「やめて・・・・」
それはもう、戦いなんてものじゃなかった。
力の差はあまりに一方的で。
「やめて・・・母さん・・・・」
兄が、友が。実の母の手によっていたぶられる様を、見ていることしかできない。
「お願い・・・」
地面に横たわるなのはとクロノは、抱え起こしてもぴくりともせず。
「お願い・・・・だから・・・・」
そんな状態の二人に対してなおプレシアは光弾を浴びせ続けている。
爆風によって吹き飛ばされた身体がブロック塀へと激突しても、二人は声ひとつあげなかった。
「私・・・母さんについていくから・・・・」
二人に走りより母へと懇願するフェイトの声には、涙が混じっていた。
「だから、もうやめて・・・・・」
アリサ達との約束をやぶることになるが、仕方ない。
このままでは二人の命が危ないのだから、素直に従う以外にない。
だが。
光弾を撃つプレシアの手が、一旦下がる。
「・・・・だめよ。こいつらをどうするかに関係なくあなたの身体は頂いていくのだから」
「そんな・・・・」
「あなたの身体は必要条件ではあっても、十分条件ではないのよ、フェイト」
「・・・・」
「わかったら、そこからどきなさい。あなたの肉体を破壊するわけにはいかない」
二人への攻撃を再開しようと、再び魔力を集めだすプレシア。
「待って!!母さん!!」
「無駄よ。こいつらの罪は、重い」
「違う!!」
「違う・・・・・今度は・・・」
意を決し、フェイトは母へと尋ねる。
「・・・今度は私に、何をさせるつもりなの・・・・・!?」
時間稼ぎという思いもあった。せめてどちらかが意識を取り戻してくれれば。
少しでも時間を稼がなくてはという思いと、母の目的が一体何なのかという疑問がフェイトの意思の中に同居する。
「あなたが知る必要はないわ。ただだまってその身体をアリシアに差し出せばいい」
「ッ・・・アリシア、に・・・?」
だからって。だったらなおのこと、二人を傷つけても無意味だ。
「お願い・・兄さん達にひどいことするのを・・・やめて・・・」
「言ったでしょう、ダメよ」
それは、理屈でなく、怨嗟によるもの。言葉では、決して解くことはできない、幼児のわがままにも似た代物だった。
「・・・それにフェイト。あなたもいけないのよ」
「え・・・・・」
「そもそもあなた、アリシアの出来損ないの分際で本当に───」
だめだ。それ以上は、どうか。言わないで。
「───家族や友達なんてものが作れるなんて思ってたの?」
「それ、は・・・!!」
私には兄さんが、なのはがいる。大切な家族も、友達も。ちゃんといるよ。そう言い返したかった。けれど、できなかった。
なぜなら、それは繰り返しフェイトが自分自身へと、心の奥底で問い続けてきたことだったから。
本来ならいるはずのない存在である自分。
母や、アリシア、リニスといった犠牲の上に生きている自分。
そして、周囲の人間を危険に巻き込んでしまう自分。
いつだってみんな、やさしくしてくれた。
もちろんそれはうれしかった。クロノやリンディのことも、当然家族だと思っている。けれど、その度にフェイトは密かに悩んでいた。
自分は、ここにいてよいのだろうか、と。彼らと共に過ごすことを、赦されているのだろうかと。
自問自答を幾度と無く重ねていたから。