・・・・本当に自分は、ついてきて良かったのだろうか。
そりゃあ、家でヒマを持て余しているよりは有意義だろうし、今日は講師として行っている道場も休みだ。
だから、今日の二人の誘いを受けたのだが。
(確かに二人の仲が良いのはいいことだが・・・・)
もう少しこの二人、恭也と忍──特に忍なのだが──は、連れのことや周囲に気を配ったほうがいいのではないだろうか。
人目も憚らずに、いちゃいちゃしすぎだ。見ているこっちが恥ずかしい。
周りから自分がこんな二人の連れと見られていると思うと正直情けなくなってくるほどだ。
・・・・と、若干温くなったコーヒーを飲み干しながらシグナムは自分をこの場に連れてきたバカップルに対して思っていた。
何度か道場で手合わせした青年と目の前で恋人といちゃつく青年が、同一人物とは思えない。
魔力もなしで自分と互角の勝負を演じて見せた男は一体、どこの地平線の彼方にいってしまったのやら。
今の彼相手なら軽く一本とれるのではないか?とすら思えてしまう。
(やれやれ・・・・ん?あの金髪は・・・)
魔法少女リリカルなのはA's after 〜買い物に行こう。〜
第二回 増援到着?
そんな、二人のあまりのラブラブっぷりに辟易しつつあった彼女であったから、意識は彼らよりも他の方に向いていた。
一瞬、よく知っている髪形の人物が通ったような気がしたのである。
コーヒーをすすりつつ横目で追ってみるが、その姿は既に見失っていた。
(・・・気のせい、か?テスタロッサがいたような・・・)
まぁ、休日だしそういうこともあるだろう。丁度買い物客の一番多い時間帯なのだし。
あの一家は皆忙しいし、彼女が一人でここまで買い物にくるとは思えない。
たまの休みに家族揃って買い物でもしにきたのであろう、姿を見るというのも十分にあり得る話だ。
シグナムはそう納得し、二人のほうへと向き直ろうとした。したのだが・・・・。
「ぶほっっ!!??」
次の瞬間、コーヒーを吹いた。砂糖とミルクがたっぷりの、茶色の液体をそれはもう盛大に。シグナムは意外に甘党でした。
まあ、それはどうでもいいとして。
(今のは、まさか・・・・)
なんだろう。
なんか今、すごく間近で感じたことのある魔力の波動がおもいっきり魔法を発動させながら通り過ぎていったんですが。
具体的に言えば高町なのはとか高町なのはとか高町なのはとかの。
「うわ、大丈夫かシグナム」
「あ、ああ・・・なんでもない・・。ちょっと器官に入っただけだ・・・」
流石にいちゃつくのを止めシグナムを気遣ってくる二人を手を上げて制し、飛んだコーヒーをおしぼりで拭き取る。
服に付いていないのが幸いだった。付着していたらまたシャマルにまた汚したと数時間に渡ってこっぴどく叱られるところだった。
あれは本当に情けなくて首を吊りたくなってくるから勘弁してほしい。というか今自分がコーヒー吹いたのは君の妹のせいですよ恭也君。
・・・にしてもこんな街中で魔法を使うなんて一体何をやっているのだ、あの子は。
(・・・・やれやれ、世話のやける)
「済まない、ちょっとトイレに」
「ああ」
「はーい」
一応釘を刺しておかねばと立ち上がるシグナム。この空気にいささかげんなりしていたし、丁度いい。
・・・そう、このときはまだ彼女は、魔力を感じる先に居るのは「なのは一人」だけだと思っていた。
思ってはいたのだが。
・・・・・・が。事態は騎士の予想の斜め上を行っていて。
「・・・何をやっているんですか、主はやて・・・と一同」
「え?あ!?ええ、シグナムさん!?魔法使ってるのに、なんで!?」
背後からかけられた声に、一同大いに慌てている。
特に認識阻害を行っていた本人のなのはは、半ばパニックだ。
一方のシグナムのほうもはやての姿を改めて確認し、顔をひきつらせながら額を押さえている。
うちの主は一体、何をやっているのだ。まさにそう言いたげに。
「・・・落ち着け、高町。私は長年の戦闘経験で不意討ちに慣れすぎてしまっていてな、この手の魔法は肌でわかってしまうんだ」
そのせいでヴィータやシャマルからは奇人変人扱いされるのだけれど。
守護騎士として戦ってきた時間は変わらないのだからできない彼女達の鍛錬が足りないのだと思うのだが、
その意見を言っても真面目に聞いてもらった試しはない。ちなみにザフィーラも同じことはできるが、そこはまぁ犬だし。
「は、はぁ・・・・なるほど」
「して?主はやてと一同はこんなところで何をやっているのです、こそこそと」
こめかみを震わせながら尋ねるシグナム。落ち着け自分、平常心、平常心。
