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[526]640 2005/08/25(木) 19:33:39 ID:ICxDgU6J
[527]640 2005/08/25(木) 19:35:11 ID:ICxDgU6J
[528]640 2005/08/25(木) 19:35:45 ID:ICxDgU6J

She & Me  第二十一話 星の光奪われる時

何も、わからなくて。
何も、見えなくて。
何も聞こえなかったけれど。

ようやくフェイトは、軽くなった膝と、苦痛に満ちた誰かの悲鳴。そして立ち塞がる何かに気付いた。


「────あ・・・・?」
濁りきっていた視界が、次第にクリアになっていく。
働きを取り戻した聴覚が、声の主を明らかにする。
先程まで「彼女」が居たはずの膝の上には、誰も倒れてはいない。

ゆっくりと、視線を上げていくフェイト。
消えた友の身体は、すぐそこにあって。

「な・・・・・のは・・・・・?」

本当なら、自分の受けるはずだった赤い光を、いつの間にか目を覚ましたなのはが。
シールドなんて張る力は、欠片も残っていないその小さな身体で。

「あ・・・!!ぁぁああっ!!ああああああぁっ!!」

己の身体を盾代わりにして、全身で受け止めていた。

「ち・・・・」
プレシアにとっても、これは予定外のことだった。
数ある魔法の中でも意思を持つ人間の精神を乗っ取り操る類の、いわゆる支配呪文は、最も高度な技術を要する。
ヒトの心は複雑であり、それを支配するための術式もまた並みの術者では扱えないほど複雑なものだからだ。
そしてそれに必要な魔力は、対象が強い魔力を持つ者であればあるほど、大きなものとなる。
アリシアを復活させるために必要な魔力等を考えれば、大魔導師と呼ばれたプレシアと言えど多用はできない。
まして相手がAAAクラスともなればせいぜい一度が限度。
それを。フェイトを支配するために放った貴重な操作呪文を、あのにっくき小娘がかばって浴びるなど。

(どこまでも・・・邪魔をしてくれる・・・!!)

───だが。

「この程度・・・」
目的を遂げるためには問題はない。好きに使える駒が一つ手に入っただけのことだ。かくなる上は、こいつを使って。
「多少傷ついていても構わない・・・。フェイトを手に入れる・・・」


「あ・・・あ・・!!・・あぁあ・・!!あ・・・・ぁ」
赤い光がなのはの全身へと広がり、包み込んでいくと同時に、
強張ったように左右に伸びきっていた両腕が、しだいにだらりと垂れ下がっていく。
悲痛な叫びも、徐々に掠れ、消え入るように小さくしぼんでいく。

「ッ・・・!!」
(・・・・・め・・・)
「!!」
(来ちゃだめ・・・・!!)
念話。なのはから送られた思念が、飛び出し救出しようとしたフェイトを静止する。

(─────フェイトちゃん、来ちゃ・・・だめ・・・)
完全に意思を奪われる前に、必死の念話をなのはは送り続ける。
「でも・・・でも!!」

(身体が・・・身体が・・・・動か・・・・逃げ・・・・て・・・フェイト・・・ちゃん・・・・)

消えた叫び声と同じように。
その心の声もまた、潰えていく。

「なのは!?なのは!!!!」

フェイトの、必死の呼びかけも空しく。


友であった少女は、少女自身の身体からいなくなった。

「・・・・・・」

既にそこにはもう、彼女の良く知る「なのは」はいない。
「なのは」という存在が、なのはの肉体から、完全に消え失せていた。

「う・・・・ああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
咆哮するその姿形は、高町なのはそのものだけれど。
ゆっくりと振り返る、「なのは」であった人形。
彼女は、なのはであって、なのはではない。
フェイトは、そう理解した。というよりも、理解できてしまった。
理解できないほどフェイトは魔法に関して無知ではなかったし、未熟でもない。
できなければ、どんなによかったろう。

「そんな・・・なのは・・・私の・・」
自分のせいで、最愛の友を傷つけられただけでなく。
目の前で、その友を奪われた。
いずれも、母の手によって。
すべては、自分がいたために。

そのことが、わかってしまったから。

「私の・・・・せい・・で・・・」
「・・・・・・」
見開かれたなのはの、否、なのはであったモノの目には、異質の光が宿り。
かつて笑顔に満ちていた表情には微笑み一つ無い。


レイジングハートの赤い宝玉もまたどす黒く濁り、主だけでなく彼女さえもがプレシアの手に落ちたことを告げていた。

「やりなさい・・・・気絶させるだけでいいわ・・・。くれぐれも、殺さないように、ね」
「はい・・・」
『sealing mode』
プレシアの命じるまま。
なのはは杖を変形させる。

「まさ、か・・・・?」

先程まで枯渇寸前だった魔力は、プレシアと「繋がる」ことによって供給を受け、完全に回復している。
故にどんな魔法でも、問題なく使うことができる。

それが莫大な魔力を消費する、平時ですら数発が限界の、彼女の持つ最強最大の一撃であっても。
今のなのはには十二分に使用可能な力が蘇っている。

「スターライトブレイカー」

いつも聞き慣れていたものと、同じ声のはずだったけれど。
フェイトの耳にはそのつぶやきは、なのはとは違う、まるで別人の発した声のように聞こえた。
そして。視界の隅に恭也の姿を、彼がなのはに向けて何かを叫んでいるのを捉えた直後。

「発射」

彼女達は、なのはの放った桜色の光────即ち、なのは最強の呪文、スターライトブレイカーの光に────飲み込まれていった。


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