「・・・なんかちょっと、いい感じじゃない」
「うん、ほんと・・・」
見守る少女達に気付かずデパートの売り場を見て回る少年と少女は、傍から見る限り凄く「しっくりくる」感じがして。
小さな、お似合いのカップルに見える。
「なのはちゃん・・・ええんか?」
「え?何が?すごく二人とも楽しんでるみたいだけど」
思わずはやてがなのはを心配して、彼女の朴念仁っぷりを改めて認識させられ。
「「「「・・・・・」」」」
「な、何?何かわたしおかしいこと言った?」
呆れながら溜め息をつく他の四人にも、なのはは相変わらずの反応を返すばかりだった。
((((鈍い・・・・))))
そうだ、そうなんだ。この子はこういう子なんだ────・・・・。
なのは以外のメンバーは、それぞれに自分をそう納得させる。
「ま、まあなのはちゃんらしいというか」
「やれやれ・・・」
「全く・・・・ん?ねえ、あれって・・・・」
そして彼の姿に最初に気付いたのは、アリサだった。
「?」
「「あ」」
誰か知り合いでもいたのかと頭に?マークを浮かべるなのはとは対照的に、はやてとすずかはすぐにアリサの見つけた人物を発見する。
シグナムに到ってはアリサの言葉の意味すらわかっていない。
彼女達の見守る先で。
腕時計のコーナーに入ろうとしていたフェイトとユーノの元に、ある人物が近づいていた。
魔法少女リリカルなのはA’s after 〜買い物に行こう。〜
第三回 邪神降臨
「おーい、フェイト」
「?」
この声は。
何度も学校で聞いた少年の声だ。
キョロキョロと辺りを見回してフェイトは、一人の少年が小さく手を振っているのに気付く。
「あ・・・・?」
「めずらしいね、こんなとこで会うなんてさ」
「う、うん・・・・そうだね」
二人のやりとりを見る限りでは知り合いらしいのだが。一体だれなのだろう、この少年は。
フェイトに対して親しげに接する見知らぬ少年の様子に、ユーノは事態の飲み込めない様子で彼とフェイトの顔を見比べている。
(・・・フェイト?その子は?)
(あ・・・。そっか、ユーノは会ったことないよね)
少年と会話をはじめたフェイトに念話を送ると、フェイトもユーノの戸惑いに気付いて説明する。
(えっと・・・クラスメート。消しゴムとか、忘れ物してきたときによく貸したりしてる。多分クラスの男子では一番仲良くしてる・・・かな?)
(なるほど)
道理でユーノが知らないはずである。いくら友人とはいえ、学校の知り合いのことまでは流石にわかるはずもない。
・・・・だけど。
「今日は買い物?」
「うん。ちょっと、お祝いを買いに」
こうしてフェイトが見知らぬ人間と親しげに会話を交わしているのをみると。
(・・・・なんか、面白くない)
「お祝いね・・・ふうん。で」
「?」
少年の視線がフェイトから隣のユーノへと移される。おそらく先ほどから気になってはいたのだろう。
「・・・・そいつ、誰?」
「う・・・えと、その。彼はユーノって言って・・・」
なんと説明したものか。どこまで言えばいいやら、フェイトは焦る。
二人で出かけるということはこういう風に見知った人間と会う可能性は十分あったのだから、対応くらい考えておくべきだった。
「ひょっとして───・・・フェイトの彼氏?」
「「・・・へっ!?」」
想定外の事態にうろたえ、答えに窮するフェイトに少年の放った一言。
それはきっかり2秒間、見事に気の抜けるような返事を返したユーノと彼女の時間をストップさせたのだった。
『───がうよ!!ユ、ユ、ユーノとは別にそんなのじゃ・・・!!!!』
一方の、時空管理局所属艦・アースラでは。
通信室のモニター一杯に映し出されるフェイトの慌てる様子を見つつにやつく一人の女性の姿があった。
「んー、実に初々しくてよろしい」
お茶をすすりカメラアングルを切り替え、尚もフェイトの混乱っぷりを楽しむのは、エイミィ・リミエッタその人。
妹のような存在である少女の初デート、そんな面白そうなものを彼女が放っておくはずがない。
しっかり艦内のシフト表までいじって今日この日の素敵なイベントを見逃さないようスケジュールを合わせてきている。
情報源はちなみにリンディ提督とはやての二人(クロノには内緒)。
また。
「映像の感度も良好。この前の定期メンテナンスでバルディッシュにサーチャーの中継装置搭載しといて正解だったねー」
