「それじゃあ、フェイトの合格を祝って」
「「「「「かんぱーーい!!!」」」」」
アリサ・バニングスの豪邸で盛大なパーティーが開かれた。
バニングス家専属のシェフが作ったさまざまな料理がバイキング形式に広いホールに並べられている。
出席しているメンバーは主席のフェイトはもちろん、なのは、アリサ、すずか、はやての4人。
それに加えてアルフ、ヴォルケンリッターも参加してかなりの人数となっていた。
「うぉーケーキでけー!!なぁなぁはやて、これ食っていい?」
「ええでええで。今日は無礼講や。好きなもの食べ?」
「よっしゃーー!!!食うぞー!」
ヴィータがフォークを天高くつきあげ、自分の目的の料理の場所へと駆け出した。
「まったくヴィータのやつ…。まだ騎士としての自覚が…」
「まぁまぁ、ってはやっ!もう!!シグナムだって十分はしゃいでるじゃない…」
愚痴を言いながらもシグナムの皿には山盛りの料理がのっかっていた。
対照的にシャマルはバランスよく皿に料理をのせていく。プログラムの存在とはいえ、体重やプロポーションは
食べた分だけ変化するのである。
「それにしてもよく受かったわね。合格率15%だっけ?」
一通り料理をのせ終えたシャマルがシグナムに話しかけた。
「ああ。もともとテスタロッサには才能があったからな。十分努力もしたようだし、当然の結果だろう」
大きな肉の塊を口に放り込みながらシグナムが答えた。
(まったく!なんでシグナムはあれだけ食べてるのにこんないいプロポーションしてるのかしら。
今さらながらプログラムを組んだ人を恨むわ…)
フォークをくわえながらシグナムの体をじろじろ見るシャマルだった。
「でも、これからもっと忙しくなるんでしょ?」
アリサがグラスに飲み物を注ぎながらフェイトに尋ねた。
「たぶん…。まだ研修みたいなのもあるけど」
フェイトがアルフの分の料理を皿にのせながら言った。ちなみに今のアルフは子犬フォームである。
なのはの世界にいるときはいつもこの形態になっていたのである種癖のようなものだった。
「でも学校もちゃんと通うなんてすごいよね」
すずかが感心しながらフェイトを見た。
「学校でしか学べないことってあるから。それに…」
周りの4人を見渡しながらフェイトが続けた。
「なのは達がいる学校にもっと通っていたいんだ」
「わたしもだよ、フェイトちゃん!」
なのはがとびきりの笑顔を見せながらフェイトに微笑んだ。
アリサ、すずか、はやてもお互いを見て微笑みあった。
「そう言えばユーノくんは?」
ふと思ったなのはがフェイトに尋ねた。フェイトから連絡を入れたと聞かされていたので自分からは敢えてしなかったが、
今パーティーに姿は見えない。
「あ、うん。つい最近までミッドチルダに帰ってて、今こっちに向かってるらしいからそろそろ着くと思うよ」
そう言いながらフェイトは合格発表当日のことを思い出した。
*
(やるべきことはやった。…大丈夫。きっと受かってる)
祈るような気持ちで発表を待った。他の受験者とは違い、クロノが直々に合否を伝えにくると聞かされていた。
(たとえ落ちてても、何度でも受ける。受けるごとにわたしは強くなってるんだから)
自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。今この場にはいないユーノの分も強く…。
フェイトは静かに目を閉じた。
ユーノはというとフェイトより早くに司書長に就任し、一族の皆に報告するやら発見した古代魔法の論文を発表するやらで
遠くのミッドチルダに旅立っていた。
出発当日、フェイトは合格発表に付き添えないことで何度も何度も謝られた。
別に怒る気は毛頭なかったが、その必死に謝る姿にいたずら心が生まれ、もし合格したら祝賀会には必ず出席すること、
という条件をつけて許すという形になった。
(あの時のユーノの顔…面白かったな)
クスクスと思い出し笑いをしていると、なんとなく緊張が和らいだ。
目を開いて時計を見ると発表の時間となっていた。
(時間だ…)
