好き。・・・・好き?
誰が、誰を?
ユーノ君が、わたしを?
いつから?
この六年間、ずっと?
本当に?
─────最低だ。
ずっとそばにいながら、気付かなくて。
彼の気持ちも知らないで、なんて酷いんだろう。
魔法少女リリカルなのはA’s −変わりゆく二人の絆−
第十二話 彼女の結論、それはずっと
「・・・私ね。私、私だってユーノのこと・・・!!」
「あかん!!!」
「っ・・・・!!」
それ以上は、なのはの砕けそうな心を、余計に混乱させるだけだ。言わせてはならない。
またも声を荒げそうになったフェイトははやてに、強く肩を押さえ込まれて。
「あかんて、フェイトちゃん。そんくらいでやめとき。言い過ぎや」
「・・・・あ・・・」
もう、いい。
親友のことを見限ったかのようなフェイトの発言に、なのはは崩れ落ちるように座り込み。
見かねたはやてに言われ、フェイトはようやく、己が彼女とユーノに対して感情的になるあまり、
取り返しのつかない過言をしてしまったということに気付いた。
彼の想いを、勢いに任せて勝手に告げるなんて。こんなこときっと、ユーノは望んでいない。
まして、なのはをその独走によって、傷つけるなんて。
彼女にユーノの苦しさを、彼に対して自分のしてきたことを知って欲しかっただけなのに。
彼女に失望を感じたのは、彼女なら絶対に、たどり着く。そう信じていたから。
なのはのことが大好きで、信じているからこその感情だったというのに。
彼女こそ自分よりも遥かに、ユーノといるべき人間なのだと。
自分ひとりが被害者であるかのように勝手に思い込み、信じ続けることをやめ、勝手に疲れ果て、諦めただなんて。
信じてきた人を自分もまた、傷つけてしまった。
「・・・・ごめん・・・」
───私も、なのはのことを言えたものじゃない。いや、こうやって自覚しているぶん、余計酷いのかもしれない。
フェイトは自分の身勝手さに思わず、唇を噛んだ。
しかし、なのははフェイトの謝罪にも、自責にも反応することなく、ただ、
「・・・わた、し・・・ユーノくんを・・・・わたし・・・・」
自分と、真意を知らされたパートナーの名前をひたすらに上の空の顔で呟き続けるだけだった。
彼女の足元に転がされたレイジングハートが心配しているかのように、淡い光を放っていた。
どうすれば、いいのだろう。
勢いに任せ言った言葉は、言った本人にとっても対処のしようがないほどに重くて。
俯きぼそぼそと嘆じ続ける親友は、痛々しかった。
「最低、だ・・・・わたし・・・・最低・・・」
「なの、は・・・」
「無理、ない・・・フェイトちゃんに嫌われても、無理ない・・・よ・・・最低、だよ・・・ね・・・」
「・・・!!」
違う。
そんなんじゃない。
なのはに謝ってもらいたいとか、嫌いだとか、そんなことじゃない。傷ついて欲しかったんじゃない。
私は、ただなのはにユーノと────
(!?・・・私・・・は・・・?)
想いを通わせて欲しかった。それは間違いない。
けれど。
だったらあのとき、なのはの答えを聞き、ユーノの想いを伝えた時のあの開放感は、何だったのだ?
何故自分はあれだけ悲しみ、憤っていながら涙することができなかったのだ?
本当にただ、諦めしか感じていなかったのか?
(そんな・・・私・・・)
心のどこかで、望んでいたのではないか?
ユーノの隣にいる人間が、なのはではなく、自分であることを。
彼女の問いへとなのはの返したその答えが、ユーノにとって残酷なものであることを。
フェイト・テスタロッサ・ハラオウンとユーノ・スクライアが結ばれる可能性への期待に。
自分でも気付かないほどのわずかな心の隙間に、なのはのあの答えを期待する邪な心があったのではないか?
