「いくよ!!バルディッシュ!!」
『yes,sir.zamber form,drive ignition.』
迷いを吹っ切った者は、強い。
本来の実力をやっと、出すことが出来るようになった。
一人の魔導士としても、指揮官としても。
「みんな!!なのはの道をこじあける!!援護して!!」
背後をとり飛びかかろうとした守護獣へと、金色の刃がつきたてられ、
叫ぶ彼女は自分へと迫り来る夜天の書の一体を確認しつつ、一枚のカードを懐から取り出す。
「「「「「了解っ!!」」」」」
答える仲間達はもう、彼女のほうなど気にかけてはいない。必要がないことが既に、わかっているから。
それぞれに敵を討ち、少年の待つ場所への道を拓くべく、各々の戦いを続けていく。
なのはを支援し、彼女の進路を確保せよ──、指揮官の、命のままに。
「頼むよS2U・・・ブレイクインパルスッ!!」
彼ら、彼女らの信頼に、フェイトは背くことなく。
夜天の書の拳は彼女の左手に起動した一本のデバイスによって受け止められ、通りはしない。
『ブレイクインパルス』
女性の駆動音声にあわせ魔力による震動波が銀髪の魔導書の全身を襲い、爆発に包み込む。
同時に倒れた守護獣へと突き立てられた刃が輝きを増し、その亡骸が爆散する。
右手には、古き良き、永き相棒、インテリジェントデバイス「バルディッシュ・アサルト」。
そして左手には、彼女の兄と共に幾多の戦場を駆け、今なお彼の妹と共にその身を一線に置くストレージデバイス、「S2U」。
最強の剣・ザンバーフォームと、万能の矛・S2U。
それこそが、本来の彼女の──時空管理局執務官、フェイト・T・ハラオウンの編み出した、独自の戦闘スタイルであった。
魔法少女リリカルなのはA’s−変わりゆく二人の絆−
第十五話 皆がくれた翼
「スティンガースナイプッ!!」
高速の光弾が、不規則な軌道を描き夜天の書へと接近する。
けっして威力は高くない。防御されれば、簡単に弾かれるような破壊力の攻撃に、
彼女は無表情の中にもわずかに怪訝そうな色を浮べる。
だが、その表情は盾を右腕に展開した直後、一変する。
光弾は魔法陣を模した盾の目前ぎりぎりで急停止したかと思うと突然その表面を滑るように向きを変え、
彼女の後方に回り込んできたのである。
スティンガースナイプ───誘導操作弾の持つ特性と、フェイトの魔法資質によるものだった。
同じ名称の魔法とはいえ、彼女の兄・クロノが使用していた魔法とはいささかその性質は異なるが。
本来のスティンガースナイプとは、高威力の魔力弾を自由自在に操作しながら、複数の敵を打ち倒すものである。
しかし妹であるフェイトはこの手の遠隔操作をさほど得意とはしていない。
高威力を維持しつつ変幻自在の動きを魔力弾に要求するのは彼女にはいささかに不可能であった。
反面、彼女にとって弾体や魔力の加速は得意分野、朝飯前の領域である。兄がキーワードを必要とした
この作業もただ術式に組み込むだけですんなりと行うことができる。
彼女の放つスティンガースナイプ、それは破壊力と操作性を必要十分な程度に抑え、加速による緩急で補う事で
本来の形とはまた別の用途のために派生させた、一種の牽制魔法である。
即ち──牽制があるということは、本命があるということ。
「・・・かかった」
「!!」
スティンガースナイプの光弾を右へ、左へかわし飛び続けていた夜天の書の両腕が、空中へと光の輪によって固定される。
ライトニングバインド。フェイトが昔から愛用する、雷系の魔法威力を増大させる効果もある拘束魔法だ。
更に全身を、ストラグルバインドの鎖が二重、三重に縛り上げていく。
「・・・プラズマランサー、セット」
『yes,sir』
更に、光の槍が夜天の書を取り囲み、発射態勢をとる。
スティンガースナイプで牽制し、バインドで捕獲。然る後に全方位からのプラズマランサーで撃墜する。
答えを得、実力を阻害する心の迷いを断ち切った彼女の実力はやはり、非凡であった。
この年齢での執務官の肩書きは、伊達ではないということだ。
「これで・・・!!」
『fire』
女性の姿が爆炎に包まれる。
防御もキャンセル、直撃を避ける術はない。しばらくはこれで動けないはずだ。
多少強引な方法ではあったが、黒煙の中から床へと落下していく女性の姿が次第に魔導書──機能を停止した、
夜天の書本来の姿へと戻っていくのを確認し、フェイトはほっと表情を崩す。
「あとは・・・・シグナム!!」
「案ずるな!!・・・やっと、本調子が戻ったようだな、嬉しいぞ・・・」
好敵手の声に、フェイトは振り返る。
一瞬目線を合わせた彼女は、楽しそうに口元を歪め、剣を構えていた。
「かつての自分ごときに・・・負けはせん!!」
『Explosion!!』
四対一の数の差など、大したことはない。
「紫電・・・・・一閃!!」
一度に守護騎士、三体を叩き斬り、消滅させる。彼女もまた指揮官の不調による有事に備え、
最大必殺の一撃を温存していた者であった。
残った一体の斬撃は、魔剣の鞘が火花を散らして防ぎ。
本来その刀身が収まるべきその部分に彼女は剣をドッキングさせ、カートリッジ、ロード。
「!!」
「これで終わりだ・・・!!」
『Sturmfalken.』
弓矢へと変化したレヴァンティンと守護騎士の距離は、ほぼゼロ距離。避けようと思って避けれるものではない。
「貫け!!隼!!」
四散した己が分身を見やり、シグナムは静かに息をつく。
「過去の記憶・・・もう、忘れはしない・・・。絶対に、な・・・」
「シグナム!!」
「ああ!!」
感傷に浸っているヒマはない。残るは夜天の書、三体と多数の守護獣達。
二人は頷きあい、背後で行われている戦闘へ向けて、大地を蹴った。
* * *
数の上では、三対三。
しかしザフィーラの専門はあくまで「盾」であり、また守護獣達はそこまでの脅威ではないものの、
数が多すぎる。かといって、この閉鎖空間では一掃できるようなそこまでの大技も使えない。
(せめて、あと一人・・・!!あと一人、動けなくできるか戦闘不能にさせれば・・・!!)
