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[253]640 ◆x5RxBBX8.s 2006/04/25(火) 23:21:30 ID:hU0KGY6H
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魔法少女リリカルなのはA’s −変わりゆく二人の絆− 第十八話 笑顔に、なあれ

この椅子に座ると、ようやく帰ってきたという感じがする。
そんな風に考えるあたり、自分もどこぞのシスコン艦長の仕事中毒を笑えないのかもしれないが。
何はともあれ、自分の低位置というものはやはり、落ち着くものだ。

ユーノ・スクライアはおよそ二週間ぶりの司書長室の椅子に自身を沈めながら、思った。
目の前にはうず高く積まれた書類の山。彼が休んでいる間に溜まった、仕事の量がこれで見て取れる。
今回の遺跡で起きた事件の報告書やらも加えたら、かなりのものになるだろう。

───ほんとはもう少し、早く復帰したかったんだけど、ね。

それでも二週間もの間留守にしたにしては、少ないほうか。
部屋から書類が溢れているのではないかと思い戦々恐々としていたここ数日間を思いやり、彼は苦笑する。

医者からはまだ魔力が完全ではないが問題ない、と4〜5日前には言われていたのだけれど。
仕事に戻る旨なのはに告げたら、力いっぱい怒られ、反対された。

『・・・だって、恋人なんだもん。心配だよ』

・・・上目遣いに紅い顔でそんなこと言われたら、黙って従うしかないじゃないか。男として。

(恋人・・・そっか、なったんだな・・・僕ら。僕と・・・なのはが・・・)

入院中、見舞いに来てくれた彼女の甲斐甲斐しい世話や愛らしい仕草が脳裏に浮び、知らず知らず考えに耽ってしまう。
事実として頭では自分達の新しい関係を把握していても、
そういったことをいちいち考えていなくては、まだあまり実感が湧かないというのが正直なところであった。

「スクライア司書長、お客様です」
「あっ、はい」

小さなノック音と共にドアの向こうの補佐官が告げた来客が、彼を現実へと引き戻す。
この時間なら調査の以来か、資料の受け取りか。・・・もっとも大抵の来館者なんてどちらかの目的でしか来ないのだが。

「どちら様ですか?」
「『アースラ』のフェイト執務官です」
「・・・フェイト?わかった、通して下さい」
「はっ」

フェイトが直接、無限書庫に顔を出すとは、なかなかに珍しい。
わざわざこちら来るよりは調査以来の書類を一枚事務に提出するほうがはるかに効率的なわけだし。
執務官に就任してからは時間的な余裕もあまりないせいか、こうやって司書長室まで訪ねてくるなんて、どれほどあっただろうか。

「・・・なんだろ」

首を傾げた彼の耳に、先ほどとはまた微妙に音質の違うノックの音が、澄んだその音を響かせた。



魔法少女リリカルなのはA’s−変わりゆく二人の絆−

第十八話 笑顔に、なあれ



「身体のほうは、もういいの?大丈夫?」

心配して来てくれたらしく、彼女は来客用のソファに腰を下ろし、まずそう聞いてきた。
服装はいつも通り黒と紺を基調とした、管理局の制服。
今までの日常と何ら変わることのない、彼女の姿であった。
手ぶらでやってきているところを見るに、どうやら完全に個人的に時間を見つけて様子を見に来てくれたようだ。

「うん、平気。まだ魔力は完治してないけど、魔法も問題なく使えるし。・・・なのはにも許可とったしね」
「ふふ、もうすっかりなのはってば、世話焼きさんだね」
「ほんと」

なのはから、彼女にたくさん迷惑をかけてしまったということは既に聞いていた。
二人の関係に、どれほど心を砕いてくれていたかについても。
なのはとユーノが新たに心を通わせることができたのは、フェイトのおかげと言っていいかもしれない。

「・・・なんか、フェイトには色々と助けてもらったみたいで」
「そんなことないよ。私は、なんにもしてないもの」
「いや、フェイトのおかげ・・・だと思う。あ、今回の事件、どうなりそう?」
「事後処理が終わり次第、正式な調査チームが編成されることになりそう。ユーノにも声かかるんじゃない?」
「そっか」
「その時ははやて達も立ち会うことになるんだろうけど・・・」

