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[331]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/03/32(土) 20:27:05 ID:5dE8SIkN
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魔法少女リリカルなのはA’s −変わりゆく二人の絆− 第十三話 彼女の結論、それはようやくの帰結

「・・・なぁ、なのはちゃん」

シグナムやシャマルの加勢もあり、ようやく二人きりになった石室で、はやては切り出した。

不安げに何度もこちらを振り返りながらもユーノ救出へと向かったフェイトや、
未だ後悔と自責から立ち上がりもしないなのはの様子を見るに、自分が口を出してもいいものなのだろうか、とは思う。

彼女達3人の問題に、友達とはいえ第三者の自分が言うのは、余計なお世話ではないだろうか、と。

「フェイトちゃんがなのはちゃんを嫌いになったりするわけない。フェイトちゃんはなのはちゃんのことが好きやから、怒っただけや」
「・・・・」

けれど第三者の自分であるからこそ、言えることもあるはずだ。
ことここに到ってはやては、すれ違う友人達の想いに対しおせっかいであっても手助けをすることに決めていた。

「わたしからもな・・・聞いてもええか・・・?」

スカートを地面に広げ呆然と座り込むなのはと、視線をあわせるべくはやても腰を下ろす。

「・・・・・・・・なに、を・・・・?」

きっかり、十秒は間が開いただろう。ようやく返事を搾り出したなのはへと、はやてはフェイトと同じ質問を、もう一度ぶつけてみる。
彼の想いを知った彼女へと、再び。

「なのはちゃんにとってユーノくんは、一体どういった存在なん・・・?」



魔法少女リリカルなのはA’s −変わりゆく二人の絆−

第13話 彼女の結論、それはようやくの帰結



「この・・・・させんっ!!」

右腕には、レヴァンティンを。
もう一方の左には、その鞘を構え。

鋼と鋼のぶつかり合う火花を散らしながら、シグナムは四体にも及ぶ己が分身と斬り合っている。
四対一はかなりきついが、一体ずつの戦闘能力はシグナム本人よりは下だからやってやれなくはない。
なによりこの状況下で贅沢は言っていられない。紙一重で相手の斬撃を避け、いなし、防いでいく。

「うおおりゃあああっ!!!!」

彼女と同じように、フェイトも、ヴィータも、ザフィーラも。

「・・・」

けっして十分な広さがあるとはいえないこの場所で数の不利さえもありながら、4体の夜天の書と戦っているのだから。
アルフをシャマルの護衛に残している以上、少しでも動きやクセを読むことが出来るシグナムが剣の守護岸達の相手をするより他にない。

(やはり・・・スクライアの魔力を感じて出てきたか・・・!!)

別れ際にリインフォースから各自のデバイスに送られたユーノの位置データは、すぐそこ。
夜天の書達の立ち塞がる、その先にある。なんとしても、突破しなければ。

しかし先述の数の不利に加え、フェイトの不振は未だ続いており、互いにフォローに回りつつ戦線を維持するので精一杯であった。

(だが、持たせるっ!!)

背後から振り下ろされる刃へと、一瞥もせず完璧なタイミングでレヴァンティンの刃をあわせ、勢いのまま振りぬく。

「レヴァンティン!!」
『Explosion!!』

カートリッジ、ロード。彼女の見せたわずかな隙に三方向から斬りかかってくる残りの三体の動きは、予測済みだ。
シュランゲフォルム───連節刃形態へと変化したレヴァンティンの刃が唸りをあげ、竜巻のように彼女へと害なすものを巻き込んでいく。
敵もさるもの、連結刃の起こす疾風から的確に致命を防いではいるが、それでも後退を余儀なくされる。

(主はやて・・・どうか、頼みます・・・!!)

『Bogenform』

鋼の暴風が止んだそこには、更なる変型を終えた炎の魔剣の第三の姿が、射手と共にあり。

「駆けよ、隼!!その身散らすまで!!」

シュツルムファルケン・拡散発射形態。
一度に多数の敵を狙い撃つ、一対多数戦闘におけるシグナムの奥の手のひとつだ。
一発分の魔力を複数に分散させるために個々の破壊力は低下するが、牽制や立ち回りに生かす分には十分の威力を持つ。

なのはが立ち直り、フェイトが本調子を取り戻して。
はやてが合流すれば、やれる。彼女達を止め、ユーノを助け出すことができる。
彼女は皆の力を、信じている。

「それまでは・・・・抜かせんぞっ!!」
『Sturmfalken』

放たれた矢が四方に分かれ、それぞれに騎士達を同時に爆風に包み込む。
即座にボーゲンフォルムを解除したシグナムは自身の愛剣を手に、彼女達へと追撃を与えるべく、跳躍した。

