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[171]名無しさん@ピンキー 2006/03/03(金) 00:56:15 ID:il/6ARq5
[172]名無しさん@ピンキー 2006/03/03(金) 00:56:53 ID:il/6ARq5
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[177]名無しさん@ピンキー 2006/03/03(金) 01:00:05 ID:il/6ARq5

魔法少女リリカルなのはA's+ 第七話 「不倶戴天」

男二人が黙々と繁華街を歩いていく。その殺伐とした雰囲気に周りの人々は次々と道をあけていった。
「まったく、久しぶりに会うのが君か」
クロノはつまらなそうに言った。
「それはこっちの台詞だよ。ほんと、わざわざ遠出してきてクロノと顔合わせなきゃならないんだから
たまったもんじゃないよ」
ムッとしたユーノが眼鏡をついっと上げながら嫌味たっぷりに言い返した。ミッドチルダの中心地は大いに賑わいを見せ、
超高層建築がそんな二人を覆い隠すようにそびえたっていた。


―――数日前


「出張ですか。でもどこに?」
クロノは少し驚いたように言った。現在アースラは整備中で動けないとはいえ、艦長である自分が行くほどの用事なのだろうか。
疑問に思っていると、提督であるリンディがその疑問に答えるように言った。
「ミッドチルダによ。ある書類を取ってきて欲しいの」
「ある書類…。余程重要なものなのですか」
真剣な表情でクロノが言った。自分にも聞かされていないこととは余程の大事である。
しかし、リンディはあっさりこう返した。
「ううん。全然」
「な!?じゃあなんでわざわざ…」
ズルっとこけそうになるのをなんとかこらえ顔をずいっと前に出すと、リンディがピッと人差し指を立てクロノを静止させた。
「うちに忘れちゃったの」
「うちに…?」
たしかにミッドチルダ出身なのでハラオウン家のうちがあり、たまに家族で過ごすこともある。
この前も休暇で家族で過ごしたばかりだ。
「自分で行ってくれよ!!」
怒るよりも呆れが先にたった。家に忘れものをしたからお使いに行ってくれ?まさにガキの使いである。
リンディは両手を合わせてクロノに頼み込んだ。
「お願い!今私もフェイトも手が離せなくって…。それに家族以外の人に行かせるわけにもいかないでしょう?」
潤んだ瞳でいわれるとなにも言い返せなくなる。確かに今の自分は暇であるし、理由としても十分のように感じるが…。
そう思っていると笑顔でリンディが付け加えた。
「それに、今ミッドチルダにあなたの仲の良いお友達もいるみたいよ?」
「仲の良い…お友達…?」
いぶかしげな表情で母の顔を見たが、一貫して笑顔を崩さなかった。もう引き受けるしかない。クロノは自分に言い聞かせた。

                 *

ミッドチルダの温暖な気候が無駄な出張による陰鬱とした気分を晴らし、クロノの足取りはいくらか軽くなった。
(前来たばかりだけど、やっぱり悪くないな)
とりあえず自分のうちにあった書類は持って帰るのもめんどうなので転送業者に頼んだし、一件落着である。
ただこれだけのために長距離を移動したかと思うと沸々と怒りがわいてきたがなるべく思考の隅へと追いやった。

「うわっ!!」
周りを懐かしむように歩いていると、ふいに誰かにぶつかった。前が見えないくらいの何冊もの本を持ち歩いていたようで、
辺りに本が散らばった。
「あ、すいません!前がよく見えなくて…」
女性らしい声と栗毛色で長髪の相手がすぐに地面に這いつくばり本を拾い始めた。
「いえ、こっちもよそ見していて…手伝います」
そう言って本を拾うのを手伝おうとした瞬間相手の手と触れ合った。
「「あ……」」
暖かい感触を手に感じ、少し恥らいながらクロノは顔をあげた。

「「あ…あ、あああああぁぁぁぁぁああぁぁあああ!!!!!!!!」」

クロノの小さなロマンスは地獄とかわり、男二人の叫び声があたりにこだました。

そして冒頭に戻る。


「それで、クロノは何しにきたの?」
いつまでも怒っていてもしょうがないと思ったのか、ふぅっとため息をはいてユーノが話題をふってきた。
「に…任務だ。詳しくは言えない」
あまりに致命的な話題にクロノは嫌がらせかと思ったが、よく考えたら普通の疑問であるし、唇を噛んでリンディへの怒りを露にした。
もちろん表情は崩さない。
「それで、君こそなんの用事でここにいるんだ?」
自分のことは極力語りたくなかったのでとりあえずなんでもいいからとオウム返しな質問をした。
「僕は一族のみんなに顔を合わせに行ったり、あと、学院に呼ばれてちょっと講義をしてきたんだ」
ユーノは魔法学院を出ている。時空管理局の司書長ともなるとなかなかの高官だ。名誉生徒に選ばれても不思議はなかった。