四冊の、夜天の魔導書のバックアップメモリーデバイスと、マザーともいえるその保管庫。
それらは封印を受けたあと、管理局の保護下に置かれ、調査準備が進められている。
当然、その主たるはやての許可のもとで。

「はやて、結構乗り気みたいだったよ。これでもっと、みんなのことを知ることができるかもしれん、って」

シグナムたち、守護騎士の過去のことや。今は亡き、リインフォースのこと。
知りたくても知ることのできなかった、彼女の大切な家族の昔が。

「ただ、四体とも起動させようとしてシャマルさんとシグナムに止められてたけど」
「はは・・・はやてらしいかもね」

ただでさえ大所帯の八神家に、更に四人も加わったら家の容量も生活費も、とんでもないことになるだろうに。
必死になって止める二人の慌てぶりを想像し、ユーノは苦笑する。

「・・・でも、よかった。全くの偶然とはいえ、はやて達が傷ついてなくて」
「え」
「彼女達の封印をうっかり解いちゃった以上、心配だったんだ」
「ユーノ・・・」

彼女たちが笑えているのならば、一安心だ。

「夜天の書たちと・・・今回の事件にも、感謝しなきゃ・・・ね」
「・・・」

軽く視線を上を向けるユーノを、フェイトははにかむような、なんともいえぬ視線で見つめている。

「ほんと、みんなに世話になってばっかりで・・・?」

───と。そこで、ユーノはせっかく訪ねてきてくれた友人に、何も出していないということに気付いた。

「ユーノ?」
「ああ、ごめん。なんにも出さなくて。ちょっと待ってて、今お茶でも」
「あ、いいよそんな」
「いいからいいから。時間、あるんだよね?」
「そう、だけど。でも」

補佐官を呼んで淹れてもらってもよかったが、わざわざ心配して来てくれたのだ。
自分の手できちんともてなすのが礼儀というものだろう。
ユーノは遠慮する向かい側のフェイトにひらひらと手を振って、給湯室へと席を立つ。

「あの、ユーノっ」
「座ってて。すぐ持ってくるから。紅茶でいいよね?」

「ユーノっ!!」
「だから────────・・・え?」

給湯室はすぐ隣だ。そこまで本式の淹れ方をするわけじゃないし、すぐ済むはずだ。
お茶請けもなにかあったかな────そう思い、彼女に背を向けたとき。


「・・・フェイ、ト・・・・?」

背中を、二本の黒い袖が包み込んでいた。
わずかな布同士の擦れ合う音を残し、今まで談笑していた少女の両腕が。
ユーノの背中を、抱き締めている。

「・・・待って。もう、帰るから。ひとつだけ・・・言っておきたいの。そのために、来たから」

背中に埋められた彼女の声が、身体の奥底へと響いていき。
ユーノは、その場に立ち尽くす。

「私も・・・好き。ユーノのことが、好き・・・だったから」

身体越しのフェイトの告白は、そんな短い言葉であった。


 *     *     *


「・・・フェイト、それは」
「うん、わかってる」

思考が回復するのには、幾許かの時間が必要だった。
一時間にも、二時間にも感じる、ほんの十数秒ではあったけれど。
背後を抱き締める少女の柔らかいぬくもりと、発した言葉の意味を理解し、
心に浸透させていくには、そのわずかな時間は間違いなく必要な長さであったと思う。

それでも、何故今彼女がこのような行動をとり、彼に自身の想いを告げたのかまではわからない。
パニックとも驚愕ともつかぬただ静かな混乱に、ユーノはただ戸惑っていた。

「わかってるよ。ユーノの好きな人は、なのはで。なのはもユーノが好きで。二人が二人じゃなきゃ、ダメってことは」
「・・・」

紅茶を淹れにいくどころではない。
ユーノはただ背中に感じる彼女の温かみと、その声にひたすら、意識を傾ける。

「それは、私も望んでたことだから」
「だったら、なんで」
「・・・・」

なのはの背中を押したのも、彼女だというのに。
なぜ、望んでいたというのならこのタイミングで、二人が心通わせた今になって言うのか。

「・・・けじめ、かな」
「けじめ?」
「・・・うん。なのはとユーノのこと、心から応援したいから。これから先も、ずっと。だから」

受け入れられぬと解っているこの言葉を、彼へと贈る。

「ただ、伝えたかったんだ」
結果は既にありき。
彼に自分の想いを告げる、ただそれだけが重要な、空虚ともとれる告白。

「・・・フェイトは、それでいいの?」
「うん」
「本当に?」
「うん」
「・・・なら」

これで、いい。本心からフェイトは、満足していた。

──────そう、自分では思っていた。

「なら、なんで泣いてるの?」

「・・・・え・・・?」

だから、ユーノに言われるまで、自分が涙を流しているということに、気がつかなかった。
一瞬信じられず瞬かせた目蓋にじんわりと、確かに涙の水滴の落ちる感覚が伝わって。
そこではじめて彼女は己の落涙を知り、ユーノの背中を濡らしていたことを認識した。

