「リニス・・・やめて・・やめさせて・・!!」
既にフェイトの身体には、あちこち赤い切り傷が刻まれてしまっている。
呼びかけ続けながら複数体の敵を相手にするのは、さしものフェイトといえどもそう長くは続かない。
「反撃してこないのは助かりますが・・・私は命じられた任務を成すだけです」
「リニス・・・!!」
そうしている間にも少しずつ、バリアジャケットの裂け目と傷は増えていく。
「フェイトちゃん!!」
フェイトの窮状を助けようと動くなのはを、数体の異形が取り囲む。
「ッ・・・・!!」
「邪魔はさせない・・・しばらくその子たちの相手をしておいてもらいます」
「なのはっ!!」
今のなのはが一人で、しかもユーノとアルフを守りながら戦える数じゃない。
フェイトがなのはの様子に気をとられた隙に、一体の異形が背後に回りこむ。
そしてリニスは、フェイトの足元めがけ一発の小さな光弾を放つ。
狙った場所も含め、決め手になるような破壊力ではない。せいぜい体勢を崩すのがいいところだ。
だが、異形達の相手で精一杯のフェイトに対しては、それで十分だった。
「っあっ・・・!?」
軽い衝撃に足をもつれさせた次の瞬間────フェイトの身体は屈強な前足によって地面へと押さえつけられていた。
取り落としたバルディッシュが、地面を転がっていく。
「うあ・・・・!!」
「フェイトちゃん!!」
魔力の切れかかったその身体では、その力を跳ね除けることはできない。
異形が前足に力を込めていくほどにフェイトの背骨はみしみしと音をたて、顔は苦痛に歪む。
「リ・・・ニス・・・・っぐ・・」
近づいてくる足音に見上げ、絶望の表情でリニスを見つめるフェイト。
「あぁぁぁぁっっ・・・!!!」
全身が砕けそうだった。
だがそれでも、リニスは表情ひとつ変えることなく先ほどの言葉をただ繰り返す。
「・・・言ったはずです、私は貴女の知っている『リニス』ではないと」
そう言うとリニスは屈みこみ、その右手を彼女を見つめるフェイトの頭部へと伸ばす。
(だめ・・・だ・・・)
この右手に触れられたら、もう。
きっと、何らかの魔法で意識が刈り取られる。そしてそのまま、連れて行かれるだろう。
そうなったら、アリサ達との約束も果たせなくなる。
「っく、ぅううう・・・!!」
なんとかしなければ。必死で全身に力を込めるが、異形の強靭な前足はびくともせず、
徐々に近づく右手に焦りだけが募っていく。
(なのは・・・・)
目の端に映るなのはも、コンクリートの塀を背に、数体の異形に囲まれて追い詰められている。
意識のないアルフ達を守りなんとか杖を構えてはいるが、既に戦う力が残っていないのは明らかだった。
「それでは、貴女の身体を頂いていき────」
魔力の篭った右手が、今正にフェイトの顔を包み込もうとしている。
だが。
『blaze canon』
「!!」
リニスの飛び退いたアスファルトの地面へと、一発の魔力弾が着弾する。
「この・・・魔法は・・・」
『break impulse』
フェイトを押さえる異形が突如爆発する。
その爆発がフェイトを巻き込まないよう威力を絞った、絶妙の一撃。
幾度となく模擬戦で目にしたその技の使い手のことは、だれよりもフェイトがよく知っている。
『stinger snip』
同時に、なのは達を囲んでいた異形達が、変幻自在の光に貫かれ次々と四散していく。
「クロノ君!!」
なのはもフェイトも、魔法の放たれた方向を見上げる。
「兄さん・・・!!」
「よかった・・なんとか、間に合ったか・・。すまなかった、遅れて」
二人を守るように降り立ったクロノは、掌中の杖──S2Uを構えなおし、リニスと対峙する。
「あとは・・・・僕がやる」