「クロノこそ、艦長なのにこんなとこで遊んでていいの?」
ジト目で見られ、とりあえずこれ以上の追求は避けるべきと思い適当に言い訳した。
「今は整備中だしもともと局員は常駐ではないからな。それぞれの任務をこなしているから問題はない。それより…」
少しふんぞりかえってちらりとユーノを横目で見た。
「き、君はなのはとうちの妹、どっちを選ぶつもりなんだ?」
「ぶっ!!!」
ユーノがあからさまに吹きだした。もちろん笑いではなく驚きから来るものだ。
クロノは少しドキドキした。気になることではあったが実はこういう話題を自分から振るのは初めてである。
「なななな何を急に…」
相手のあわてる様子を見てクロノは少し心が落ち着いた。なにか得意な気分になり、責めるようにさらに続けた。
「受験勉強から妹が世話になっているのは知っていたが、たまに遊んだりしているようじゃないか。しかも、君の髪留めは
なのはと同じもののように見えるが?」
笑いをこらえながらユーノに言うと、予想通りの反応が返ってきた。
「あああああ遊ぶって言ってもみんな一緒だし、たしかに二人で遊んだこともあるけど、あ、あれはデートじゃないし、うん」
なにか自分自身に言い訳しているようで見ていて可笑しかった。
(は!?これじゃあエイミィそのものじゃないか!!!)
自分が普段いじられていたが、いざ逆の立場になってみると反動からか異様に面白く感じている自分に気がついた。
(いかんいかん…)
気分を落ち着けるために深呼吸を吐いた。

「それになのははクロノとの方が…」
「ん?なんか言ったか?」
ユーノが何やら言った気がしたが感情の制御で精一杯だったクロノにはまったく届かなかった。

尋問という談笑をしていると、ふいにアースラから通信が入った。
端末を見ると緊急であることがわかり、一瞬にしてクロノは艦長としての顔になった。
「どうしたエイミィ」
なるべく冷静に対応する。ユーノがいぶかしげにこちらを見ているのが目に入った。
「クロノくん!今すぐ指定する座標に向かって!!ジュエルシードが強奪されたの!!!!」
「なに!?」
本当に驚いた。PT事件から数年、12個のジュエルシードは次元管理局で保管・封印されていたが、まさかそれが奪われるとは…。
「それで犯人は?」
被害状況、原因究明と色々聞きたいことはあったがとにかく犯人の足取りが知りたかった。
次元干渉型エネルギー結晶体であるジュエルシードが悪用されれば次元断層も起こすことが可能だ。
ただ、その機能は現在凍結され、たとえ封印が解除されてもしばらくは使えないだろう。
「今なのはちゃんとフェイトちゃん、アルフが向かっててもうすぐ接触する。相手の一度の転移距離が半端じゃなくて
武装局員じゃ追いつけなくて…」
「はやては?」
「はやてちゃんとヴォルケンリッターは別件で任務中で…。終わり次第向かわせる」
「わかった。今すぐ向かう。アースラは緊急発進、敵のいる次元に移動。転移中も戦闘状況を報告してくれ」
「了解!」
ピッと端末を切るとカードを一瞬にして杖にかえ、意識を集中する。

「待って!!」
途中でユーノが呼び止めた。
「なんだ。大体聞こえただろう。緊急事態なんだ」
いらついた表情でユーノの顔を見ると、こちらを力強く見つめていた。
「僕も行く」
ユーノはそう言いながら服を一瞬にしてバリアジャケットにかえた。昔のフォームとは異なり、若干大人っぽいものとなっている。
「…君では…」
言おうとした瞬間強い口調で遮られた。
「ジュエルシードを発掘したのは僕だ。責任は僕にもある」
少し間をおいて真っ直ぐとこちらを見据えて言った。
「足手まといにはならない。絶対に」
ユーノとの付き合いは結構長いが、その時の顔はクロノが見た中で初めてものだった。覚悟と信念を感じさせる、そんな顔だ。
たぶん駄目だといってもくるんだろう。少し自分を落ち着けるためにふぅっと息を吐いて言った。
「わかった。行くぞ」
「ああ!」
そう言うとユーノが手をかざすと地面に緑色の魔法陣が現れ、一瞬にして二人は姿を消した。

