指摘通り、そこには一方的な消耗戦の図式が出来上がってしまっていた。

─────それは、情報確認と把握を怠ってしまった、本来のフェイトならばあり得ないほど初歩的な。指揮官として絶対やってはいけないミスだった。

「っ・・・・!!」
「一旦退いて立て直すんだ、テスタロッサ!!」
「フェイト!!」
「このままでは、スクライアを救助するどころではっ・・・!!」

(何をやってるんだ、私は・・・・)

何たる、失態。自分を罵り、歯噛みしながらもフェイトは自身のデバイスに、すべきことの指令を出す。

「バルディッシュ・・・・サンダーブレイド・ランダムショット、フルオートファイアッ・・・!!」
『yes,sir』
「着弾後、オートでブレイク設定・・・!!」

呪文の発動と共に、雷を纏ったいくつもの刃が広間とも言うべき空間の壁や床、いたるところに突き刺さり爆散していく。
元より老朽化し、風化しかけていた部分さえもある壁面はそれによって多くが崩壊し、土埃をあげ。
爆風や着弾、崩れ落ちてくる壁の構成材に轢されることによって消滅する使い魔たちも少なくはない。

瓦礫に埋もれた遺跡の一室に静寂が訪れ、舞っていた埃がおさまった頃には、
フェイト達の姿はそこから完全に消え去っていた。

戦略的撤退、とは言うけれど。
そういった聞こえのよい言葉に粉飾されてなお、敗退と言ったほうが「らしい」後退であった。




         *     *     *




ミッドチルダ式魔法陣を模したシールドが、同様にベルカ式のものを模したそれが、クロノとヴィータ、それぞれの前に展開される。
ラウンドシールドと、パンツァーシルト。二つの防御魔法が広がり、敵からの攻撃を防ぐ盾として。

「あ・・・・あ・・・・」
「リインフォース!!お前もやんだよ!!」
『は、はい!!』
「武装局員達は後退!!僕とヴィータの後ろへ!!」

かつて失ったはずの自らのデバイスの出現に呆然自失状態のはやて。
彼女を守るべくヴィータはリインフォースへと指示を出し、クロノもまた局員達を自分達の後ろへ下がらせる。
二人とも各々、ありったけの魔力をシールドに込めながら。

「デアボリック・・・・エミッション・・・・」

そして、漆黒の一撃が放たれる。

「来るぞっ・・・!!アースラ、バリア展開しつつ後退!!」
「シールド、途切らすんじゃねーぞ!!リインフォース!!」
『はい!!』

球体であった暗黒は、ゆっくりと広がっていき、辺りを飲み込んでいく。

「ぐ・・・ううううううぅぅっ!!!何て重さだ、ちっくしょおっ!!」
「耐えろヴィータ、リインフォース!!く・・・・!!」

一発でも、なのはの強固なシールドからごっそりと魔力を削っていった空間攻撃魔法が二発同時に合わさった、一つの攻撃。
それは単純な威力の1+1の足し算ではなく、相互の威力が混ざり合うことで破壊力が三倍にも四倍にもなっている。
クロノ達三人のシールドを合わせても、三つの盾にダメージを分散させることでなんとか耐えるのがやっとだった。

「まだ・・・おわんねーのかよっ・・・!!」

少しでも、いい。なるべくはやく魔法の発動が終わることを祈りつつ、必死に彼らは耐え続ける。

『クロノ君!!聞こえる!?』

ずしりと重い衝撃、ごっそりと魔力の削られていく不快な感覚に、顔をしかめつつ堪える一同の下に届いたのは、
切迫した声のエイミィによる通信だった。

「どうした・・・・?こっちは・・・・手が離せない・・・・!!」
『大変なの!!クロノ君達の後ろ、アースラと待機中の局員達との間の空間に転送魔法陣、多数発生!!』
「なん、だと・・・!?」
『こっちでも確認しました!!さ、さっきの狼さん達です!!』
「挟み撃ちかっ!?どーすんだよっ!!」