バシュっと扉が開き、時間きっかりにクロノが部屋に入ってくる。
部屋の中央にたってフェイトと向き合った。
「それじゃあ、発表する。フェイト・T・ハラオウン」
胸から紙を取り出しフェイトに見えないように広げた。
「はい」
ドクンドクンと自分の心臓の音が聞こえてくる。この部屋だけ時間が止まったような、そんな気さえした。
ごくりと生唾を飲んだ瞬間、クロノが微笑みながら言った。
「合格だ。おめでとう」
合格の記載がされた紙をくるっとフェイトの方に向けた。
聞いた瞬間フェイトの目は見開いた。今度こそ自分の時間は完全に止まった。
「え…え?」
まだ理解できないフェイトにクロノが呆れ気味に言った。
「自信がありそうだったからすぐ受け入れると思ったんだがな。まあ僕も合格した時は今の君みたいに…」
「〜〜〜〜〜〜!!!」
喜びで声にならないフェイトは勢いよくクロノに抱きついた。
「お、おわぁ!!」
その衝撃で後ろに倒れこみそうになったがなんとかクロノは持ちこたえた。
「う、受かった!わたし、受かったよ!!!」
両肩に手をかけられてガクガクと揺さぶられるクロノ。
「わわわわわかったから、わかったからちょっとおち、落ひふいてふれ、フェイト!」
クロノは何度か舌を噛みながら必死に抗議した。
「あ!ご、ごめんなさい…」
グルグルと目を回すクロノを目の前にしてようやくフェイトの心は落ち着いてきた。
「ああ!!そうだ!れ、連絡しなきゃ!それじゃ!!!」
クロノそっちのけで部屋を飛び出すフェイト。もちろん合格を伝えたい人は大勢いるが、第一報を知らせたい人がいた。
そのため、遠くの次元へ連絡がとれる管制へと駆けていった。
「まったく、先が思いやられるな」
片手で頭をかきながら一人部屋に残されたクロノが呟いた。本当は執務官になるにあたっての心構えを語るつもりだったが、
当の相手はなにやらお急ぎのようだ。
「…でも本当に、よかった」
家族の一人として、大切な妹の成功を喜んだ。
*
「ま、別にいいんじゃない?来なくても」
アリサがあっさり言い放った。
「ア、アリサちゃん!?」
すずかが驚いたようにアリサを見た。
「来てもまたこき使ってやるから、覚悟しなさいよ〜」
不敵な笑みを浮かべるアリサをなだめるようにすずかが言った。
「ま、まあまあ、もう3年も前のことなんだからそろそろ許してあげないと…」
「そうやでアリサちゃん。ユーノくん、この世界にくるたびにアリサちゃんにパシられとるやないか」
「にゃはは…」
自分も隠していた一人としてなのははただ笑うことしか出来なかった。
一緒にお風呂に入ったり、動物のふりをして可愛がられたり、たしかに小学6年生になった今ではちょっとまずかったと
なのはも思うが、お互い幼かったわけだしここは一つ水に流してほしいと思うばかりである。
「だ、駄目だよ!!」
少し声を荒げて言うフェイトに4人が驚いたように振り向いた。
急に視線が集まったのでフェイトは恥ずかしそうに小さくなりながら話した。
「えっと、その、ね?ユーノには忙しい中勉強教えてもらってたし、わたしが合格できたのはユーノのおかげもあるっていうか…」
語尾に近づくにつれ声が小さくなっていくが、その意志は確固たるものであることはその場にいる4人にはすぐわかった。
「ま、まーそういうことならしょうがないわね!レディを待たせるのも問題だと思うけど!!」
フェイトの顔が紅いのが気になったがアリサは強引に話を続けた。
(ほんとはアリサちゃんも来てほしいんだよ)
(ほんまに素直やないな〜アリサちゃんは)
「そこ!!言いたいことがあるならはっきり言いなさい!!!」
ぼそぼそと話すすずかとはやてをびしっと指差しながらアリサは叫んだ。
その4人の様子を静かに見ていたなのはは少しおかしな気分になっていた。
(フェイトちゃんとユーノくんが二人でお勉強して、それでフェイトちゃんが合格したんだよね…。
ただそれだけなのに、なんか変な感じ…)
胸に広がる不思議な感覚に戸惑うなのはだった。
「よっしゃ!ユーノくんが到着するまで場つなぎや!!
