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[243]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/03/07(火) 20:37:14 ID:ldKF1kJD
[244]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/03/07(火) 20:38:30 ID:ldKF1kJD
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[246]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/03/07(火) 20:42:06 ID:ldKF1kJD

魔法少女リリカルなのはA’s −変わりゆく二人の絆− 第八話 知識の渇望

武装隊は再編成終了後艦の直援に回って!!第一線には私が加わります!!」

到着した少女は、一騎当千にして、百戦錬磨。
己が戦闘技術を授けた部下達へと的確な指示を出し、自らもまた槍のような形状をとった愛機の切っ先を、
道を阻まんと立ち塞がる二体の女性へと向ける。自分の取るべき行動を、実行に移すため。

『starlight breaker』

「なのは!!あの結界はユーノのものだ!!十分にチャージしないと弾かれるぞ!!」
「わかってる!!これでっ・・・・!!」
「やりすぎんなよっ!!中にはシグナム達だっていんだからなっ!!」

収束されゆく魔力を察知しなのはを目指してくる狼達を撃ち落としながら、クロノが叫ぶ。
ヴィータもまたはやてを守りながら同じ作業を行い、なのはのチャージタイムを稼ぐのを助けてくれている。

「大丈夫!!ちゃんと調節する!!」

二人の言う一見矛盾した要求も、彼女の卓越した戦闘技術ならば、可能。それでも彼女は過信など、しない。

───待ってて、ユーノ君。今、行くから。

ちらりと、ヴィータに守られ続けるショートヘアの少女のほうを見る。
(・・・ごめん、はやてちゃん。もう少し待って)
きっと自分は、彼女の今の不安な精神状態を助けることができる。
それだけの情報を、自分は持っている。けれど、今はまだ。
(この状況を、なんとかしないと・・・)

なのはに「彼女達」のことを託したあの人のためにも。
そして、謝らねばならない親友、助けを待っているであろう、大切な「友達」のためにも。

(まずはこの結界を壊すのが、先決っ・・・!!)

カウントは完了、いつでも発射は可能。あとはただ、ありったけの魔力を解放するのみ。

「いくよっ!!レイジングハート!!みんな、射軸上から退避して!!」

スターライトブレイカー。
その結界破壊の追加効果を持つ魔力の噴流が、翡翠色のドームへと突き刺さる。否、撃ち貫き、粉砕する。
相互の魔法の干渉による閃光の中、二体の夜天の書は結界の崩壊を最後まで確認することなく。
ベルカ式の転移魔法陣を展開すると共に、遺跡内部へとその姿を消していった。




魔法少女リリカルなのはA’s −変わりゆく絆−

第八話 知識の渇望




 癒しのリング──クラールヴィントを中心として、淡い光が薄暗がりを灯していく。
装甲を外し患部を晒した左腕にそれを押し当てると、不自然な形に腫れ上がっていたその箇所が、
次第に正常な、まっすぐに伸びた女性のきれいな腕に戻っていくのがわかる。

「・・・と、これでいいはずよ。どう?まだ痛む?」
「いや、問題ない。・・・世話をかける」

何度か掌を開閉し、感触を確かめてみる。さすが風の癒し手、湖の騎士と言うべきか。
痛みはもう全くない。彼女の魔法に助けられたのは一体、何度目になるだろう。

ここは、フェイト達がはじめに遺跡へと突入した箇所からほど近い、小さな石室の一つ。
シグナムの負傷、リインフォース達(少なくともフェイト達はそう思っている)の追撃を考え、
彼女達はほとんど振り出しと言っても変わらないこの位置まで、後退を余儀なくされていた。

「さ、次。フェイトちゃんも少し怪我してたでしょう?」

シグナムの治療を終えたシャマルは今度は、部屋の隅で無言に俯く少女へと声をかける。
彼女もまたシグナムほどではないが身体やバリアジャケットの各部に、小さな傷をいくつも負っていた。
「・・・・いりません」
「え?」
「この状況を招いたのは、私のミスです。こんな傷くらい・・・」
「自業自得・・・・とでもいう気か?」
装備を着けおわり、シグナムは立ち上がる。
つかつかと少女の前まで行くと、胸倉を突然掴んだ。

「ちょ、シグナム!?フェイトちゃんに・・・」
「あまったれるなっ!!状況を招いたと思っているのなら、黙って治療を受けろ!!打開するのが先決だ!!」
「ッ・・・・・!!」

目前で怒鳴られ、正論を言われ。
フェイトは彼女から視線を逸らす。言われなくとも、分かっている。分かっているけれど、反論が出来ない。
シグナムは肩を怒らせたまま手を離すとくるりと向きを変え、なおも続ける。

「・・・もう一度言う、お前は指揮官なんだ。しっかりしてくれないとこちらが困る・・・!!」
「・・・・・ごめん、なさい・・・・」
普段ならシグナムが彼女に怒鳴ることもない。フェイトがミスをし責任を感じることもない。
壁まで行くと、背中を預け目を閉じて腕を組む。さっさと治療を済ませろ、ということらしい。
フェイトも今度は、おとなしくシャマルの癒しを受けた。ただ相変わらず表情は暗く、空気は重いままだが。
雰囲気は最悪と言っていい───フェイトの回復をするシャマルがそう思っていると、
たまりかねたアルフが努めて明るい声で口を開く。