                 *

「スティンガーレイ!!」
高速の光の弾丸が光の槍に当たりその軌道を変えた。
「兄さん!?」
妹であるフェイトがこちらを驚きの表情で見ている。バリアジャケットもボロボロで重症に近いダメージを
受けているように見える。

「ようやく来たか…」
魔導師は口の端をあげて言った。
「なに?」
クロノが言った瞬間魔導師がなにやら呪文を唱え片手を天にかざした。
魔導師を中心に魔力が広がっていく。
通常の半球状の結界とは違い、なにやら空間自体に魔力を感じる。明るさも普段と変わりなく眩しい光が上空の三つの光源から
依然放たれている。強力な結界であることはすぐにわかった。
「…なんのつもりだ?」
その隙にクロノがフェイトのバインドを解きながら尋ねると、魔導師があげていた腕をゆっくりとおろしながら答えた。
「4人では逃げられる可能性があるからな。念のためだ」
「大した自信だな。まだ勝つ気でいるのか?」
相手の口ぶりに怒りがわいたが、そこは冷静に抑えた。怒りは思考を鈍らせる。

「お前、何者だ?」
「…………」
目の前の魔導師は無口にただこちらを見下ろしてくる。

エイミィからの報告どおり、少し長めの黒い髪と黒い瞳。自分と同様一見するとなのはの世界の日本人のようにも見える。
ただ、その鋭い瞳からは確かな殺気が感じられた。今までの任務でこれほど死を感じる現場があっただろうか。
デバイスは持っておらず、戦闘状況を聞く限り相手は結界魔導師だ。それも超一流の。
途中でアースラの監視モニターがジャミングされたが相手が強く時空管理局局員に私怨を抱いていることがわかった。
今まさに妹を殺そうとしていたのだから。

「増援を待っていたのか?」
先ほどの口ぶりと、さっさと他次元へ移動しない様子を見て聞いた。
「…………」
やはり何も言わない。どうやらかなり慎重なタイプのようだ。言葉を選び、状況を見ている。
「答えろ!!!」
少し強く問いただすと、魔導師はつまらなそうに違う方向を見ていった。
「いいのか。あっちは」

その視線の先を見ると、ユーノが手の平から血を流しているのが見えた。どうやら光の槍を正面からうけとめ
シールドを少し貫通したらしい。バインドを解かれたなのはがそばに寄り添っているのが見えた。
(足手まといにならないって言ったくせに…)
と思ったが、同時にしょうがないことだとも理解していた。あの高密度の魔力攻撃はこっちだって軌道を変えるのが
精一杯だったし、なによりユーノはこの4年間戦闘にほとんど参加していない。

「いくぞ、フェイト!」
「うん!」
魔導師を避けるように二人の元に飛んでいった。その様子を魔導師は無言で見つめていた。

                 *

「妙なる響き、光となれ、癒しの円のその内に、鋼の守りを与えたまえ」
ユーノが使える高位結界魔法、ラウンドガーダー・エクステンド。
防御と肉体・魔力の回復を同時に行う結界がなのはを包み込んだ。
「そんなことより、ユーノくん、手!!」
なのはが自分の肩を抑えながら叫んだ。
「あ、うん。適当に包帯まいとくから大丈夫。それよりなのはのほうが重症だよ」
相手との相性が悪すぎた。当たらない攻撃、超近接戦闘型、シールド展開より速い攻撃となのはの長所がことごとく
つぶされている。フェイトより攻撃が集中しているのは頷ける。
(あいつ…ほんとになのはのことを…)
怒りで歯をくいしばった。自然に手にも力が入り血が吹き出る。
(だけど…)
転移の途中でエイミィから聞いたが、相手の強さは圧倒的だ。なにやらこの次元に仕掛けをほどこしてるようだが、
管理局でもトップクラスの実力を持つなのはとフェイトが二人がかりでもまるで歯が立たない。
おそらくクロノと自分が加わっても同じだろう。
相手の鉄壁の防御と完璧な回避能力、そして奇襲。どれをとってもこっちが不利だ。
「ユーノくん…」
なのはが不安そうにこちらを見ている。遠くからフェイトとクロノが飛んでくるのが見えた。
どうやら魔導師はまだこちらに向かってきてはいないらしい。

(みんな殺されるか…………いや、方法はある。一つだけ)

いくつかの方法は考えたが、確実なのはどうやらもう一つしか残っていないようだ。
できれば使いたくないが、逃げられないならどうしようもない。ユーノは覚悟を決めたように血の吹き出る手を見つめた。

「いい方法がある。みんな聞いて」

4人が集まり、ユーノの作戦に耳を傾けた。最初で最後のその作戦に。


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