「このぉぉぉっ!!雑魚が邪魔すんじゃないよ!!」
気合の雄叫びと共に、アルフは本来の狼の姿となって異形の群れへと突っ込んでいく。
───ああ。まただ。
牙を剥く紅いその姿に、リニスは。
クロノの放つ攻撃を寸でのところでかわしつつも、不思議な既視感を改めて認識していた。
知らない。知るはずが無いのに、懐かしい。そしてそれは、けっして嫌な感覚ではなく。
───むしろ、心地良い。
「余所見・・・・するなぁっ!!!」
「っ・・・」
───クロノ・ハラオウン。時空管理局執務官にして、AAA+ランクに分類される優秀な魔導士。
(そして・・・・フェイトの義兄・・・・!!)
彼女自身、気付いているだろうか。
目の前の少年が、フェイトの兄である。彼女を護る存在である。
戦闘を行ううえでどうでもいいはずのその事実に、自分が微かに口元を歪め、微笑んでいたということを。
まるでそれが喜ばしいことであるかのように、無意識のうちに笑っていた。
「フェイト!!」
「大丈夫・・・・このくらい、大したことないから・・・・」
そう言いながらも、目の前に降り立ったフェイトはなのはを抱え込んだまま苦しげに膝をつく。
───しかし、よく成功したものだと思う。
フェイトを気遣いながら、ユーノはある意味呆れていた。
彼女が勝利するには、三つの厳しい絶対条件をクリアしなければならなかったからだ。
一つはまず、ブレイカーが非殺傷設定、魔力ダメージと衝撃による昏倒を目指したものであるということ。
二番目に、魔力を根こそぎ削りきられない程度にまでその威力を相殺すること。
そして最後に、ブレイカーによって意識を失わぬよう耐え切ること。
最初の一つは状況からして、元よりその可能性は高かった。
だが残りの二つは完全に賭け。フェイト自身の魔力と意思、そしてブレイカーの威力次第でどう転んでもおかしくはなかったのである。
そして彼女は今、賭けに勝った。傷だらけになりながらも、そのすべてをやってのけ、友を取り戻したのだった。
「なのはは?」
「うん・・・手ごたえはあったよ。術式は、ちゃんと破壊できたはず」
なのは、なのは。一応、衝撃を与えないよう気をつけながら、フェイトは眠るなのはの名を呼ぶ。
数回呼んだところでなのはの眉が微かに動き、ゆっくりと目蓋を開けていく。
「フェイト・・・ちゃん?」
「なのは・・・」
「?・・・・・・・そっか・・・・私、フェイトちゃんと戦ったんだね・・・」
互いの状態を見やって、なのはは状況を理解する。
ブレイカーを受けたフェイトほどではないがなのはのバリアジャケットもまた、所々破損していた。
「・・・ありがとう、フェイトちゃん・・・ユーノくんも、心配かけちゃって・・・ごめんなさい」
「いいんだよ。こうして、なのはもフェイトも無事なんだし」
そしてなのはは、フェイトの身体から起き上がろうとする。
だが両腕にはまだうまく力が入らず、足も言うことをきかない。
「ん、・・・く」
「なのは?まだ、支配呪文から開放されたばかりだよ。無理は・・・」
「行くん・・・でしょ?」
「え?」
「プレシアさんの所に・・・。行って。私も後から追いつくから」
「なのは・・・。だけど・・・」
こんな状態のなのはを、置いていくわけには。
「・・・僕が、連れて行く。フェイトは先に行ってくれ」
「ユーノ」
そう言うとユーノはフェイトの肩に手を置き、呪文を唱える。
暖かな力が。フェイトの体内へと流れ込んでくる。
「・・・少しだけど、魔力を送ったから。これで幾分かは楽に動けるはず。行くんだ、フェイト・・・ん?」
顔をあげたユーノの動きが、固まった。
「?」
「・・・・私も・・・」
なのはからも、抱えた腕を通して魔力が送り込まれてくる。
「なのは・・・ユーノ・・・・ありがとう」
「そ、それと、フェイト・・・・これ」
「え?」
赤い顔をしながらユーノが、自身のマントを外して差し出していた。
「・・・?」
「いや、なんてゆーか、見てはないよ?ね?ちょっと目に入ったってだけで。気付いたのも今だからー・・」
なぜかユーノは目をつぶり、こちらを見ていない。口調も先程までのような落ち着きがない。
明らかに慌てている。
「・・・ごめん、どういうこと?」
「ユーノくん、落ち着いて」
「いや、だから・・・そ、その、ほら、・・・・・・」
つんつん。
ユーノは自分の胸元とフェイトを、交互に指差す。
どうやらフェイトに胸元を見てみろ、と言いたいらしい。
「?・・・・・・!!!」
途端、フェイトの顔が真っ赤に染まる。破れた防護服の胸元から、まだ未発達の小さな丘が片方、露わになっていた。
ユーノのマントをひったくるようにして受け取ると、そのまま慌てて羽織る。前はしっかり、両手で押さえて。
「・・・ごめん」
「っ・・ううん、その、あの、えっと・・・ありがとう」
「???」
「・・・・・」
「・・・・・」
赤くなるフェイト達に対しまだ若干意識が朦朧としているなのはだけは、何故二人がそうなっているかが飲み込めず不思議そうに二人を見ていた。
一瞬、三人(約一名、よくわかっていないが)の間に微妙な空気が流れた、直後。
「「「!!!」」」
壁をぶち抜き、轟音と共に巨大な傀儡兵の群れが現れた。
反応の遅れる三人へとめがけ、その鋼の腕が振り下ろされる。