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[330]名無しさん@ピンキー 2006/03/12(日) 13:16:26 ID:UQ9APrFd
[331]名無しさん@ピンキー 2006/03/12(日) 13:17:03 ID:UQ9APrFd
[332]名無しさん@ピンキー 2006/03/12(日) 13:17:41 ID:UQ9APrFd
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[335]名無しさん@ピンキー 2006/03/12(日) 13:19:58 ID:UQ9APrFd

魔法少女リリカルなのはA's+ 第十話 「絆」

「もーー我慢できない!!!ねぇ!!フェイト、ちょっとこっち来なさいよ!!」
「ア、アリサちゃん!」
アリサの怒声に教室の喧騒は一気に静まりかえり、周りの視線が集まった。もうそろそろ次の授業が始まろうとしていた。
すずかはおろおろとしているだけで今のアリサを止めることはできなかった。気持ちは痛いほどわかるから…。
「立って!ほら、立ちなさい!!行くわよ!!」
「………」
アリサは強引に腕をひっぱりフェイトを引きずるようにして教室を出て行った。
すずかが謝るようにぺこりと頭をさげ、その後についていった。


もう授業は始まっており屋上にはだれもいなかった。風もなくおだやかな晴天である。
しかしそんな気分のよい天気であるにもかかわらず、屋上は暗雲のような雰囲気に包まれていた。

「なのははもう二週間以上も学校休んで!!フェイトも学校に来たかと思ったら死んだような目をして話もまったく聞かない!!
馬鹿でもわかるわ、なんかあったって!!!」
アリサがいままでの鬱憤を晴らすように怒鳴った。
「いいから話しなさいよ!!!」
「ア、アリサちゃん…言いにくいことかもしれないし…それにはやてちゃんは任務って言ってたよ?」
なのは同様、はやても学校にまったく来ていなかった。メールを送っても返ってこない。
今まで任務で学校を休んだりすることは何度かあったが、こんなに長期間休むことはなかった。
「…………」
それでもフェイトは黙って視線をそらしていた。そんなに自分達は信用がないんだろうか…。こんなにずっと一緒にいるのに。
アリサの怒りは頂点に達した。
「なんとか言ったらどうなのよーー!!!」
フェイトの胸倉を掴んで詰め寄る。
ガンッと屋上の金属製の扉にフェイトがぶつかった。
「ね、ねぇ、もういいじゃない…そのへんに……」
「ユーノが……」
すずかのなだめの言葉を遮るようにフェイトがアリサを見ずに言った。
「え……?」
ようやく返ってきた返事に意外な名前が出てきてアリサは驚いた。
その様子を横目で見ながらフェイトが続けた。
「ユーノが……………死んだ」
「「!?」」
あまりの衝撃に二人は息を呑んだ。
「う…嘘……でしょ……?」
掴んでいた胸倉を離し、アリサは2,3歩あとずさった。すずかは口に手をあてて固まっている。
フェイトは無言で首を振った。
頭のいいアリサでもその言葉は理解できなかった。いや、理解したくなかった。
(あいつが……死んだ?)
まさか、そんな……
だって…え?
思考がぐるぐると回る。絶対に到達したくない結論をいつまでも回避するかのように。
しかし、その思考の円運動は最後には中心に収束した。
「あ…あたしは……なのはとフェイトが好きだから……諦めたのに……それなのに!!なんで!!守ってあげなかったのよ!!!!」
アリサが目をぎゅっとつぶって叫んだ。長かった髪の毛は今は短く切りそろえられている。
もう何も見たくなかった。何も考えたくない。
「アリサちゃん…」
すずかがぽんっとアリサの肩に手をのせた。
アリサが涙でにじむ目を開けてフェイトを見た。
「あ……」

フェイトは泣いていた。声も出さずに。目には何も映っていなかった。……そう、何も。
(一番つらいのは…なのはとフェイトだもんね…)
アリサは力が抜けその場に座り込んでしまった。


真っ暗な思考の闇の中、フェイトは最後のあの時に聞こえたユーノの声を思い出していた。

『フェイ……3年前……あり……う…』

(フェイト、3年前、ありがとう?)
聞こえた文字を一番可能性が高い単語に置き換える。
(……3年前……)
フェイトは少しずつ昔のことを思い出していった。

                 *

「え、映画?ぼ…僕と一緒に?」
ユーノの目は完全に点になっていた。
「うん。だ、駄目?」
フェイトが上目遣いにユーノを見上げた。
「だだだだ駄目だなんてと、とんでもない!!!で、でも、いいの?試験勉強は?」
あまりに突然の申し出にユーノはつい否定的な意見を言ってしまった。
「あ…うんっと…息抜きも必要かなって」
机に広げてあったたくさんの本を積み上げながらフェイトが言った。
「ユーノだって最近働きづめでしょ?」
無限書庫の管理に加え、なにやら魔法の研究もしているようだ。そんな中勉強も一緒にやってるんだから
フェイトより疲れているはずである。
「あ…うん」
たしかに最近はあんまり休んでないとユーノも思っていた。それに、なのはの世界の映画とやらも一度は見てみたかった。
「わかった。楽しみにしてるよ」
「ほんと?よかった!」
さすがのユーノも可愛い女の子からのデートの誘いを断るほど鈍くはなかった。
(ん?デート…?いやいやいやいやいや!!!!い、息抜きだから、これは!)