道が。なのはの行くべき道が開けるというのに。
一体でも倒せばその分、鬱陶しい守護獣達の数も減る。
(もうちょい、やってのに・・・!!)
機能を停止させようにも、ここぞというところで件の守護獣達の邪魔が入り、押し切れない。
「はやてちゃん!!わたしも・・・!!」
「あかん!!なのはちゃんはスタンバっといて!!ユーノ君とこに行くことだけ、考えてればええ!!」
いくら、エクセリオンモードを起動したなのはといえども、後ろから撃たれてはひとたまりもない。
撃たせないためにも、自分達が道を作らなければならない。
「く・・・!!せめてこのザフィーラもどき共さえなんとかできりゃ!!」
ヴィータが毒づくが、言ったところでどうしようもない。
力押しが効く相手ではないし、とても奇襲を使えるような状況とは言い難い。
これほどに、数の差があっては。
(何か・・・ないんか!?)
はやては考え、自らのデバイス──肩の上で本を開き、必死に射撃管制を行うリインフォースへと目をやる。
あの時・・・闇の書の闇と戦ったとき、自分達は力押し以外に何をしていた?
かつての記憶に、なにか方法は隠されてはいないだろうか。
(・・・!!せや!!ひょっとして・・・!!)
この子も、あの子たちも同じ、融合型デバイスであり、皆同様に夜天の書の系譜に位置する者達だ。
ならばあるいは、できるかもしれない。
「リインフォース!!」
『は、はい!!なんでしょう、マイスター!!』
「ハッキングや!!」
『え!?』
「あの子らの戦闘プログラムに・・・ハッキングかけられんか!?動けなく・・・いや、一瞬でええから!!」
『で、でもできるかどうか・・・』
「無理にとは言わんから!!このわんこ達だけでも消せればもうけもんや!!」
『は、はいっ!!ですがその分ヴィータさん達に負担が・・・』
「気にすんな、やれ!!リインフォース!!お前が頑張ってる間くらい、持たせてみせっからよ!!」
次々にラケーテンハンマーが狼達を貫き、断末魔とヴィータの叫びが重なる。
彼女の言葉に同意するかのように戦う他の面々も、はやてとリインフォースにむけて頷いてみせる。
「やるんや、リインフォース!!」
『・・・はいっ!!いきますっ!!』
* * *
「ダメよ、なのはちゃん。落ち着いて」
じり、と足を踏み出しかけたなのはを、横で待機するシャマルが制した。
首を横に振り、苦笑しているけれど彼女だってずいぶん、焦れているはずだ。
「大丈夫・・・です。飛び出してったり、しません・・・から」
みんな、自分のために戦い、道を開けようとしてくれているのだから。
下手に出ていって、彼女たちの行動を無下にはできない。
自分はただ、道が開き次第全速力でここを突っ切って、ユーノの元に向かい救出する。
ただそれだけを考えていればいい。
(大丈夫・・・大丈夫。待ってて、ユーノくん。もう少しだから)
みんなが、行かせてくれる。わたしが、行く。あなたを助けに、行く。
だから、大丈夫。助けて、この気持ちを伝えたいから。
『できましたっ!!』
「!!」
少女の快哉に、思考を中断し顔を上げる。
先ほどまでの激しい戦闘は一転、彼女の視界にあるのは油の切れた歯車のおもちゃのように、
ぎこちない動きをする魔導書の化身たる者たちと、それに相対する仲間達の姿であった。
狼達も確実に、その数を減らしている。これならば。
「ようやった、リインフォース!!」
『はい!!もう少し・・・いけます!!あまり長くは、ないですけど・・・!!』
はやてに褒められた手乗り少女は肩の上で嬉しげな顔をしながらも、必死の様子でそろ両手を蒼天の書にかかげ、
己が成果を維持すべく魔力を注ぎ込んでいる。
「よし・・・なのは!!行って!!」
また一体、狼を屠り去った親友が振り返り、なのはに飛び立つよう促す。
いや、彼女だけではない。
シグナムが、ヴィータが、ザフィーラが、はやてが。彼女の肩のリインフォースが。
自分のすぐ隣を見れば待機していたシャマルが、アルフが。
各々の表情、各々の仕草でなのはに「行け」と言っている。
「みんな・・・ありがとう・・・。いくよ!!レイジングハート!!」
『all right,my master.let's go』
(今、行くよ・・・ユーノ君!!)
四枚の羽を広げたレイジングハートが力強く羽ばたき、なのはは踏み切りに備えぐっと両足に力を込める。
「エクセリオンバスター・A.C.S!!高速飛翔モード!!」
──ありがとう、みんな。
「───ドライブッ!!!」
突撃砲、エクセリオンバスター・A.C.S。その翼は、皆が与えてくれたもの。
飛べるのは、仲間達が道を作ってくれたから。
無駄にはしない。一気に突破し、ユーノを救い出すのはもはや、義務だ。
皆が作ってくれた道、与えてくれた翼。
踏み出せるのは、みんなのおかげ。
なのははその先にある愛しき者の待つ場所へと、ただまっすぐに、飛翔した。