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[641]640 2005/12/07(水) 18:41:56 ID:1FeBfXu6
[642]640 2005/12/07(水) 18:45:10 ID:1FeBfXu6
[643]640 2005/12/07(水) 18:46:49 ID:1FeBfXu6

二人組が二組、出来事の中心部へと急いでいた。

「リニス、いけるかい・・・?」
「ええ・・・、急ぎましょう・・・・」
一方は、下から。

「ユーノくん・・」
「大丈夫、間に合わせる。しっかりつかまってて」
そして、もう一方は上から。

それぞれの友、それぞれの主への想いを胸に、傷ついた身体に喝を入れ。
大切な者たちの下へその歩を進めていた。




She & Me  第三十七話 Take a shot・前編





「・・・もうやめて、お母さん。私はこんなこと、望んでない」
フェイトと同じ顔をした少女は、フェイトと同じ声で。
クロノを助け起こし、フェイトと同じ母親へと言葉を向ける。
「私はただ、お母さんのその気持ちだけで十分だった」

(ごめんね、フェイト。私のわがまま、聞いてもらって)
────ううん。アリシアの、したい通りにやって────


(ありがとう)

蒼い目の少女は応えてくれた心の中のもう一人の自分に礼を言う。
本当ならもういないはずの自分にこうして母と語る機会と身体を提供してくれた、紅い目の少女に。

「君、は・・・・?フェイト、なのか、アリシア、なのか・・・?」

(───ああ、そうだった)
フェイトの兄であるこの人にも、感謝しなければなるまい。
この人がいなかったら。いや、彼女を取り巻く様々な人達がいなかったなら。
きっとフェイトは、潰れてしまっていた。
どれほど感謝しても、し足りない。

彼女にとってフェイトは、もう一人の自分であると同時に、愛おしい妹のような存在でもあったから。

「・・・いえ。私はアリシア。アリシア・・・テスタロッサ」
「!!・・・そう、か・・・。じゃあ、やっぱりフェイトは・・・・」
「います」
クロノが表情を曇らせるとすぐに、アリシアはその考えを否定する。
「え・・・」
「まだ、ここにいます。私は今、あの子の身体を借りているだけだから」

驚き見返したクロノの目に映るのは、少女のブルーの瞳。
それは、色こそ彼の妹とは正反対であったけれど、そこに灯る純粋な光は、彼の良く知る紅き瞳の輝きと同じものだった。

「信じて、下さい」
「・・・・・・」

誰が。
誰が妹を、妹と同じ少女を信じられないものか。そんなの、兄貴失格だ。
考えるまでもない。

「・・当たり前、だ・・・僕はフェイトの、兄だぞ・・・」
「・・・・ありがとう・・・ございます」

「アリシアッ!!!」
「っ・・・」
「どういうことかしら。あの失敗作が、まだいるですって・・・・?」
「・・・言ったとおりの意味よ、お母さん。いや」

激昂しそうになっているプレシアを見返し、少女は立ち上がる。

「お母さんの姿を借りただけの、名もなきロストロギア」
「!?」
さも当然のように言ってのける金髪の少女。
その言葉はクロノに更なる驚きを与え、そしてプレシアをうろたえさせるには十分な衝撃を持っていた。

「な・・・何を言っているの、アリシア・・・・?私は・・・」
「・・・・どういう、ことなんだ・・・?」
「何度でも言うわ。あなたはお母さんの意識を利用しているだけ。虚数空間に破棄された、ただのロストロギアよ」

そう、まるで今の私と同じ。誰かの意識を乗っ取っているにすぎない。
───そんなこと、ないよ。アリシア。アリシアは───
(ありがと、フェイト)
心の声は、優しい声。もう一人の自分の言葉が、ほんとうにありがたかった。





自分に意識があることに気付いたのは、何時ごろからだろう。
何も言えず、何もできない。ただ、みているだけしかできなかったけれど。
それ以来彼女はある一時期を除き常にフェイトと共にあり、フェイトと共に歩んできた。
だから、フェイトに起こった出来事、そのほぼ全てを知っている。

(確かあれは、フェイトがはじめて「母さん」って呼んだ日)

意識を取り戻した当初、まだ「フェイト」というもう一人の自分はいなかった。よってアリシアが居るべき場所もなく。
変わった色の液体の中に眠るように収められている自分の身体を、近くて果てしない距離から見つめていた。

(私や、私の身体を見るお母さんの目は、いつも真っ赤に充血してて)
ただひとつの目的のための必死さを、明らかにしていた。
(母さんが私を蘇らせようとしてくれているってことは、すぐにわかった)

そして自分は確かにアリシアであっても、アリシアそのものではない。
アリシア復活のために残された、生前のアリシアの記憶。そしてそこに図らずも残っていた意識であるということも。
さほどの時を要することなく、彼女は理解していた。

母に触れることもできない、笑いかけることもできない。そんなものが母にとってアリシアであるわけがなかった。

(だから嬉しかった。フェイトが眠りから目覚めて、お母さんのことを呼んだときは)

自分のために身を削り、心を擦り減らしていた日々から、やっと母は解放される。
たとえ自分とは違う存在でも、この子が「アリシア」であることには変わりがないから。
やっと、母の苦労が報われる。フェイトの心の奥底に移されてなおアリシアとしての意識を保った彼女はそう思い、素直に喜んだのだった。
誰も、気付いてくれなくても。彼女はずっとそこにいた。

母と、もう一人の自分がいつまでも幸せであるように願い、見守っていた。それだけで幸せだった。

・・・しかし。

残念ながら彼女の願いに反し、その破局は早々に訪れたのであった─────。


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