目の前で起きている出来事が、信じられなかった。
「あ・・・あ・・・・」
蛇に睨まれた蛙。今のアリサとすずかの状況は、まさにその形容がふさわしい。
突如として空中から現れた、狼のような怪物たちに周囲を囲まれ、
二人はただただおびえ、その足はすくみ動くことが出来ない。多少の大型犬で慣れていたとしても、そんなもの役に立たない。
「アリサ・・・ちゃん・・・」
「大丈夫・・・・大丈夫だから・・・!」
がたがたと震えるすずかを懸命に励ますアリサ。しかし、その彼女自身の声もまた震え、目には涙が浮かんでいる。
屋敷内に戻っていたファリンの安否も、わからなかった。
じり、と怪物がにじり寄るたびに、小さく悲鳴を上げ縮こまっていく二人。
リーダー格と思しき個体の足元には、粉々になった机とベンチが転がっている。あんなものに襲われたらひとたまりもない。
けれど、普段どんなに強気にふるまっていようと、アリサはただの小学生の女の子だ。こんな極限状況でどうすればいいかなど、考えろというほうが無理だった。
「ひっ!!」
目の前すれすれを、怪物の爪が抉っていった。怪物たちは威嚇でもするかのように、抱き合う二人の周りをぐるぐる回ってほんの目と鼻の先の空間を切り裂いていく。
「ア・・・アリサちゃん・・・私・・・・」
「あ・・・・・」
先に気付いたのは、すずかだった。
いつごろからだったのだろう。
気がつけば、地面が暖かかった。足元の地面とスカートに、黄味がかった染みが広がり、湯気をたてている。
鼻をつくのは、独特の刺激臭。
二人の小水が、地面を濡らしていた。
恥ずかしい、とか、何やってるんだろう、とか。
失禁しているというのに、まるで赤ん坊のように漏らしているというのにそう羞恥の念を感じることすら、今の二人はなかった。
むしろ、どこか心地よかった。
────ああ、あんまり怖いとお漏らししちゃうって、本当だったんだ。
目前の恐怖に対する反応とは対照的に、妙に冷静に、地面を伝わっていく水を眺めている自分がいた。
怖くない、怖くなんてない。
何度言い聞かせても、その効果は一向になく、二人そろって怯え震えるしかなかった。
「!!」
遂に中の一匹が、怯える二人をその牙にかけようと襲い掛かる。
アリサは半ば閉じかけていた目をきつく閉じ、すずかを強く抱きしめた。
──ああ。きっと、私達、死ぬんだ。
痛いのかな。食べられちゃうのかな。死ぬってどういうことなんだろう?
目の中の暗闇に、いくつもの考えが浮かび、消えていく。
だが、アリサが聞いたのは自分の肉が裂かれる音でも、まして骨の砕ける音でもなく。
ガキリ、という何か硬質なもの同士がぶつかり合う鈍い音だった。
おずおずと、目を開けるアリサ。
「フェ・・・フェイト・・・・?」
二人を助けたのは、他の誰でもない。
見たこともない格好をしたフェイトが、怪物の爪を黒い斧のようなものでで受け止めていた。