悲鳴のようなリインフォースの声と、ヴィータの叫び。
少しでも気を抜けばシールドを破られてしまいかねないこの状況では、後ろを振り返って戦況を確認することすら許されない。
だが早急に手を打たねば隊列が乱れ戦力的に劣る武装局員達に多くの犠牲が出てしまう。

「いけ、はやて・・・・!!」
「え・・・・?」
「リインフォースなら君から離れてもシールドを張り続けることができる・・・・動けるのは君だけだ、行け・・・!!」
「せ、せやけど・・・」

突然のクロノの指名に、先ほどから呆然と状況を見ているだけだったはやては首を振り、うろたえる。

「行くんだ!!君しか・・・!!」
「せ、せやけど・・・・」

あれを操っているのは、リインフォースなのだ。はやてが愛し、はやてを愛してやまなかった、深き主従の絆を結んだ魔導の書なのだ。
そんな彼女と敵対し、戦うなんて考えられなかった。例えリインフォース本人でなかったにしても、同じ姿をした者を攻撃し、攻撃されるなんて。
とても耐えられない。シュベルトクロイツを握る右手は震え、せわしなく動き回る視線はおろおろと、クロノ達と後方の狼の群れをいったりきたりする。

『マイスター、行ってください!!』
「はやて!!」
「行け!!早く!!」

「でも・・・でも・・・」
はやてがこうして迷っている間にも局員達は傷つき、倒れていく。数が減っていく度に彼らの不利の度合いは増していく。

(く・・・まずい、一旦武装局員全員を下げるべきか・・・・?はやてがこんな状態では・・・・!!)

奇しくもクロノが遺跡内部の妹と同じく、一時後退の意を脳内に浮かべたその時。


『っ・・・!?遺跡に関する追加資料を受信!!発信源は・・・レイジングハート・エクセリオン!?』
「!!」

──────彼女が、間に合った。

突然送られてきた新たな情報に戸惑うエイミィの通信を聞き、一同が顔を見合わせる。
時を等しくして、彼女からの念話が入る。

(・・・・クロノ君、ヴィータちゃん、はやてちゃん、リインフォースちゃん。こっちは任せて)
「ああ・・・・っ!!頼む・・・!!」
(みんなは、シールドの維持に専念してっ・・・・!!)

念話が終わるか終わらないかのうちに、一番右の一団を攻めていた狼の一体が爆散した。
局員達を取り囲む狼達はその異変に、はじめて自分達がそれぞれ三つずつの光の玉によって包囲されていることに気付く。

『divine shooter』

野生の持つ敏捷性など、その桜色の光の前では無駄だった。8体ほどいた狼の殆どは初動の一撃すら避けることもできず、
避けた者達もその誘導弾の誇る性能の前に次々と撃墜されていく。

唯一残った最後の一体は、四方八方から逃げ場なく迫ってくる魔力弾の集中砲火によってその身を散らした。

「武装隊は残った者で4マンセル編成!!相互にフォローできる陣形をとりつつ警戒態勢を維持!!」
『divine baster extention』

声を張り上げながら彼女は二体の夜天の書の意思へと、己が主砲をぶっぱなす。
呆けたようだった武装隊員達は聞き覚えのある上官の声に慌てたように命令を実行し、
隊列を組みなおし──不思議なことに彼らの慌てぶりは明らかに怯えといった類のものを含んでいた──。
押し寄せる魔力とも言うべき砲撃を受けた銀髪の女性達は防御魔法による盾でこれを防ぐ。
入れ替わりに魔力供給の絶たれた漆黒の破壊空間は萎んでいき、
魔力による重い圧力から解放されたクロノ達は息をついて上空を見上げた。

「ったく・・・・来るのがおせーんだよ・・・」
「なの・・・は、ちゃん・・・・!!」

───時空管理局武装隊所属戦技教導官・高町なのは。

「レイジングハート、カートリッジロード」

(大丈夫だよ、リインフォースさん)
戦域全体を俯瞰し、見渡せるその上空から向けられる彼女の視線はただ一点。

「あの子達は、わたしが代わりに止めるから・・・・!!」

俳莢しエクセリオンモードへと変型を完了したレイジングハートを手に、
はやて達の見るそれとは違った眼差しで、その先の夜天の書「達」をじっと見据えていた。


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