「すずかちゃん・・・」
「それ、は・・・」
二人を安心させるためにも、約束してあげたい。けれど、フェイトとなのはは予想していた以上に消耗してしまっている。
こんな状態では何が起こるかわからない。ここで今もし約束して守れなかったら一層深くすずか達を傷つけることになる。
──常に最悪の事態を想定した上で行動を決めろ。それだけの責任が僕らにはあるのだから。
それは管理局の一員として現場に出るようになって、兄から受けた教え。
「ごめん・・・・」
だから、約束はできない。だけど、なのはだけはどんなことがあっても守るから。それだけは必ず。
フェイトがそう言おうとしたその時。
パン、と乾いた音がして頬に痛みが走った。
「なの・・・は・・・?」
「フェイトちゃんのバカ!!」
厳しい目をしたなのはの左手が、右の頬を張っていた。
アリサもすずかも、今起きた出来事に驚き、言葉を失っている。
「・・・今、フェイトちゃんが何て言おうとしたか当ててあげようか!?『私がどうなっても、なのはだけは無事に帰すから』、そんな風に考えてたでしょ」
「・・・・!!・・どう、して・・」
「昔と同じ・・・自分のことなんて考えてない目だった。・・・フェイトちゃん、わかってないよ」
「・・・え・・・・?」
打たれた頬と、そこを押さえた手が熱い。なのはの目もまた、少し潤んでいた。
「わ、私は・・ただ、なのはに何かあったら・・・」
───きっと二人が悲しむから。だから。
「そうじゃない!!」
なのはの強い口調がフェイトの言葉を遮る。
「そうじゃないよ・・・二人が帰ってきて欲しいのは私だけでもなければ、フェイトちゃんだけでもない。たとえ片方でも何かあったら二人が悲しむのは一緒なんだよ」
「・・・あ・・・」
なのはに何かあったら、きっと二人は悲しむ。それは、友達だから。
フェイトはそう考えていた。二人にとってなのはは大切な人。だから二人の為にも、この身に代えても守らなければいけないと思っていた。
けれどフェイトはごくごく単純なことを、なのはやすずか、アリサのことを思うあまり忘れていた。
二人にとっても既に自分は友達だということ。出会ってからの時間の差なんて関係ない。
すずかもアリサも、フェイトのことを失いたくない大切な存在と思っているということを。
そして確約の言葉をフェイト自身から欲しているということを。
全ては、友達だから。たったそれだけの、それでいて一番大切なこと。
「・・・・ごめん・・・・」
フェイトの謝罪の言葉に、なのはは首を横に振り、言う。謝る相手は私じゃない。
(ありがとう、なのは)
(ううん。二人でならきっと大丈夫。帰ってこれるよ。だから、すずかちゃん達に)
(兄さんだったら、約束してないかもしれない。けど───)
例え間違った行動であったとしても、二人の気持ちに応えたい。自分を、こんなにも大切に思ってくれている二人に対して。
大丈夫、できる。二人の元に無事に帰ってくればいいだけ。なのはもフェイトも、どちらも欠けることなく。
「・・・・待ってて・・・」
「え・・・?」
「フェイト・・・」
アリサとすずかの手を握り、迷いなく約束の言葉を告げるフェイト。
その目はしっかりと二人の目を見据えて、揺らぐことなく。
「・・・約束する。二人で絶対、帰ってくる」