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[358]640 2005/11/02(水) 22:43:52 ID:r5/tO8fV
[359]640 2005/11/02(水) 22:44:39 ID:r5/tO8fV
[360]640 2005/11/02(水) 22:46:29 ID:r5/tO8fV


She & Me  第三十二話 Inside on mind

「ぐっ・・・!!」
壁へとしたたかに身体を打ちつけ、クロノは息をつまらせた。
痛む身体を起こしながら、対峙する敵を睨みつける。

「入ってくるなり、襲い掛かってくるとはね。あの女も息子の躾がなってないようね」

黒衣の魔女が、溜め息交じりにつぶやく。
彼女にとってクロノはもはや、敵として戦うにすら値しない。
連戦で消耗した魔導士など、彼女にとっては虫けらも同然。
「お前がここにいるというのに・・・不思議ね?リニスの反応が消えていないのはどういうことかしら?」

目の前の小賢しい餓鬼のことだ、無策ではくるまい。
そう予測したプレシアはリニスとなのはを相手の戦闘力を削るためのいわば捨て駒として配置した。
リニスは可能な限り相手の戦力を削って、消えてもらう予定であったのだが。

「・・・決まって、いる・・・!!あの使い魔になにかあったら、妹が悲しむ・・・!!」
『stinger snip』
「あなたもだ・・・!!あなたを止める・・・そして無事にフェイトのところに連れて行く!!」
言うが早いか、再びプレシアへ向かってスティンガースナイプを放つクロノ。
だがその必死の攻撃は、プレシアにかすり傷ひとつ負わすことなくシールドにはじかれる。
(フェイトを実の親と戦わせるわけにはいかない・・・!!フェイト達が来る前に・・・!!)
兄として。時空管理局執務官として。彼女はこの手で止めなければならない。

「無駄よ」
「このおぉっ!!!」
可能とか、不可能じゃない。やらなければならないのだ。
気合もろとも、ブレイズキャノンをフルパワーでぶっぱなす。

───主を。プレシアを、お願いします。

それは、赤毛の使い魔に抱かれ苦しげにそう言った彼女との約束でもあった。









終わってみれば、その結末は急にやってきた、あっけないもの。

アルフのバリアブレイク───ありったけの魔力の篭ったその拳を前に───彼女は、その身を護っていたシールドを、突如として解除した。

バリアを破壊するために強化された拳。そんなものを生身で受ければどうなるかは、わかっているはずなのに。
彼女はその肉体でアルフの一撃を受けることを選んだ。

「一体、どういうつもりだ・・・・?」

泣きそうな顔のアルフが抱え起こしたリニスへと、クロノは率直に疑問をぶつける。
むしろそれは疑問というよりも、困惑。そのほうが表現としては近いかもしれない。

「・・・・・」
「どうして、シールドを解いたんだ」
「・・・リニス・・・」
「・・・どうし、て、でしょう、ね・・・」
「・・・・リニス、君はまさか・・・」

薄々、勘付いてはいた。
リニスの動きがおかしい、クロノがそのことに気付いたのは、今までの彼女であればたやすくかわせていたであろう攻撃が命中したときだった。
一瞬反応が遅れ。
けっして精度が高いとは言えないアルフのフォトンランサーを彼女はよけきれなかった。
フェイトと違いアルフのそれは数をばらまくだけの、牽制程度の物。
クロノの攻撃さえ紙一重で避けていた実力者のリニスがそんな攻撃を食らうとは、到底思えなかった。

「・・・あの、フォトンランサーか?」
「・・・ずっと、不思議に思っていました。時折感じる奇妙な感覚が、何なのか」

クロノへと答える代わりに、リニスは語る。

それが、何なのかわからないけれど。
フェイトやアルフと接触して以来感じるようになったその感覚は、やすらぎを覚えるものだった、と。

懐かしく、また暖かい。それでいてどこか悲しさの混じりあった、かつての記憶。
何故自分には存在しないはずの記憶がこうまで心地よいのか。戦いの中リニスは戸惑い、その思いは次第に大きくなっていく。
気付かぬふりをしていても、アルフやフェイトの傷ついていく様子に心を痛めている自分がいるのも事実だった。

「・・・まだ、それが何であるかはわかっていません。ただ・・・・」

アルフの放った光の槍。
そこに込められた魔力を感じ、戸惑い。かわせなかったそれを受けた時、リニスの中の迷いは確信に変わった。

自分はこの子達と、戦ってはならない。
例え、自分にそうであった記憶がなくても。
目の前の使い魔と、その主が自分にとって戦うべきではない、どうしようもなく愛おしい存在であるという確信に。

頭でも、心でもなく、存在、「リニス」としてそう理解したとき、リニスは自らを護るバリアを解いていた。

「・・きっと、プレシアに・・・とっても、それは同じこと・・・でしょ、う・・」
「リニス・・・違う、それは、あの女は!!」
「アルフ」
それ以上は、言うな。首を横に振って見せるクロノ。
リニスのことを思うなら、今プレシアとフェイトの本当の関係を言うべきではない。
彼女の、主を思う気持ちを尊重するならば。
クロノの目がそう言っていた。
「っ・・・」
「クロノ・ハラオウン」
「何だ?」
「・・・・貴方に一つ、頼みがあります」






───幸い、アルフの一撃は急所からは外れていた。
リニスのことを彼女の元に残るというアルフに任せ、クロノは今こうしてプレシアと対峙している。

約束を、果たすために。
妹も、妹の大切な人も、どちらの悲しむ顔も、見たくないから。

この身に代えても、彼女を止めてみせる。
そしてクロノは再び、その両足で立ち上がった。


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