「この声・・・魔力・・・まさか・・・!?」
「母さん・・・?」
フェイトの脳裏を、虚数空間へと落ちていく母の姿がかすめていく。
そんなはずは、ない。あの暗闇の中から生還するなんて、そんなことは。
───これもまた、あなたが悪い子だからよ───
「・・・!?」
(「これ」・・・?まさか!?)
上空を見上げたフェイトはすぐさまクロノの方へと向き直り、叫ぶ。
「だめ!!兄さん逃げて!!」
「ッ・・・!?どういう・・・」
言いかけて、クロノもまた気付いた。先ほどまで全身にその魔力を漲らせ臨戦態勢をとっていたリニスが、
もうその必要はないとばかりに無防備にただ立っていることに。
(───しまっ・・・)
遅かった。
避ける間もなく一筋の、ほんの一筋の光が、クロノの右肩を一瞬にして貫いていった。
「あ・・・」
それは、あまりに鋭く一瞬のできごとで。
痛みを理解するのにわずかの時間を要するほどだった。
「・・・ぐ・・ああああぁぁ!!!」
肩を押さえ、もんどり打ちながら倒れるクロノ。
S2Uは地に落ち、瞬時に激痛を物語る脂汗が額ににじみ出る。
「クロノ君!!」
「兄さん!!」
「ぐ・・・ぅ・・・く・・」
(馬鹿な・・・最低限・・・・シールドは、張って、おいた・・・のに)
あんな、ともすれば見ることもできないようなか細い魔力弾一発がシールドを破り、
その上これほどのダメージを食らうなんて。
「申し訳ありません・・・主よ。わざわざあなたが出てくるようなことになってしまって」
その場にいる誰もが───倒れその肩を血に染めているクロノですら、いつのまにか集まりだした灰色の雲を見上げていた。
いや、そこより発せられる、以前に感じたことのある強大な魔力に対して、と言ったほうが正しい。
(く・・・まずい、あれがあの人なら・・・。はやく傷を・・・)
右肩を押さえる左手へと魔力を集め、治癒魔法を試みる。
全力を回復にまわせばさして時間はかからないはず。そして戦闘態勢を整えてフェイト達を逃がす。それしかない。
「無駄ですよ」
「な・・・に?」
何かが、おかしい。
魔力を込めているはずの左掌から傷口へと、魔力が入っていかない。
「並大抵の魔力では、我が主の魔法による傷を治癒魔法によって治すのは不可能ですよ。生半可な治癒魔法では主の残留魔力に弾かれるのが落ちです」
「く・・・」
(そういう・・・ことか・・・!!)
「それに、もう遅い」
先程までは、集まりつつもどこかばらばらであった上空の魔力が、既に一つになっていた。
それらは暗黒となり、何かを形作っていく。
「・・・我が主、プレシア・テスタロッサ」
黒い影は、漆黒の髪と衣となり。
形成されていく姿は、かつての大魔導師と一致する。
「母・・・さん・・・・」
それはフェイトの母、プレシア・テスタロッサの帰還を告げていた。