「あ、れ・・・?どう、して、だろ・・・。私、嬉しいのに・・・。ユーノと、なのはが・・・」
「フェイト」
「本当だよ?本当に・・・。私、二人に幸せでいてほしくて・・・」
「フェイト!!」
「・・・あ、・・・・」

知らず知らず、ユーノを抱き締める両腕に力を込めていた。
うわ言のような呟きは、ユーノの叫びに遮られ、瞳から流れ落ちるだけだったそれが、
いつしか滂沱となっていたことを理解し、口を噤む。

「・・・・・ごめん・・・」

けれど背中の向こうの彼は、謝る必要などないにもかかわらず、ただそれだけしか言わず。
黙って、その背中を貸してくれた。

「・・・本当に、ごめん・・・」
「・・・謝ら、ないで、よぉ・・・」

ユーノが、謝ることなんてない。
これは私が勝手に泣いているだけ。
やっぱり、私はまだまだ全然、駄目な子だ。
泣くことなんて、何もない。全て、納得ずくのことで。
二人を笑顔で、祝福してあげなくちゃいけないのに。
後から後から溢れてくる涙を、止めることができない。
それを受け止めてくれる彼の背中に甘えてしまっている。

笑わなきゃ、いけないのに。
ユーノを。二人を困らせちゃ、いけないのに。

「どうして・・・どうして、私・・・」
「フェイト」
「・・・」
「・・・無理、しないで」
「────!!」

ずるい。
ユーノは、卑怯だ。
せっかくこっちが頑張って笑おうとしているのに。諦めようとしているのに。
どうして、そんなやさしいことを──いや、残酷なこと、言えるんだろう。

抑えられない。
そう思ったときにはもう、彼の背中にすがって。
声をあげてわんわん泣く、自分がいた。
どんどん流れ出てくる涙が彼の服に染みをつくっていくけれど、ユーノはそれを甘んじて受けている。
本当に、ユーノは卑怯だ。どうしてこんなに、やさしすぎる人間になれるんだろう。
やさしすぎて・・・愛おしい。そんなの、ずるい。
でも、今はただ、そのやさしさが痛いけれど───ありがたかった。


 *     *     *


「お願、い・・・しても、いい・・・?」
「・・・うん」

おもいっきり泣いた後で、フェイトは鼻づまり気味の涙声で言う。
彼女の、心からの願い。二人の大切な「友達」への。

「なのはのこと・・・お願い・・・」
「・・・うん」
「ずっと、大切にしてね・・・?」
「・・・もちろん」
「なのはを泣かせたら、許さないからね・・・?」
「・・・わかってる」
「絶対、だよ・・・」
「ああ・・・絶対。絶対なのはのこと、泣かせたりしない。約束する」

フェイトはまだ時々、鼻をすすって。
ぐずってはいたけれど、言葉はしっかりしていた。
背中を濡らす涙の冷たさを通じて彼女の言葉が、ユーノを戒める。

「だったら・・・いいよ。ユーノ・・・がんばれ」
「・・・うん・・・」
「それから・・・改めて。おめでとう・・・・。幸せに、ね・・・」
「・・・フェイト・・・」
「私もこれから、がんばるから・・・」

もう流れ尽くして干からびたはずの涙が、また一筋だけ、右目から流れ落ちる。
だけど、もう大丈夫な気がした。きっと、大丈夫。そんな風に思えた。
ユーノが、約束してくれたからか。
それとも、吐き出すものを吐き出してしまったからか。
きちんと祝福することが、できたからだろうか。

自分もこれから、前に進んでいけるように思えた。

彼から見えない、背中越しだけれど。
フェイトは心からの笑顔を、彼へと向けた。

ありがとうと、がんばれ。

二人の未来に笑顔があるよう、そのふたつのメッセージをこめて。


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