ブリッジのモニターには、黒い宝石が映し出されていた。
『ダイム』───、画面の端のほうに、様々な数値とともに表示されているのが、
この宝石の名前らしかった。
「わかりやすく言えば、なのはさんのレイジングハートのプロトタイプ、といったところかしら」
艦長の椅子にすわるリンディは、そう言って任務の説明をはじめた。
ダイム。それは、流浪の民、スクライア族の魔術師によって作られたと
される、最初期のインテリジェントディバイスの一つ。初期型であるが故に
出力は非常に不安定だが、内蔵される魔力量とその思考回路の完成度に
おいては、姉妹型ディバイス・レイジングハートの性能をはるかに上回る
ものとなっている。製作者の死後、暴走を懸念したスクライア族によって封印されることとなり、現在に至る。
こんなことが、リンディの説明以外にも、配布された資料に書かれていた。
だが、声も、文章も、フェイトはどこか上の空で聞き流してしまう。
「フェイト」
「・・・・・」
「おい、フェイト」
「・・・?っ!あ、はい!」
クロノに肩を叩かれ、我に返る。怪訝そうな顔が、こちらを見ていた。
「どうしたんだ?君らしくもない」
「あ・・いえ・・その・・・」
フェイトから集中力を奪っているのは、やはりあの夢のこと。
そこにきてレイジングハートに関係した任務とくれば、なおさらだった。
二人のやりとりを見ていたリンディが、ゆっくりと告げる。
「・・昨日未明、突如封印が解け暴走、消失した旧型インテリジェントディバイス、
『ダイム』の捜索及び回収。それが今回本艦に与えられた任務です。
各員、気を引き締めて任務へとあたること。以上です」