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[319]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/03/11(土) 23:24:59 ID:i3UIDajt
[320]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/03/11(土) 23:25:38 ID:i3UIDajt
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[322]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/03/11(土) 23:27:00 ID:i3UIDajt

魔法少女リリカルなのはA’s −変わりゆく二人の絆− 第九話 彼女の遺した言葉

「ちょ、ちょお待って!!なのはちゃんそれ、どういうことや!?」

二体の「夜天の書」の撤退を確認し。
結界を抜かれたことでもう彼女達が積極的に打って出てこないであろうと判断したクロノに
内部へ増援に向かうよう指示を受けたなのはは、はやてにもついてくるよう告げ、
彼女達と合流するまでの間に自分の体験した「出来事」を彼女に打ち明けていた。

「・・・言ったとおりの意味だよ」

俄かには信じ難い、その体験を。
失われた、彼女とのあるはずのない再会を。

「わたし・・・会ったんだ。夜天の書・・・リインフォースさんに」

伝えながら、彼女は思い出す。
数年ぶりに会う銀髪の女性の見せた微笑と、願いの言葉を。
夢現になんら変わらぬ姿で現れた、夜天の書・リインフォースの託していった想いを、噛みしめて。




魔法少女リリカルなのはA’s −変わりゆく絆−

第九話 彼女の遺した言葉




───それは数時間前。はやてがアースラへと到着し、事件の詳細をエイミィ達から聞いていた頃と、丁度重なる。

『久しぶりだな・・・。あの時の小さな勇者が、大きくなった』

いつの間に自分は、そこに立っていたのだろう。
彼女はいつから、そこにいたのだろう。

気がつくと真っ暗な闇の中、二人は対峙していた。

『六年とは・・・長いものだな・・・』

そう、六年。

あれから六年、どうやって生きていたというのか。
何故今になって、自分の前に姿を現したのか。
主であるはやてはこのことを知っているのか。

今思えば不思議なほど、それらの浮んで当然の疑問は一切感じず、なのはの口から出ることはなく。

二人はただ、当たり前のように相対していて。

『不躾だが、許してくれ・・・私には、あまり時間がない・・・』

たった一言、その一言で、ごくごく自然に彼女は頷いていたのだった。
彼女の言ったその言葉が事実である、ということを奇妙な素直さで受け入れている自分が居た。

「・・・・多分あれは、今はリインフォースちゃんの入ってる剣十字に少しだけ残ってた、あの人そのものだったんだと思う」

無力なかけらとなった彼女に残されていたのは、ほんの少しだけの、文字通りの最後の力。
僅かに残った力でなのはの前に姿を現した、彼女の想いが形となった幻影だったのだろう。
彼女はそのように推測する

今にも消えていきそうなその存在が精一杯の力で白服の少女に託した言葉、それは。

『・・・どうか』

「・・・『どうか主達を頼む。私の妹達を、止めてくれ。目覚めた、私の分身を』・・・って」
「リイン・・・フォースが・・・?」
「そ、それで!?そっからどーしたんだよ、あいつは!!」

ふるふる。否定の頭を振り、今にも食いつきそうな勢いのヴィータへと静かに解答を返すなのは。

「・・・それっきり。暗闇が晴れたと思ったら、わたしは支局の教官室の机でうたた寝してて。それで・・・」

左手のレイジングハートを示す。

「レイジングハートにあの遺跡の細かいデータがいつの間にか、どこからか転送されてきてたの」

それが到着と同時にアースラに送ったあの資料だよ。なのはは一同に告げる。

「最初は夢かと思ってたけど・・・入ってたデータもなんだか変だし、とりあえずみんなに連絡をとろうと思ったの」
「なるほど・・・な」
「そうしたら、本局のリンディさんから支局に連絡があって。ユーノ君と遺跡のこと聞いて、代理の教官に引継ぎだけして、慌ててこっちに」

なのはの説明を聞いて、クロノ達はようやく納得していた。

道理で彼女が到着した際、夜天の書達を見てもさほど驚いていなかったわけだ。
言葉を聞くだけでは彼女の見た単なる夢ではないかとも思えるが、彼女の持参したデータという、それを裏付けるものがある。

「ここにくるまでの間に、レイジングハートに入ってたデータには目を通したんだけど・・・あの遺跡、データ上の通称『仮宿』──」

なのはが遺跡のほうを見下ろすのにつられ、他の面々も同様に岩塊でできた構造物に、目を向ける。

「───・・・止められるのは、夜天の主だけみたいなの」
「!!」
「わたしの解釈が間違ってなければ、なんだけど・・・」
「エイミィ、どうだ?」
若干自信なさげに苦笑するなのは。戦闘魔導師が本分の彼女としては自身の資料解読力が不安なようだ。
それを受けクロノは、先ほどから送られたデータを解析しているであろう部下へと結果のほどを尋ねる。