否定したい。
否定したいけれど、否定できない。
かつて芽生えた想いは親友へとユーノが持っていたそれと同じように、確かに彼女の心に残っていたから。
なのはか、ユーノか。
その取捨選択を無意識に行っていた可能性を彼女自身、振り払えない。
「あ・・・その、なの、は・・・」
自身の心に対する疑念、それはあっという間に広がっていき、自分がとんでもなく醜い人間に思えてきて。
親友と同じく彼女もまた自責の念に心を痛めることとなる。
どうすれば、いい。どうすべきだったのか。
なのはも、フェイトも、自分がよく、わからなくなっていた。
───だが。
状況は彼女達に、悠長に考える時間を与えてはくれなかった。
銀髪の少女の鋭敏な感覚が、彼の生んだある異変を捉えていて。
『マイスター!!遺跡内最深部、40m地点において新たな魔力反応を確認!!』
「!!」
「新手かっ!?」
クラールヴィントの探知が夜天の書達によってジャミングされている今、最もその能力に秀でているのは
最大容量の大きいリインフォースである。
その彼女が探知した魔力に、一同が──呆然としていた、なのはでさえも──顔を上げる。
『いえ・・・小さすぎます!!新たな魔法生物とは・・・なにか低出力の魔力を無理矢理寄せ集めたような・・・』
「・・・!?」
敵のものでは、ない?
『!!・・・これは・・・市場流通型の探索デバイスに使用されている駆動用基礎魔力に、ほぼ間違いないです!!』
「まさ、か・・・」
「ユーノ・・・、くん・・・?」
可能性は、ある。
仮に生物であったとしても、この遺跡内にそのような中途半端な魔力の持ち主がいるとは思えない。
まして探索用デバイスが遺跡内にあるとしたら、持ち込んだ者は当然、調査にやってきた者のはずだ。
彼からの精一杯のSOSの信号、その確率は十分だ。はやく行ってやらなくては。
「テスタロッサ!!」
「っあ、・・・・」
指揮者としての、指示を。
シグナムが向けてくる視線は、そう言っていた。
出すべき命令はわかっている。とるべき行動、言わずもがな。急がねばならない。
しかしそれでもフェイトは自身への疑念と親友への心配とによって、その待ち望まれる指示を出すことが出来ず、言葉に詰まる。
「はやくしろよ!!いかなきゃいけねーんだろ!!」
ヴィータが苛立たしげに怒鳴っても、口が動かない。
「ヴィータ」
「はやて、急がねーと!!」
「いいから」
「けどよ!!」
リインフォースの報告を聞き、なのはとフェイトの様子を見比べるように立っていたはやてが、ヴィータを抑える。
「・・・フェイトちゃん、行って。なのはちゃんにはわたしがついとくから」
「はやて・・・?」
「早く!!」
フェイトのことだ、あんなことを言ってしまった直後でなのはを放っていけるはずがない。
色々と、考え込んでしまって。自分を責めて動けなくなっているに決まっている。
ただ急かすだけでなく、誰かが背中を押してやらなくては。
(・・・大丈夫やて。もう少し・・・もう少しだけなのはちゃんを、信じてみん?)
(はやて・・・・)
(本当はフェイトちゃんがなのはちゃんのこと、一番信じとるんやろ?)
(・・・・)
(わたしはフェイトちゃんのことも・・・信じとるよ?)
「はやて・・・あの」
『マイスター・・・』
「わたしもなのはちゃんには・・・ちいと言いたいことや聞きたいこと、あるからな」
「え・・・?」
きっと、ずっと。
彼女の心に答えはあるはず。
不安げに見上げてくるなのはへと、はやては笑いかけた。
その笑顔になのはは、夢の中で出会った夜天の書──リインフォースの見せた最後の微笑みが、重なって見えていた。
消えていった彼女の言いたかったこと、それをはやてが替わって伝えようとしているかのように。