「フェイトちゃん、あれ!!」
なのはの指差す先には、地面に力なく転がる身体が二つ。
赤毛の女性と栗毛の少年のそれは、まぎれもなくアルフとユーノのものであった。
「アルフ!!ユーノ!!」
「しっかりして!!」
力尽き倒れ伏すユーノとアルフになのはが駆け寄り、抱え起こし呼びかける。
「───フェイト・テスタロッサ」
「え・・・?」
なのはに遅れじと動きかけたフェイトの耳に飛び込んでくる、聞き覚えのある声。
その声は念話ではなく、直接耳に聞こえてくる。
────この、声は。
「リニ・・・ス・・・・?・・」
頭の中が、真っ白になる。
振り向いたフェイトの目の先に映るのは一人の女性。
数匹の異形を連れ、強力な魔力を全身に纏った女性のその顔は、フェイトにとってけっして忘れられるはずのない顔。
「リニス・・・なの・・・?」
「・・・・・」
しばしの沈黙のあと、女性が口を開く。
「・・・そうですね・・。私の名は『リニス』、確かにその通りです、フェイト・テスタロッサ」
「じゃあ・・・!!」
「ですが、私は貴女を知らない」
次の一言が、彼女の言葉によって出て行かない。
その声には何の感情もこもらずに、ただ淡々と。氷のような冷たさを持ってフェイトの心を凍らせる。
「私が知っているのは、主の与えた情報としてのフェイト・テスタロッサのみ」
「え・・・・?」
「あくまで私にとって貴女は、主から命じられた捕獲対象でしかない」
───何を、言っているの。私が、わからないの。
フェイトの全身を、寒気にも似た嫌な緊張が駆け抜けていく。
目の前に貧血の時と同じ光が瞬き、足元が泥沼になっているようで、フェイトは身震いをした。
「そんな・・・・!!私だよ、フェイトだよ!?それに主って・・・!?どうして私を・・・!!」
「残念ながら、貴女の知る『リニス』と私とは別の個体のようだ・・・」
「違う!!たとえそうだとしてもあなたはリニスだよ・・・!!」
その容姿、その魔力。全身から殺気を発散していようとも、それらはフェイトのよく知る『リニス』そのものだ。
しかしフェイトの呼びかけも空しく、目の前の『リニス』は冷たい表情のまま右手を挙げ、周囲の異形へと命じる。
「・・・!!まさかリニス、あなたがアルフ達を・・・?」
「貴女の戦闘力は高い。・・・今までこの子達を使って様子を見てきましたが、捕獲にはまだその力を削る必要があるようです」
「!!・・・やめて、リニス・・・・!!」
「いきなさい、お前達」
言葉は、届かない。リニスが腕を振り下ろすのを合図に、異形達がその巨躯を揺らし襲い掛かってくる。
「リニス!!」
「フェイトちゃん、危ない!!」
「っ・・・!!」
間一髪、黒く光る爪をかわす。だが、なのはが言ってくれなければ無防備な状態で叫び続けるフェイトは間違いなくやられていただろう。
「おねがい、やめてリニス・・・!!」
(どうして・・・?)
リニスは本気だ。本気で自分を倒し、捕獲しようとしている。今までの事件も、すべてそのために。
だがそれでもフェイトは、そのことを理解しても呼び続けられずにはいられなかった。
戦いたくない。いや、戦えない。
爪と牙の弾幕をぎりぎりのところで避けながら、フェイトは必死に語りかける。
「私・・・リニスとは戦えない・・・!!」