よく考えて。そして、なのはのことを、お願い。
本来ならフェイトのことを責めて当然なのに、美由希は最後にそれだけ言うと部屋から出て行った。
気持ち、次第。
美由希の言葉がフェイトの心に投げかけた波紋は大きかった。
けれど。
(それでも、私は・・・・)
人間じゃない。似た境遇ではあっても、美由希とは根本が違う。
自分は世界から祝福されることなく生まれてきた存在なのだから。
このあたたかな人達のもとで一緒に過ごしたくないわけがないではないか。
それでもやっぱり自分は、いちゃいけないんじゃないかと思う。
背反な二つの感情は、共にフェイトの偽らざる気持ちだった。
そんなフェイトを、すずかは静かに見つめていて。
「・・・フェイトちゃん」
「すずか・・・?」
ぎゅっ、と拳を握り。何かを決意したような目で、すずかが改めてこちらを見る。
───きっとフェイトちゃん、まだ悩んでる。フェイトちゃんって、すごくやさしくて、繊細な子だから。
だから、今フェイトの背中を押してあげることができるのは、自分だけ。
美由希が出て行ったのは、あとのことをすずかとフェイト自身に託したから。
「私も、フェイトちゃんに聞いて欲しいことがあるの」
美由希が、同じ「立場」からフェイトへと想いを語ったように。
すずかもまた、フェイトと同じ「存在」として、聞かせたいことがあった。
少しでも彼女の助けになるように。
同じ、人ならざる者として。
───そして再び、場面は囚われたなのはの元へと移る。
鎖が外されると同時に、少女はゆっくりと床に崩れ落ちた。
意識などとっくに無く、白いバリアジャケットはボロ布同然に裂けきっている。
「・・・・・リニス。手当てをしておきなさい。死なない程度に、でいいわ」
「・・・・・・はっ」
────およそ一時間、か。
ぴくりともうごかない少女の体を抱え起こしながら、リニスは改めて時間を確認していた。
そう、約一時間。プレシアは虜囚となった少女へと鞭を振るい続けていた。
少女が気を失っても、休むことなく、怨嗟の声と共に。
その苛烈さは、少女の全身をくまなく赤く染めている鞭の傷が物語っていた。
────いくら敵とはいえ、これではあまりにも。
治癒魔法のためになのはの服を脱がせながら、思わず眉をしかめるリニス。
こんな幼い少女の受ける傷とは、到底思えない。服も脱がすと言うよりは引き剥がすと言ったほうが近い。
「・・・・ト・・・ちゃ・・・・・」
「!!」
服を脱がせ、治癒魔法の準備をはじめたそのとき、微かになのはの唇が動く。
意識を取り戻したわけではない。無意識のうちに少女の口から出た、友の名前を呼ぶ声だった。
フェイトちゃん。
少女の唇は、ほとんど掠れた音でそう発音していた。
常人より優れた聴覚を持つリニスですらやっと聞き取れるほどか弱く、
たった一度そう動いただけでしかない、弱弱しいものでしかなかったけれど。
リニスは少女の唇の動き、その意味を即座に理解していた。
(フェイト・・・フェイト・テスタロッサのことか・・・・)
自分と敵対した、捕獲対象の少女。それがフェイトだ。フェイトのほうはリニスのことを何か知っていたようだが、自分にとっては単なる標的に過ぎない。
それ以上のものなど何もない。そのつもりだった。
「フェイト・・・・ですか・・・・」
だが不思議と、その名前の響きはリニスにとって懐かしく感じられる。
穏やかで安らぎに満ちた、奇妙な既視感だった。それはまるで、今手の中にある治癒魔法の光のように暖かい。
(この子は何か・・・・彼女のことを・・・知っているのでしょうか・・・・・)
だったら、聞いてみたい。
自分にとってフェイトとは何なのか。
フェイトと自分との間に一体、何があったのかを。