本来は単独行動時の安全やデータ収集力を強化するための装備を悪用・・・もとい活用することも忘れない辺り、流石である。
「ふーむ・・・この子きっと、フェイトちゃんに気があるわねー。んふふ、ユーノ君の登場に気が気でない感じ?」
一枚一枚袋詰めされた煎餅のビニールを破りながら、モニター上のやりとりを勝手に分析するエイミィ。
「いやいや、ユーノくんも面白くなさそうな顔してるわー。なのはちゃん一筋だと思ってたけど、これはひょっとして・・・」
『エイミィさん、撮れてますー?』
「うんオッケーオッケー。はやてちゃんのサブカメラもいい感じで映ってるよー」
『ダビングよろしく頼みますなー』
「まかせとけいー」
誰も見ていないのにサムズアップをはやての声の聞こえてくる通信機へと返すエイミィのはしゃぎっぷりとノリは凄まじい。
彼女は現地組のはやてにまで盗撮・・・いやいや、記録を頼んでいた。
おそらくクロノが見た日には呆れかえることだろう。
・・・・・そして、お約束で。
いつの間にかクロノは、部屋に入ってきていて。
しっかりそんな彼女の姿を見ていた。
「・・・何をやってるんだ、エイミィ」
「えっ!!??」
「報告書のことで聞きたいことがあったんだが・・・・何してる?」
「あ、う、え、えと、その、これはだね?クロノ君えっとつまり」
「ああ、言っておくが何回も呼び出しはしたんだからな。その上でロックをしてなかったから入った」
───まずい。
このシスコンにこの映像を見せるのは非常にまずい。一体何が起こるかわからない。
とりあえず録画だけは続けることにしてもひとまず画面を消さなくては。
「?同時中継?これは海鳴市のデパートか?」
「そそそそう!!新しい冬物の服とか気になってさー」
クロノのほうを向いたまま、モニターをOFFにすべく左手をこっそり後ろに伸ばすエイミィ。
(も、もーちょい・・・・ここ・・・あった!!)
使い慣れた通信室。どこに何のスイッチがあるかは身体で覚えている。
左の端のキーを押せば、とりあえず映像は中断できるはず。
(・・・ん?左?)
「あーーーーー!!!しまったーーーー!!?」
「?」
押した後で気付いた。普段左の端にあるということは。
つまり自分の後ろにキーボードの位置する今、目的のそのキーがあるのは。
・・・・・・・・・・・・右端である。
(しま・・・・)
時既に、遅し。よりによって彼女の押したそのキーは、カメラアングルを変えると共に自動拡大をするためのもの。
それは普段であれば探査任務等にとても便利でありがたい機能なのだけれど。
(今はまずいってーーー!!!)
「・・・・!?」
(嘘でしょーーーーー!?)
クロノの身体を硬直させたものを確認すべく振り向いたエイミィの顔から、さっと血の気が引く。
(やば・・・・)
彼女の見た映像、切り替わったアングルが映し出したのは、大変まずいことに。
少年の軽口に紅くなって横目でお互いをみやる、ユーノとフェイトの2ショットというものだった。しかもどアップ。
当然入ってきたばかりのクロノにそんな細かい状況はわからない。
仲よさそうに寄り添って頬を染めあう二人、という構図にしかみえないはずだ。
背後からプチン、と何かが切れるような音が聞こえたような気がしたのは、エイミィの空耳だろうか。
今度は確かめようにも恐くて後ろを振り向くことができない。
「・・・エイミィ?」
「は、ははははいぃ?」
「これはどういうことだ?詳しく聞かせてもらいたいんだが?」
「え、えーとそれはですね・・・」
「簡潔に、明瞭に。なんでフェイトとあのフェレットもどきがふたりっきりでいちゃついているのか説明してもらおう」
・・・・・声に、感情というものがなかった。代わりに殺気が満ちている。シスコン恐るべし。
(恐い恐いよクロノ君恐いよ)
「も・・・黙秘権は?」
「ない」
(やっぱり・・・・)
聞くだけ、無駄であった。
「あの淫獣・・・なのはだけでは飽き足らず、うちのフェイトまで・・・。駆除しておく必要があるな」
「あわわわわ・・・・・」
「とりあえず、隠すとためにならないよ?エイミィ」
全く笑っていない声で更にそう告げるクロノの手には既にデュランダルが握られていて。
(ごめんね二人ともー!!)
エイミィは自分の身の安全のために、あっさり二人を売り渡したのだった。