<<アルフ・・・良かったの?フェイトとの精神リンク切っちゃって・・・>>
リビングにて。美由希、すずかと入れ替わる形で密かに部屋を出たユーノは、共にフェイトの元を後にしたアルフを気遣っていた。
<<・・・なにも、あんたが気にしなくても・・・>>
<<いや、だってさ・・・>>
<<・・・いいんだよ。これはきっと、あの三人だけの話だから>>
ユーノが言うとおり、アルフは一時的にではあるが、主であるフェイトとの心の繋がり───精神リンクを切っていた。
アルフとフェイトの絆の強さを知るユーノだからこそ、そのことを心配するのだろう。
<<・・・そう思ったからこそユーノ、あんたも部屋を出たんだろ?>>
<<・・・ん、まぁ・・・>>
<<あたしもそれとおんなじだよ。それに、盗み聞きってのはあんまり気分のいいもんじゃないし>>
精神リンクを繋げたままでは、フェイトの見聞きしたことはすべてダイレクトにアルフの感覚にも認識されてしまう。
学校に行っている間などアルフが聞いても興味のなさそうな時間はフェイトのほうから切っていることもあったが、
アルフのほうから自発的に切るのははじめてだった。
<<あの二人もフェイト以外に聞いて欲しくない話みたいだったし、それをあたしが盗み聞きするのは良くないよ>>
<<アルフ・・・・>>
子犬姿のアルフが、ちらと視線を移す。その先には、桃子とリンディの二人に慰められながらしゃくりあげるアリサの姿があった。
友達の辛い過去を知って。
力になれる人がいるのに。
自分はその力にはなれなくて、どうすればいいかわからない。
それがただ、悔しくて。
そうやってアリサがフェイトのために悔し涙を流してくれていることが、アルフにはとても済まなく、またありがたいことに思えた。
「夜の・・・一族・・・?」
「・・・うん。それが、月村家・・・私と、忍お姉ちゃんの一族の、本当の名前・・・」
忌まわしき力を持った、人ならざる一族。
その一族は、人であって人にあらず。
はるか遠い昔から、その強大な力をもって人々から恐れられていたという。
「その力は・・・私の中にも眠ってる。人でない、別の力が・・・」
「すずか・・・・・・」
「だから・・・私も、普通の人間とは違うの」
「っ・・・・・」
最初の頃は辛かった。
自分の中にそんな力があるのが、怖くて。自分だけがみんなと違って。いつか自分の存在が誰かを傷つけてしまうんじゃないか。
姉の忍が何度説明しようと、他の人間と違うということが、どうしようもなく怖かった。
自然と人との関わりを避けるようになり、あまり自分の意思を押し出すことができない、臆病な性格になっていった。
あの日なのはやアリサと会うまでは、そうだった。
二人がいてくれたから、すずかは変わることができた。
だから少しはフェイトの気持ちがわかるつもりだ。
「そんな・・・ことが・・・・」
「・・・フェイトちゃんはもっと、頼っていいと思う」
フェイトをすずかは、まっすぐに見据える。
二人は言わば同じ存在。人であって人ではない。
その過酷な運命を、その小さな体に受けている。
だからフェイトは、もっと頼るべきだ。一人で抱え込むのは、もうおしまい。
すずかも姉の忍も、全てを受け入れてくれる、めいっぱい頼ることのできる人ができたおかげで変われたから。
みんなにもっと、頼って欲しい。
「・・・ううん、人とか人じゃないとか関係ないよ。もっと私達を頼って欲しい。魔法のことじゃ役に立てなくても、話くらいは聞けるから」
「・・・・すず、か・・・」
「そんなに、抱え込まないで。なのはちゃんだけじゃない。私もアリサちゃんも居るから。クロノさんもリンディさんも、フェイトちゃんがまた笑ってくれるのを待ってるよ」
そしてすずかは、そっと立ち上がり、やさしくフェイトを抱きしめる。
「す・・・?」
「・・・私は、ここにいるよ。みんな、そばにいる。なのはちゃんもきっと戻ってくる。フェイトちゃんのそばにきっと。みんなフェイトちゃんが必要で、いっしょにいたいと思ってるんだよ」
すずかの感触は、すごく柔らかくて。
まるで日の光を浴びているように暖かかった。
「フェイトちゃんだから」
気がつけば、視界が涙でぼやけていた。
すずかの顔も、ろくにみえないほどに。
少しずつ、心が溶け出していく。
けれどこれは先程までの後悔の涙じゃない。
「みんな、フェイトちゃんっていう存在が大好きだから」
その身が人外のモノであろうと、構わない。ただ、「フェイト」という存在だから皆、フェイトのことを好きになってくれた。
だから、そばにいたいと、失いたくないと思ってくれた。
すずかのその言葉が、心の中のいろんなものを溶かしていって。そうやって溶けていった氷から生まれた、すごく暖かな涙。
うれし涙の一言で片付けられるものとは、ちょっとちがう。
「なのは・・・は・・・ッ許し・・、て・・・・くれ、る・・・かな・・・?」
事件の原因となった、私のことを。
嗚咽をこらえながら、とぎれとぎれに言うのが精一杯だった。
「・・・・そんなの、フェイトちゃんが一番よく知ってるはずだよ?」
「・・・ッ・・・ん・・・うん・・・」
「なのはちゃんはきっと・・・フェイトちゃんを待ってるよ」
「・・・ッ・・・うん・・・うん・・・!!」
もう、止まらなかった。
人の体にすがって声をあげて泣くなんて、いつ以来だろう。
フェイトを抱くすずかも、少し泣いていた。
「・・・たし・・私・・・ここに居たい・・・みんなといっしょに居たい・・・・!!なのはを・・・助けたい・・・!!!」
フェイトを信じて待つ友がいる。
フェイトのために泣いてくれる友がいる。
そして、フェイトが泣くのを、抱きしめてくれる友がいる。
全てを洗い流すまで。剥き出しの心で、フェイトは赤子のように泣き続けた。