 *     *     *

なのはからの返事はまたも、しばしの時を必要とした。

「・・・はやてちゃんも、それを聞くの・・・?」

はやての言葉へとなのはが返したのは、責めるような口調。

「わかってる、くせに・・・わたしがなんて答えたか・・・わたしが、酷いこと言ったって・・・」
「ちゃう!!」

眼前でのはやての大声に、なのはは肩を強張らせ、涙目の顔で彼女を見上げる。

「ちゃう、ちゃうんよ。ほんとになのはちゃんはユーノくんのこと、友達としてしか思ってないんか・・・?」
「・・・え・・・?」
「気付いてないだけなんとちゃうんか・・・?」

両肩を握ったはやての腕は、力強く。
潤んだ視界に映る彼女の目は、まっすぐになのはを見ていた。

「気付いて・・・?」
「・・・質問を、変えよか。・・・なのはちゃん」
「・・・うん・・・」
「なのはちゃん、フェイトちゃんのこと、好きか?」
「・・・・え・・・・?」

どうして、ここでフェイトが?
突然の話の展開になのはは目を瞬かせるが、はやては変わらず真剣な面持ちのままで。
なのはは息を飲み、はやての次の句を無言に待つ。

「いや、フェイトちゃんだけやない。クロノくんやアリサちゃん、すずかちゃん。うちのみんなでもええ。なのはちゃん、どうなん?」
「え・・・・?」
「お願いや。答えて欲しいんよ」
「そ、そんなの・・・嫌いなわけ、ないじゃない・・・。みんな、大好きで・・・大切な人達だよ・・・?」

───ここまでは、予想通り。あとは、彼のことだ。
はやては両腕にもう一度、力を込めて、新たな質問を目の前の少女に提示する。

「せやな・・・ならな」
「・・・?」
「ユーノ君は、どうなんや?やっぱり大切な人?」
「・・・うん」
「だったら・・・みんなに対するその『好き』と、ユーノ君に対する『好き』を考えてあげて欲しいんよ」
「・・・・?」

彼女はきっと、気付いていない。自身の心にある、二種類の『好き』を。
彼女の中にあるそれはけっして、一種類しかないものではない。

「もう一度言うで。・・・なのはちゃん、フェイトちゃんのことは?」
「・・・好きだよ。大好き」

「・・・・アリサちゃんは?」
「好き・・・だよ。すごく。すずかちゃんも、もちろんはやてちゃんも、みんな」

「ありがとな。ほなな、ユーノ君は?」
「大好き、だよ。ユーノ君のことも。すごく、すっごく」

「ほんなら・・・その『好き』はわたし達に対してのものと、同じもの?」
「え・・・・!?」

「よく、考えてみて。その上で、さっきの答え、聞かせて欲しい」

 *     *     *

考える。
その単純でいて、非常な労力を要する作業をこの2日間だけでどれほどやっただろう。

(みんなへの『好き』と・・・ユーノ君への・・・『好き』・・・?)

これは身から出た錆。だからどんなにつらく、大変でも考えなければならない。

「わたしに、とって・・・・」

ユーノ君は。
ユーノ・スクライアという名前の少年は。

(やさしくて。わたしに魔法を教えてくれた先生で、ちょっぴり頼りなくて)

真面目で、頭が良くて。彼が守ってくれていた背中はいつだって、暖かかった。

(大好きだよ・・・うん。とっても)

大切なパートナーで、いつもなのはのことを心配してくれていて。
そんな彼を自分が傷つけていたと思うだけで、心が痛い。

(ユーノ君は、私のことを好きだと思ってくれてるのに・・・)

自分は、未だ答えを出せずにいる。
彼を傷つけたくなんてない。傷ついて欲しくなんて、ないのに。

(────え・・・?)

そうだ。傷ついてほしくない。
ユーノが傷つくところを、見たくない。

(ユーノ、くんを・・・わたし・・・)

守りたい、存在。
なのはにとって彼はずっと一緒にいて、守り、守られたい存在なのだ。

それは、何故。

(・・・『海よりも深く愛し』・・・)

ああ。やっと、彼女の遺した言葉が、心へと浸透していくのがわかる。
すうっと、心に張った靄が晴れ、視界が開けていくようだ。

彼を、守りたい。
辛いことや、苦しいことや。
彼に害なす、全てのものから。

(・・・『その幸福を守りたいと思える者』)

当たり前すぎて、わからなかったのだ。

六年前からずっと、それはなのはの心にあったから。

「わたし、は・・・ユーノ君が・・・」

出会い、一緒に過ごし。
戦い、笑い、分かち合い。
教わり、助けられ、与えられ、与える幸福が、当然のものでありすぎて。

それが失われることも、消えることも、考えたことなんてなかったから。

彼が大切で、愛おしいことが、日常すぎたのだ。

(わかったよ、やっと。リインフォースさん)

───ずっと、ずっと。

いつまでも、そばにいて。心の底から、守りたいと思う。

なんて、遠回りをしてきたのだろう。
純粋に、なのははかけがえのない彼を守りたいのだ。

大好きだから。理由は、それだけでいい。

ひたすらに彼のことが大好きだから、守りたい。

ユーノという、たった一人の少年を。
いつまでも、いつまでも。

高町なのはは、ユーノ・スクライアのことが、好きだから。


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