「い、一体あいつらなんだってのさ。リインフォースやシグナムの猿真似までしちゃって。大体・・・」
「ええ・・・・そうね。あの子達、何なのかしら・・・」

「あれは・・・・、夜天の書だ」

「・・・・・・え?」
「・・・そしてあの騎士は、私だ」
「シグナム、あなた何を言って・・・・」
「正確には実戦経験を積む前の段階・・・基礎データ段階の守護騎士プログラム・・・」

シグナムの言葉は、突然すぎて。
「どういう・・・・こと、ですか・・・・?」
壁に体重を預ける彼女の告白に、一同は──常に冷静なザフィーラのみが、普段と変わらぬ様子で──、
声を失い凍りついたように耳を傾ける。

「あの夜天の書も、正確に言えば夜天の書──リインフォースそのものではない」

おそらくは夜天の書、そのものに何かあったときのために作られた、バックアップデータを録る為の外部メモリー。
いわば、第二、第三の夜天の書としての、スペア。

「無論、スペアと言っても性能はほぼ夜天の書本体と変わらん。蒐集行使もできるし、かつて本体が蒐集したもののデータも入っている」

少なくとも、夜天の書が「夜天の書」であった頃のものは。
旅する機能───転生機能が、オミットされている点を除けば、それはほぼ夜天の書、そのもの。

「ちょ、ちょっと待って!!そんなの聞いたことないわよ!?」
「シャマル」
「それにおかしいじゃない、あれが夜天の書で、守護騎士システムが生きてるなら、なんで私とヴィータちゃんがいないのよ!?」
「・・・シグナムが言っただろう。あれは、基礎データ段階だ、と」
「ザフィーラ!?」

唯一冷静な鉄面皮を崩さず、黙って話に参加をしていなかったザフィーラが今度はメンバーの視線を奪った。
しかし彼は言うべきことは言ったと思ったのか、それ以上言葉は繰り返さない。

「・・・・お前も、気付いたか」
「いや・・・思い出したと言うほうが正しい。昔の記憶を・・・な」
「そうか・・・・。シャマル」
事情が解っている様子の二人に対し、騎士達の中で唯一飲み込めず外された格好のシャマルの表情には、
不満と苛立ち、不安が浮んでいて。それに対する解答を提示すべく、シグナムは言葉を続ける。

「無理もなかろう。お前とヴィータは、まだ誕生していなかったのだからな」
「え・・・・?」

夜天の書の守護騎士プログラムは、夜天の書とその主を守るために作られ付加された機能の一つだ。
前衛を務めるアタッカーに、後方支援を行う参謀格。指令を出すリーダー、そして全体を護る盾役に、
きれいに役割が分担されている。

「・・・・だが、そのように役割が明確に分かれるようになったのは、夜天の書の誕生から少し経ってからだ」

旅する魔導書───夜天の書が旅立ち、悠久の時を経ていく中で実戦を繰り返し、
その時代ごとの主によって守護騎士システムはより多様な局面に対応できるよう整備されていった。
シグナムは少しと表現したが、それは夜天の書の気の遠くなるような長い歴史から見た場合の相対的なものであり。
実際にはどれほどの年月がかかったのかさえ、計り知れない。

「基礎データ段階では単純に・・・・取り替えの利く盾と強靭な矛。前衛と後衛、二種類の戦闘プログラムしか存在しなかったのだ」

つまり、彼女達が戦った相手。それはシャマルも、ヴィータも生まれる前の。

「昔のザフィーラであり・・・・私だ」

たった二人でただひたすらに戦っていた頃の、盾の守護獣と、剣の騎士、そのもの。

「そんな!!それじゃあ!!」

彼女達は、過去の自分自身の分身達と戦い、屠り去ってきたことになる。
その手を、汚して。

「大丈夫だ」
「だけど!!」

穏やかなシャマルが、狼狽している。
きっと彼女も、辛いのだ。同じ守護騎士でありながら、自分がシグナム達の気付いたことに気付けなかったことが。
参謀格、ヴォルケンリッターの補助と支援を担当とし、細やかな点への気配りの人である彼女なら、なおさらであろう。

「彼女達は・・・我々の手で、止めてやりたいんだ」
「シグナム・・・・」
「夜天の主に仕える者として、リインフォースの最期を見届けた守護騎士として」


*      *      *


互いを労わり合う三人の守護騎士のやりとりを見ながら、フェイトは自分達三人のことを思っていた。
自分と、なのはと、ユーノ。
互いのことを思い合うはずの三人である点では同じはずなのに、どうしてこうも違ってしまったのだろう。
細かな点の違いは挙げればきりがないけれど。言い出したのは自分だから仕方ないのだけれど。
彼女達は3人で。
自分達は3人ばらばら。

ばらばらであっても、互いを気にかけているのはずっと、変わらないのに。
なぜ歪になってしまったのだろう。

あれほど憤り、拒絶したはずのなのはの顔が。
三人の絆を見る今は、ひどく懐かしく。ひどく恋しい。赦せないと思ったはずなのに。
それなのに、ユーノを二人で迎えに行きたい。

けれど、いくら思っても。

3人は、ばらばらだった。


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