やはり鈍かった。

映画の内容は離れ離れになった恋人が再び出会うというなんともありきたりなストーリーであったが、
演出はとても凝っていて終わる頃には館内ですすり泣きの声が聞こえてきた。
試験勉強を開始したあの日、なのはとクロノを見て飛び出してしまったユーノをなんとか慰めたくて今回勇気をふりしぼって
誘ったフェイトだったが、始終隣に座る少年が気になってしまってほとんど集中して映画を見れなかった。
少しでもなのはの代わりになれれば。当初はそう思っていたが、自分の中にまったく別の感情があることに気づいた。

自分を見て欲しい。誰かの代わりではなく。その笑顔を自分だけに向けて欲しい、と。

そのような複雑な想いを胸に、明るくなった館内で隣に座るユーノを見てフェイトはぎょっとした。
次々と流れ落ちる涙を必死に服の袖でぬぐい号泣していたのだ。
(か、可愛い……)
本人に言ったら怒りそうだがフェイトは素直にそう思った。
「うぅ…よかったなぁ……ってフェイト、もしかして面白くなかった?」
驚きの表情でこちらを見てくるフェイトにユーノは恥ずかしそうに言った。
「う、ううん!!ち、違うの!その…と、とっても感動したよね!!!」
全然見てなかった。そんなことは口が裂けても言えなかった。
「そうだよね…。やっぱり絆があれば、絶対また巡り合えるんだよね」
ユーノがごしごしと目に残る涙をぬぐいながら言った。
「うん…」
おぼろげながら映画の内容を思い出すフェイト。こんなことならちゃんと見ておけばよかった。
DVDが出たら絶対買おう、と思った。
「僕には本当の親って呼べる人がいなくて……。でも、いつの日か会えるんじゃないかとも思ってるんだ。
諦めたら、そこで絆は切れちゃうような気がして…。無限書庫で一族ともなのは達とも離れて暮らしてるけど、
みんなとの絆があるから寂しくない。だって、また会えるんだから」
映画に感化されたのか、普段は口にしないようなことをユーノは話した。
(ユーノ……)
その真っ直ぐな瞳を見ていると、フェイトは胸が高鳴り顔が熱くなるのを感じた。
「あ…あのね…」
フェイトが何か言おうとしたとき、急にアースラから通信が入った。
『テスタロッサさん!!休暇中申し訳ありませんが、至急こちらに来てください!!』
目の前の魔法陣に詳細と座標が示される。
「あ……」
あまりに突然のことでユーノを呆然と見つめる。
「僕が送るよ」
そう言いながらユーノが手のひらをかざすと緑色の魔法陣が足元に広がった。
「みんなの助けになってきてね」
「あ、ちょっと、ユーノ!?」
何も伝えることができずにフェイトはそのまま転送されてしまった。


周りを見渡すと館内はすでに人がいなくなっていた。魔法は見られなくてすんだようだ。
一人残されたユーノが帰ろうとすると、ふいにあることに気がついた。

「あ!!お礼、言い忘れちゃった!!!」

それからユーノはデートをしたという恥ずかしさからか、何度もお礼を言う機会を逸し続けたのはお約束である。

                 *

(そっか。あの時のお礼か…)
思い出から現実にもどるように目を開いた。
座り込んで泣きじゃくるアリサをすずかが必死に慰めているのが見えた。
(絆…か)
ユーノが言っていた言葉を思い出す。

『やっぱり絆があれば、絶対また巡り合えるんだよね』

『諦めたら、そこで絆は切れちゃうような気がして…』

少しずつ、フェイトの瞳が輝きを取り戻す。
(ユーノが死んだ?まだ…そう決まったわけじゃない)
もはや絶望的との次元管理局からの報告。そんなものを自分は信じていたのだろうか。

スッと立ち上がる。まだ自分のやれることを全部やっていない。
「フェイトちゃん?」
その様子を見てすずかが驚きの声を上げ、アリサが充血した赤い瞳でこちらを見上げた。
「ごめん!まだ死んでない!!うん、ユーノは絶対生きてる!!わたしが見つける、だからアリサとすずかは待ってて!」
そう言ってバルディッシュを取り出す。

そのデバイスはひたすら待っていた。今この瞬間を。そして信じていた。自分の主人は絶対に立ち直ると。
キラリと輝き、フェイトの意志に答えた。
『フェイト!緊急収集!!クロノが呼んでるよ!』
突然アルフから念話が入った。みんな動き出したらしい。自分もいつまでも悩んでいられない。
『うん!わかった。すぐ行く!!』
『う…うん。早く来とくれよ!』
この二週間死んだようだった自分の主人の変わりようにアルフは驚きながらも念話を切った。
フェイトは転移せず、空中に飛び出す。アースラに行く前に会わなければならない人がいた。
自分と同じく失意の底に沈み、彼に想いを寄せる自分の友人。

「それじゃあ、アリサ、すずか!!絶対見つけてくるから!!!」
そう言ってフェイトは高速で学校の屋上を飛び去った。


「フェイトちゃん……よかった」
なにがそうさせたのかわからなかったが、立ち直った様子のフェイトをすずかはフェンスごしに見送った。
「連れてこなかったら、ただじゃおかないんだから!」
涙をぬぐいながら言うアリサは、怒った顔をしながらも心は落ち着き穏やかになっていた。

(無事に……帰ってきなさいよね…)
友人達の安全を祈るようにアリサは青く澄み渡る空を見上げた。


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