───どうして、あんたがここにいるんだ。
見上げた先に映るのは、忘れようのない顔。かつて自分と主に慈愛を注いでくれた、いるはずのない人物がそこにはいた。
疑問の前に、アルフは動けなかった。・・・いや、動けても、多分同じだったろう。
アルフも傍らで倒れているユーノも、自分達の力が彼女に遠く及ばない、勝ち目がないということを肌で感じ取っていた。
「どう、して・・・」
アルフの表情はユーノの単なる苦悶と不安に満ちたそれとは違う。
疑念、困惑、それらすべてが混じりあった、複雑すぎる感情がそこには表れている。
夢だと思いたかった。なぜ彼女が生きているのか。なぜ、自分達へと牙を剥くのか。
アルフとフェイトにとってまるで母親のようですらあった彼女が、何故。
(フェイト・・・きちゃ・・・だめ・・・・・だ・・)
もしフェイトと彼女が出会ってしまったら・・・・それは悪夢以外の何物でもない。
こちらを見下ろす栗毛の髪の女性の、氷のような微笑を最後に────アルフの意識は途切れた。
───── 一方。結界内へと到着したなのは達は、ユーノとアルフの姿を求め街の中を彷徨っていた。
「フェイトちゃん、なんか、変じゃない・・・?」
「うん・・・。この結界、ユーノのものじゃない」
「アルフさんのでも・・・・ないよね?」
なのはの言葉に無言で頷くフェイト。
「一体、だれが・・・・・?」
「わからない・・・く・・・」
ぐらり、と視界が一瞬ねじれた。空いているほうの手で軽く側頭部を叩いて、なんとか意識をしっかりさせる。
「大丈夫・・・?」
心配げに聞いてくるなのはもまた、先ほどまでの疲労から完全に抜け出してはおらず、まだ足元がふらついている。
「・・・平気・・・。なのはは?」
「なんとか・・・・」
アリサ達と別れてから、まだあまり時間は経っていない。急いで街へと駆けつけた二人はすぐにユーノが張ったと思しき結界へと飛び込んだのだが───
それなのに。結界内には、ユーノも、アルフも。倒すべき異形の怪物達の姿すらなかった。
「ユーノ君も、アルフさんも、無事だといいんだけど・・・」
この結界内に入った直後から、二人の魔力が感じられなくなった。
入る前まではあれほどはっきりと感じられていたにも関わらず。
「大丈夫・・・少なくとも、生きてる。アルフも、ユーノも」
唯一の安心材料は、そこだった。主と使い魔という関係のフェイトとアルフは、それぞれの魔力の深い部分で「繋がって」いる。
本人達にのみわかるその感覚が途切れてない以上、少なくともアルフは生きている。アルフが生きているならば、
きっとユーノだって生きてはいるはずだ。
「けど・・・」
フェイトは思う。
何だろう、この違和感は。
この結界から感じる魔力は、どこかなつかしい気がする。けれども、間違いなくはじめて感じる魔力。
二つの背反する魔力の印象に、フェイトは戸惑っていた。
フェイトは過去一度だけ、この魔力のなつかしさとよく似た力を持っていた者を知っている。
(リニス・・・)
───まさか、そんなはずはない。
自分の考えに首を振るフェイト。
彼女は消えた。生きているわけがない。
リニス。フェイトを育ててくれた彼女はとうの昔に、この世からいなくなったのだから。