シャマル、普段から家で練習しとった一発芸を披露するチャンスやで!!」
元気よく立ち上がったはやてがシャマルを名指しした。
「してないしてない!!わたし、そんなことしてません!!!」
シャマルがぶんぶんと両手をふり必死に否定した。
「んだよ、使えねーなシャマルは」
ごちそうに囲まれて十分料理を満喫したヴィータがつまらなそうに言った。
「(ピキッ)それじゃあ一番シャマル、いきまーす!!クラールヴィント、導いて!!!」
『Jawohl』
クラールヴィントが円状になり旅の鏡を作る。
「こんなんでましたけどー」
ヴィータの胸からずるっと手が出てリンカーコアが露出する。
「ぎゃああああああああああ!!わ、笑えねー!!笑えねーよ!!!」
じたばたともがいていると手が引っ込んでいく。
「ヴィータちゃんは前からちょーっとわたしを軽く見てるようだから身の程を教えてあげたまでよ」
「んだと!!やんのかよ!」
がるるるとヴィータとシャマルがいがみ合った。
「こらこら、そうすぐ喧嘩したらあかん。でないと次はシグナムに歌ってもらうで」
「「すいません」」
「な、納得いかん!!!」
ヴィータとシャマルが静かになり逆にシグナムが叫んだ。
「…天丼だな」
静かにザフィーラが呟いた。
「なんだい、まだ食べたりないのかい」
「む…忘れてくれ」
不思議そうに尋ねるアルフに恥ずかしそうにそっぽを向くザフィーラだった。
そんな楽しげな(?)時間を過ごしていると部屋の端に少し大きめの緑の魔法陣が現れた。長距離用の転移魔法だ。
「準主役の到着のようやね」
みなが期待してユーノを登場を待ったが、魔法陣に人影は現れなかった。
「あ、あれ…?」
フェイトが少し不安そうに嘆いた。
「ってフェレットやん!!!」
一番最初にその存在に気づいて激しいツッコミをいれたのははやてだった。
「あ、遅れてごめんね」
ユーノは料理がのっていたテーブルに乗りぽりぽりと頭をかいた。
「ちょ、ちょっと!!なにまたフェレットのふりしてんのよー!正体を現しなさい!!!」
アリサがぎゅ〜っとフェレット形態のユーノを締め上げる。
「ちょ!ぐるじっ!!死ぬ!!死ぬって!!!!」
じたばたともがくユーノの様子を見て、なのはとフェイトがあわててアリサからユーノを解放した。
きゅ〜っと目をグルグルと回しながらなのはに抱かれるユーノ。
「アリサちゃん、動物虐待はよくないよ」
たしなめるように言うすずかにアリサが反論した。
「動物って!人間じゃん!!あれ?人間も動物か。…と、とーにーかーくー!さっさと元に戻りなさいよ!!」
「これがりふじんってやつだな」
「そうやでヴィータ。しっかり覚えとき」
人のふりをみてヴィータを教育するはやてだった。
*
「ミッドチルダからここまではかなり遠いから、フェレットの方が移動が楽だったんだよ…」
いじいじと机にのの字を描くユーノ。長旅の疲れもあってかしばらくはフェレット形態だったが、
ようやくついさっき元の姿に戻ったのだった。
「ふ、ふん!情けないわね!!」
ちょっと申し訳ない気持ちのアリサだったが、口から出てくるのは全く逆の言葉だった。
その場にいる大半の人がそのことを理解していたのでだれもそのことについては触れなかった。
「ユーノ…」
一息ついた場の様子を見計らってフェイトが話しかけた。
「あ!フェイト。合格おめでとう!って一番最初に言うべきだったね」
「ううん。いいの。来てくれて嬉しいから…」
微笑みながら話すユーノに少し恥ずかしげにフェイトは俯いた。
周囲の人間には周りと少し違う空間が出来上がっているように見えた。
「お、おい、シグナム」
ヴィータが背伸びしながら小さい声でシグナムに話しかけた。
「何も言うな。野暮というものだぞ」
シグナムが静かに目を伏せて言った。
「ちょ、ちょっと、なんなのよもう」
アリサは不機嫌そうに呟いた。
「なんや、いい雰囲気やな〜」
「う、うん。そうだね…」
ニヤニヤしながら話すはやてと、アリサの様子が気が気でないすずか。
「…………」
なのはは黙ってその光景を見つめていた。なにやら胸がチクリと痛んだ気がした。