次から次へと光球が巨体を捕らえ体中に光の花を咲かせる。
輝く翼には輝く鎖が撒きつき、果たすべき役目を完全に放棄させる。
『Photon bullet full auto』
そして攻撃を受けるつもりはないと言わんばかりにヒュードラが不気味に輝く魔力球を僕へ、なのはへ目掛け次々に猛射していく。
「そんなのでっ!」
両手から放たれる障壁がいくつもの魔力の塊を弾き飛ばす。すかさずなのはが後ろからディバインシューターで応戦する。
巨体へ光が炸裂し爆発していくのにも関わらずヒュードラは攻撃の手を休めはしない。腕を前へと突き出すと同時に手のひらから無数の触手が放たれた。
『Flash move』
なのはは迫り来る脅威を次々にかわすと同時に砲撃で反撃を試みる。僕は僕は拘束魔法で持って 触手を束に縛り上げ無力化していった。
まずは腕から飛び出すあれをどうにかしないと攻撃のチャンスが生まれない。
「このぉ、シューート!」
薙ぎ払われる触手の影からまた新たな触手が飛び出しなのはを捕まえようとする。このままじゃ確実にやられてしまう。
短期決戦で決着をつけるしかないみたいだ。だとするならやはりあれを使うしかない。相手は大型だけどこちらのそれはそんなもの簡単に覆す力を持っている。
問題となるのは時間だけ。
障壁で触手を足止めしとにかく避けるためだけに飛ぶ。攻撃魔法がない分僕にとっては捕まったらそこでおしまいというのはなんともスリリングだ。
(なのは、何とかこっちに来れる?)
(ユーノくん? うん、何とか大丈夫)
僕の念話になのはが軌道を変えこっち目掛けて飛んでくる。触手もその動きに追従しなのはの後ろから猛スピードで飛んできた。
「ユーノくん、これじゃあ」
「なのははそのまま後ろへ、ここは食い止める!」
地上から空中へ僕も飛翔しなのはの元へ飛び上がる。
距離はすぐに縮まりなのはとすれ違う。横目にはなのはの顔、そして眼前にはなのはを捕らえようとする触手の雨。
「魔法障壁多重展開!!」
突き出した両手に魔法陣が生まれ残さずそれを受け止めた。
「なのはスターライトブレイカーを!」
「でもこれじゃあ時間が……」
大地に降り立つなのは。その言葉待たず僕はなのはの周りを障壁で囲い込む。
全方位型のプロテクション。これなら多少触手が取り付いたとしてもなのはの魔力を吸い取ることはできない。
推測が正しければこの触手はこちらとある程度接触しなければ魔力を吸収することはできないはず。あの時、とっさに障壁で防御してから時間を置いてヒュードラが僕から魔力を吸収しようとした。結局はなのはのおかげで失敗に終わったけど。
今は運も味方についている。もしもヒュードラが両腕でこの攻撃していたなら成す術はなっただろう。いや、最初からボロボロだったからこそここまで余裕が出来た。
「今のうちに!」
「う、うん! いくよ!」
『All right.Star light breaker stand by』
結界破壊能力を付加したスターライトブレイカーはおおよそ一分で魔力の充填が完了する。だけど今ならその半分の時間でいけるはず。さっきの爆発がこの空間に異常なまでの魔力を満たしていることが幸いした。
だけど相手の大きさから機能を停止させるにはもっと、もっともっと時間が必要だ。
「少しはおとなしく、しろっ!」
一か八か、襲い来る触手に鎖を撒きつかせ目一杯の力で持って引き上げる。ブチッ、と生々しい音と共に触手の破片が宙を舞った。
思ったより強度がない。これならいける――!
自分の身よりなのはの身を第一に。結界の中ではなのはが着々と魔力を集中させているのが見えた。
「こんのぉ!」
結界に取り付こうとする触手を鎖が次から次へと絡みとり引きちぎっていく。全く持ってきりがない。
「拘束全方位! 捕獲っ!」
これまでとは比べ物にならない大きさの魔法陣を足元から展開させ無数の鎖を打ち出す。
目には目を、数には数を。四方八方へ闇雲に放たれた鎖は螺旋を描きながら触手をその身でもってからめとっていく。
そして有無を言わさず――
「ハァッ!!」
――引き千切る!