『はいはーい』
通信を受けた先の彼女は休まず高速でキーボードを叩き解析を進めつつ、上司の要求する情報を彼へと伝える。

『うん、なのはちゃんの言うとおりみたい。中心部のシステム中枢に、その当代の主の魔力パターンを認識させる必要があるって』
「そうか・・・」
『あと、もうひとつ。正直けっこうきつい情報』
「?なんだ」
『さっきまでみんなが戦ってたあの「夜天の書」・・・あれは本体破損時のための予備機らしいんだけど』
「ああ」
『全部で四機、あの中にあるって。つまりさっきの二機の他にまだ、二機遺跡内に存在してるってこと』
「・・・そう、か・・・」

考え込む顔のクロノ。
提督として艦長の立場になり、現場に直接赴く機会は減ったが、その現状把握と対応能力は些かも錆付いてはいない。
しばしの後、はやてのほうを向き声をかける。

「はやて」
「っ、は、はい」

心配げなリインフォースを肩に乗せ俯いていたはやてが、びくりと反応して答える。
彼女も、自分が呼ばれた理由はちゃんとわかっているはずだ。

「・・・聞いての通りだ。どうやら君がこの任務の肝らしい。ヴィータも突入にまわって、なのはと一緒にフェイト達に合流してくれ」
「大丈夫?」
「ああ、ここは武装隊と僕で抑える。遺跡にさえ手を出さなければ、艦までは攻撃してこないだろうしな」
「・・・・」
『マイスター・・・』
「はやて」

夜天の主の瞳に浮ぶのは、一瞬の迷い。聞いた事実と、待ち受ける者達の姿に対する。
だけど、それは本当に一瞬のことで。

「・・・はい、行きます。あの子の妹達を止めるのは、主である私の役目やから」

一時の思考、閉じられた双眸が再度開かれたそこには。
なのはの話を聞く前の困惑に揺れる不安定な光のかわりに、
死してなお己を想ってくれているかつての従者に対する、深い信頼と愛情に基づいた強い意志の輝きがあった。

「あの子の願いに、応えたらんと。・・・な、リインフォース」
『はい!!』

彼女の名を継ぐ、現在の自分に力を貸してくれるデバイスの少女へと微笑みかける。
沈んでいた主の顔に笑顔が戻り、それを向けられた彼女は、同じく満面の笑顔を返した。

「よし・・・頼む。高町なのは以下四名、フェイト執務官達の救援に向かってくれ。合流後は、彼女の指揮に従ってくれればいい」
『ああ、それから!夜天の書のスペア達は転生機能ないから、封印、可能だよ!!以降何かわかり次第デバイスに転送するから!!』
「『「「はい!!」」』」



*     *     *



(・・・本当は)

遺跡へ向かって飛び、はやて達の背を追いかけながら、なのはは思う。
幸いにして彼女達の進行を阻むものは現れず。
なのはの心にはやて達には告げなかった事実を思い起こすゆとりを与えていた。

(本当は、それだけじゃない・・・)

『憶えているか・・・?私が6年前、言ったことを・・・』

彼女の黙っていた、リインフォースの今際の際。
魔導の書の主たる少女にすら黙っていた最期は、他の誰でもない。
高町なのはという一人の少女に対し遺された言の葉であったから、言えなかった。

(リインフォース、さん・・・)

それは消えゆく彼女の遺した、二度目の遺言。

『もう・・・お前は出会っているはずだ・・・』

(・・・誰、なんだろう・・・?)
与えられたその託宣にも似た別れ際の言葉を思い浮かべるたび思い浮かぶのは、
なぜだろうか、二人の大切な友の顔だった。

『・・・海より深く愛し』

自分に背を向け走り去っていく、フェイトの見せた非難する視線と。

『その幸福を守りたいと思える者に・・・』

(私の、海より愛し、守りたい人は・・・・)

いつだって側にいて笑ってくれていた、栗毛の少年の笑顔の数々。

彼の笑顔と、フェイトの泣きそうな顔が、ひたすら交互に心を埋め尽くす。

笑顔のあとには、平手打ちの感触を思い出し。
『ユーノが可哀相』───、その声に重なるように少年の微笑みが胸を締め付けていく。

(リインフォースさん・・・あなたは・・・何が言いたかったんですか・・・?)

少女の無垢な心は、未だ気付いていない。
自身の内でその問いの答えが、既に出ているということに。

「気付かないこと」、それの孕む残酷さを、少女はまだ、知らない。

高町なのはにとって、海より深く愛す人がだれなのか。
守りたいと思える存在が一体、誰なのかという事を。


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