二人の前には、一本の大きな木がそびえていた。
───ここは、二人がはじめて会った場所。
「・・・なんだかもう、懐かしいね」
「なのはは、この辺りに立ってて」
「フェイトちゃんはあの枝の上で」
あの日、二人の距離は離れていた。お互い、相手のことなど何も知らずに。
「私・・・なのはに、いっぱいひどい事しちゃったね」
初対面の相手──フェイトに対して、少しでも知り、理解しようとしてくれたなのはに対して。
──言っても多分、意味がない──
フェイトはそう突き放し、問答無用で刃を向けた。そして、なのはを打ち倒した。
「そんなことも、あったね。・・・だけど、フェイトちゃんだって、やりたくてやったわけじゃないんだから」
けれど、ぶつかり合いを経て、今こうして二人は隣にいる。最も親しい友人の一人として。
「君にも、ひどい事しちゃったね・・・ごめんね」
抱きかかえた灰色の猫に、そっと語りかける。すると猫は小さく鳴き、フェイトの胸に顔を摺り寄せてくる。
きっと、フェイトから攻撃されたことなんて覚えてないのだろう、その猫はよく懐いていた。
「これで少しは元気だしてくれるといいんだけどね」
「うん・・・なんだか最近二人とも、疲れてるみたいだったからね」
ちょっと散歩してくるというなのは達を見送った後、アリサとすずかは二人で話し込んでいた。
「私達にも、話してくれるといいんだけど・・・」
カップを置き、アリサがつぶやく。
「怒っちゃだめだよ、アリサちゃん」
「わかってるわよ」
すずかの言葉に、むくれるアリサ。
「でも・・・」
「何?」
「私達って・・フェイトのこと、何も知らないんだよね」
「それは・・・」
「知ってるのは、なのはと友達だったってことと、外国から来たってこと。それと、なのはの家に住んでるってことぐらい。なのはも何も教えてくれない」
友達なのに、何も知らない。教えてくれない。
「何か・・・・理由があるのかな」
「知らないわよ」
自分達にできるのは、待っていることだけ。そのもどかしさは、もう体験済みだった。だから、我慢できる。
(今度は、ちゃんと我慢するから)
だから、いつかきっと、話して欲しい。いつまでだって、待っているから。