命を絶った鎖はたちどころにガラクタの電気コードとなり地上へと吸い込まれていった。
背中を照らす輝きが大きくなる。ここからでもなのはに膨大な魔力が集まりつつあることを知らせてくれた。
「行けるよっ、ユーノくん!」
なのはの声が耳に響く。準備は整った。
「結界解除!」
「スターライトブレイカーフルパワー! ブレイク……シューーーート!!」
結界が解かれ閃光が産声を上げる。比にならない魔力、そして輝きがヒュードラのもとへ一直線に飛んでいく。
行く手をさえぎるものは何もない。あったとしてもなのはの光を受け止めるには至らない。
『Photon shield system drive』
ヒュードラが手を振り上げ掌から紫紺色の障壁が広がった。流石にあのでかさでそんなものを張られると面食らったしまう。
それでもスターライトブレイカーから突き進むという言葉を奪うことはできやしない。
桜色は障壁など最初からなかったかのように突き破る。次にはヒュードラの腕を跳ね飛ばしそのまま胸の中へ飛び込んだ。
大気が激しく震え地鳴りのような唸りが響き渡る。初めてヒュードラが雄たけびを上げた。
光は叫びに呼応するよう一層輝きを増しヒュードラを打ち倒そうとなおも奔流を浴びせ続ける。ぐらりと巨体が傾いた。
「……これなら」
少なくとも腕は封じた。仮にこれで耐えられたとしても余力はないはず。
相手は航行炉だ。表立って戦う存在でないからこそ強力な武器は持ち合わせていない。
『Dam……age c……on……control』
頭に響く声も段々と弱々しいものへ変わっていく。
『Act possible…………distortion……divide』
もう相手に戦う力はない。少なくともこの時点では僕もなのはもそう思っていた。いや、誰にとってもこの状況を見ればそう思っただろう。
だけど現実というものはいつだってうまくいかない。どんなにイメージ通りにいったって思いもよらないことから全部容易く壊れてしまう。
「嘘だろ……?」
一秒前まで直撃していた暴力的な光が巨体をなぞる様に両脇へ引き裂かれていた。何の前触れもなしに、唐突に、突然に、わけもわからずにだ。
どんな魔法を使ったのか? そんなこと考える暇もなくヒュードラは口を空けた。闇に包まれた口腔の奥、星のような赤い光がぽつんと生まれた。
体が動いた。頭は働かなかった。むしろ働く時間がなかった。
光が鳴動した。次に見た光はなのはの魔力光である眩い桜色。見たままに、ヒュードラは己の体で散らした砲撃魔法の残滓を取り込んでいた。
「なのはーーーっ!!」
膨らみ続ける光は唐突にその色を紫苑へと移り変わらせる。それがヒュードラの魔力光であり、なおかつなのはの魔力を完全に自らのものとした証。
光は弾ける。さっきの再現をするかのように紫に輝くスターライトブレカーみたいなものが撃ち放たれた。
射線上にはもちろんなのはがいた。最悪だ。あんな魔法を撃った後、なのはに魔法を使うような魔力はない。その証拠になのはの顔が驚きと恐怖で引きつっている。初めて見る顔だった。
あんなものが当たれば最後、なのはは無事じゃいられない。そんな結果考えるまえに頭が拒否した。
「はぁぁっ!!」
さっきの魔法は使えない。こんな短時間で術を組み上げるのは不可能。それに仮にできてもレイジングハートの援護なしに使いこなすことはできない。
僕がやれること。一番得意とするこの魔法でこの化け物をとめるほかなかった。
「かの者より我を守れ! 障壁展開!」
右手に全ての魔力、神経を集中させ、小さいながらも最大の強度を魔法陣に与える。
ドン! と表現しようのない衝撃が右腕を貫いた。
「がっ!? あ、ぐぅぅ!!」
悲鳴を上げる右腕は左手で持って押さえ込む。それでも激しく腕はぶれどうにもならない。
だけどここでやられればなのはがやられる。
それだけは、絶対に、させない!
「こ、のぉぉっ!!」
右腕が吹き飛んだって構わない。だからなのはだけは守らせてください。
誰への願いか、魔力が削り取られていく中で僕はただなのはのことだけを考え続けていた。
心が折れないように。大切な人を守るために。