街中のこんな人通りの多い中で魔法を使うのに自分の主が加担していたとはいえ、ここは冷静に。
「ああ、それはなー・・・」
ちら、とはやてが視線を送った先を見ると、やはり先ほど見た気がしていた少女の姿があった。
「ああ、やっぱり来ていたのか・・・・ん?隣に居るのは・・・」
あの栗毛は、ユーノ・スクライアじゃないか。この二人の組み合わせとは珍しい。どうやら家族で来ていたわけではなかったようだ。
何やら一緒にアクセサリー等を物色してまわっている。
「・・・・なるほど、そういうことですか」
大体、状況は掴めた。非常に遺憾なことに。掴みたくはなかったさ、そりゃあ。
「尾行とは、あまり感心しませんが」
「「う」」
言葉に詰まるアリサとはやてとは対照的に。
後ろの二人は心底ほっとしたような表情を浮かべている。
どうもうちの主達が無理矢理ひっぱってきたようだ。
(・・・・魔法まで使わせてしまって、申し訳ない)
心の中でシグナムは、心底二人に詫びていた。
「・・・わかった、もう尾行はせえへん」
「わかって頂けて、何よりです」
「離れたところから、見守るだけや」
「・・・・・ は い ?」
今、なんとおっしゃいましたか?それはあまり変ってませんよ?むしろそれって言い換えただけでは。
「やから、なんかあっても手はださへん。見てるだけや」
「いや、そういう問題では・・・」
ないでしょう。そう続けようとした。続けたかったのだが。続けさせて下さい我が主。
「あ、なんやったらシグナムも一緒におったらええ。気配絶てるいうとったよな?」
「え、ええまあ・・・じゃなくて、主」
しかし結局流されてしまうシグナムなわけで。そこのところを主はよくわかっている。
「なら丁度ええな。近づきすぎるとうちらじゃ魔法そのものの魔力で気付かれてまうし。なのはちゃん、もう一人くらいいけるやろ?うん、決まりや」
「え、ああ、うん、いけるけど・・・」
(近づきすぎると、ってことは手を出す気まんまんなのでは・・・・?)
「いやあの・・・」
「ほな、追いかけるで」
というわけでいつのまにかシグナムも一行に加えられていたのだった。
「・・・あれ?」
「はよしーやー」
「・・・あれ?」
「・・・・・シグナムさんの役立たず」
「・・・・すまん」
それでいいのかベルカの将。なのはとすずかの視線が、痛かった。
───背後でそんなことが起きているとも知らず、肝心のフェイト達のほうはというと。
「と、予算とか考えると・・・こんなのどう?」
「うーん・・・」
ユーノが手に取ったものはフェイト個人の好みでいえば全然それで構わないものであったし、
値段も十分彼女のお小遣いでも手の届くものであったのだけれど。
なんだか、違うような気がした。「彼」が身に着けるものとして考えると、違うような気が。
「これも、なんだか・・・」
「そっか・・・」
「ごめんね、ユーノ。付き合ってもらってるのに」
「いや、いいよ。よりいいものを選びたいって気持ちはわかるし」
そんなやりとりを先ほどから繰り返しつつ。売り場を二人は転々としていた。
「もうちょっと見て回ろうか。もっといいものがあるかもしれないし」
「・・・うん」
「?どうかした?疲れたならどこかで・・・」
「あ、いや。そういうわけじゃないよ。大丈夫だから」
「・・・ほんとに?」
「うん、ちょっと。なかなかみつからないんだなって思っただけ」
───本当は、それだけじゃないけれど。フェイトはほんの少し、嘘をついた。
「ならいいけど。フェイトだって忙しかったんでしょ?疲れてたら言わないとだめだよ」
「うん、ありがとう」
そして、ごめんね。自分はひょっとしてユーノに、凄く酷いことをしているのかもしれない。もっと、はやく気付くべきだった。
そう思うと心配してくれるユーノの言葉に、心が少し苦しくなる。
きっと、これは後悔と、自責の念。
「フェイト?・・・ほんとに、大丈夫?」
「あ・・・・ご、ごめん。本当に大丈夫だから」
再び、思案の中に埋もれそうになっていたフェイトの思考を、ユーノがもう一度引き上げてくれた。
以前より背の伸びた彼は、少し身をかがめるようにしてフェイトの顔を覗き込み、ただ純粋に彼女のことを考えてくれていた。
だからこそ心の痛みはより一層強くなっていく。
「ほら、次にいってみよう?・・・・ね?」
「?・・・・そうだね・・・」
ユーノ一人を置いていって、ごめんなさい。私だけが変ってしまって、ごめんなさい。
手前勝手な自己満足の懺悔だということはわかっていても、フェイトは再びユーノに心中で謝らずには、おれなかった。